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クロアケダンジョン第二層後半戦

敵が多数出現して緊急事態に陥った攻略団。

戦闘はすでに始まっている。

 宝箱から生まれたゴーレムは地上部の建物を吸収し、巨大化。

 地下ゴーレムは集合住宅サイズ。

 身の内に100人を住まわせても平気そうな化け物級が二体だった。

 そこに、一軒家サイズの三頭キマイラも加わる。


 俺は、巨大ゴーレムの手に握られ、鎧ごと軋みを上げる人の姿を見る。

 見て学び、伝える。

「『敵の手には絶対に捕まるな!。

  味方が捕まったら、敵が怯むまで攻撃を加えるんだ!

  敵の攻撃を受けたヤツは、たとえ一撃であっても治療を受けてくれ!』」

 しかし、どうしても被害が出る。

 悲鳴が上がる。

 目を閉じて、現実から目を逸らしたくなる。

 その気持ちをグッと飲み込んで、また味方が倒れ、やられていく姿を見た。

 指の形に凹んだ鎧の中、血を吐く男性の姿。

 まだ息があることにホッとしてしまう。

 しかし、重傷者が何人もいて、怪我人は数え切れない。

 ゴーレムの体に重要文化財が使われていることは、もう無視だ。

 敵を倒すことだけに集中する。

 それでなくとも、ゴーレムが動く度に足の関節から石の欠片が飛んでいる。

 おそらく、石同士が擦れ合って剥がれたものだろう。

 この情報を生かせないか。

 他人の戦いを糧に変え、失敗を参考にして、自分の経験にする。

 ゴーレムの質量を考えれば、人の体など簡単に鎧ごと握り潰せるはず。

 そうでなくとも、質量だけで押し潰せる。

 なぜ鎧を砕く程度なのか?

 ゴーレムの肉体には筋肉がない。

 魔力で代用するとしても、あれだけの巨体を動かすためには、そうとう偏り

のある力でなければならないだろう。

 それを可能にするのは何か。

 考える。


 その間にも、犠牲者は増えていた。

 キマイラの蛇尻尾が、軽装の常連組にとっては厄介なようだ。

「『最前衛は親衛隊に任せてくれ!

  盾の裏に隠れるんだ!』」

「馬鹿野郎!! そんなことできるか!」

 ゴドリーが叫ぶ。

 彼の背中には、騎士服の女性が倒れたまま治療を受けている。

 しかし、

「『まずはゴーレムからだ! 他の三匹は足止めで構わない!』」

 こちらも叫び返す。

 無茶をされてはいけない。

「『最も攻撃力が高いものを優先して倒す!

  それが被害を最小限に抑える方法だ!』」

 早く。

 俺がゴーレム打倒の方法を、早く思いつかなければ。

 地上部を吸収し、赤茶けた色に変化しつつあるゴーレムの二体目。

 アレが完成したら負けは確定的になってしまう。

「『地上産のゴーレムは吸収して間もない部位に攻撃を集中!」

  シルヴァレアの救援はまだか!?』」 

「こら、キープ」

 ポスンッ、と後ろから頭を叩かれた。

「焦るんじゃねえよ」

「も、モイト?」

 こんな時だと言うのに、彼女の顔には笑みが浮かんでいた。

 右手には玩具の銃。左手に小車爆弾を抱いて。

「オマエが焦ったら、みんな焦るだろうが」

「ああ」

「で、オレラはどうすりゃいいんだよ?」

「そう、だな」

 どうすればいいのか。

 モイトの手を見て、玩具の銃を見て、閃く。

「射出、か」

 繋がりが薄く、剥がれ落ちる岩の肉体。

 物を動かす原理。

 自由自在な動作。

 魔力。

 そのすべてを組み合わせる、と。

 ゴーレムの駆動方式に、若干の検討が付いた。

「『力の噴射口』があるから、だ」

 ゴーレムの肉体すべて、胴体、頭、手足。もしかしたら、もっと細かく各所

に力を集め、進行方向とは逆向きに射出しているのかもしれない。

 その勢いで重たい岩の体を動かしているのだとしたら、どうだろう?

 検証は必要だが、その可能性は高い。

 しかし、相手が動いている間に、肉体に取り付いて裏側を突く、なんて真似は

不可能である。

 発芽弾を詰めたとしても、力で吹き飛ばされるだろう。

 力を弱めるものが必要だ。

 確か、俺は持っていたはずだ。

 重力の向きを変える物。

「俺の鎖帷子、どこにやった?」

 モイトに聞く。と、少しバツが悪そうに顔をしかめた。

 「いまさらソレを聞くかよ」という顔だ。

「爆弾で吹っ飛ばしたヤツなら、オレが拾ったよ」

「俺も、予備と新しいヤツを買ってある」

「? 返せ、ってわけじゃないんだよな?」

「ああ。ぜんぶゴーレムの足に巻きつけてくれ」

「わかった。面白そうだからやってやるよ」

 モイトは喜び勇んで、鎖帷子を取りにいった。

「裏表を間違えるなよー!

 ゴーレムの足に貼り付けるのは裏! 裏だからなー!」

 相手の力を弱めるために。


 モイトが前線に到着した直後、ゴーレムの足が天を指した。

 テントの天井を貫くほど高く、高く掲げられて、

 「スポッ!」

 と、ゴーレムの足は、足首から先が取れていた。

 モイトのヤツは表を貼り付けたのか。

 そして、重力を外側に向けられた結果、石としての重みを失った足は、内部

から発するエネルギーをそのまま運動能力に変えてしまった。 

 急激な変化に間接が耐え切れず、ポロリといってしまったわけだ。

「この緊張感あふるる戦場で、なにやってんだかな」

 巨大ゴーレムが安定を失い、横倒しになる。

 おそらく現場ではモイトが「いまだーッ!」と突撃している頃だろう。


 彼女のヤンチャは、他人の士気を高める効果があるようだ。


 冷静になることさえできれば、対処はできる。

 よく見れば、ゴーレムの周囲には流れる砂があった。

 噴射口に砂を詰めたり抜いたりすることによって、力を制御している。

 なら、攻撃は無意味じゃない。

 力の噴射口が少し歪むだけで、満足な力は出せなくなる。

「『相手の体を削れー!』」

 叩けば叩くだけ、削れば削るだけ相手の動きが鈍る、というのなら、同じ岩

系のモンスターに比べて「楽」と言える。

 ただし、それも比較的、という域を出ていない。

 巨体は、それだけでも脅威なのだ。

「『敵の攻撃は「叩きつけ」を絶対に避けること!

  上向きの攻撃にはあまり威力がないから乗って上部へ移動できる!』」

「うわああ!?」

 そう指示をした直後、集合住宅並みの高さを誇るゴーレムの体から、一人の

アタッカー。常連組の男が落下して。

 言葉を挟む隙もない。

 男は背中から焼き固められた地面に激突し、痛みのあまりか悶絶した。

 地面に血が流れる。

 自分の指示が、これを誘発するのだと思うと、足がすくんだ。

「うッ!」

 責任の重さから来るものだろうか。

 吐き気を堪える。

 さっきの指示は撤回すべきなのだろうか。

 いまなら、まだ責任を負わずに済むし。

 別の攻撃方法を探して、もっと安全に。と弱気の虫が囁き出す。

 だが、

 そんな暇がないこともわかっていた。

「いま落下した男性に、治療班を!」

「は、はい」

 無駄なことかもしれない。

 しかし、差し向けずには居られなかった。

 いま死者を出すわけにはいかない。


 なぜなら、モンスターとの戦いは長期化するものなのだ。


 ゴーレムの肉体を削る。

 まるで、鉱山を一つ掘り尽くすかのような重労働だ。

 剣はツルハシの代用として使われている。

 全員で、ゴーレムを削り倒す。

 時間を忘れて、ただ攻撃だけに専念していた。

「やっぱオレがいないとなー。倒せるものも倒せねーか」

 彼のことをスッカリ忘れていた。

 ゴーレムの広げた地下の穴から這い出してきたのは、エイシンだ。

「無事だったのか」

「無事じゃねーよ」

 彼はそう言って、自らの隣を指差した。

 エニルがいない。

「まさか」

「いや、運悪く第一層に閉じ込めらたってだけだぜ?

 早く行ってやらねーとな」

 こんな時にも回りぐどいことをする。

 彼自身に怪我はないのか、と言えば、そんなこともなかった。

 全身がホコリまみれ、土まみれ、顔のところどころから出血している。

 ローブで上手く隠している感はあるが、全身のどこに怪我を負っていても、

おかしくはない状況だった。

 地下で自らの治療をしていたのだとしたら、

「大丈夫なのか?」

「子供が大人の心配をしてんじゃねーよ」

 戦線に復帰するつもりらしい。

 というか、エイシンに音札を奪われた。

「『魔法使い連中サボってんじゃねーぞ!

  いまから機械杖の使い方を教える。技は見て盗めー!』」

「魔法召喚術は?」

「アレはエニルがいない時には使えねーんだ」

「そうか。じゃあ」

 エイシンの隣に、トロボロイが並ぶ。

 その顔には怯えを押し殺す、強い意志が見て取れた。

「シルヴァレア様と、こちらの戦場を繋ぎました、です」

「やったな」

「はいです!」

「以降はレアの指示で組織を動かしてくれ」

「プランター様は?」

「俺は」

 本来、戦場の最前線には出ない性質の人間だ。

 他人が頑張っているのを見て、その技術を盗みつつ、敵の弱点を探り。

 そうやって勝つ人間だ。

 丸一日、最強の少女を見詰めて、唯一の弱点を見つけた時のように。

「ブリキの人形になる」

 トロボロイに「?」と首を傾げられた。

 しかし、もうスイッチは入っていた。


 もう馴染んだ感覚、意識がスッと後ろに下がる。

 しかし、今日は少しだけ違っていた。

 劇場化することで、劇場化の仕組みまでもが理解できる。

 ゾーンは意識が無意識に至ること。

 劇場化は無意識の中で、有意識を働かせることだ。

 『本来は必要のないことまで考えること』

 それが、劇場化の正体だった。


 俺は十数個の出来損ない魔法剣を手に、ゴーレムの足元へ。

 真下から見上げる位置まで移動した。

 やるべきことをやってくれる体にすべてを任せて、有意識を働かせる。

 腕の攻撃範囲を考える。

 腰の少し下、腿の辺りまで。

 ゴーレムの意図を探る。次の動きを予測する。

 盾役に攻撃が集中しているため、俺の存在が敵の意識にはないものと察して

側面から足元を狙う。

 蹴り足は無視だ。

 攻撃開始から終了まで、おそらく十秒は無防備。

 盾にゴーレムの足がぶち当たる音。

 視界には入っていなくとも、足の位置を脳裏に思い描いて、あと五秒だ。と

仮定する。

 その合間に軸足へと取り付いた。

 足首の、まだ付いている方だ。

「………」

 台詞も、叫びも、気合いもない。

 岩と岩の接合部に短剣を、短槍を、剣を、十数個の武器すべてを差す。

 ミシリと剣が鳴った。

 おそらく、この程度では剣が折れるだけで終わるだろう。

 しかし、

 片足で立っている不安定な状態から、軸足の間接部に剣を突き立てられれば

さすがのゴーレムもバランスを崩す。

 剣が鳴るも、折れるまでは至らず。

 巨体が足からズルリといった。

「ゴーレムが倒れるぞー!」

 エイシンから警告の声が発せられる。

 その頃には、もうゴーレムは体勢を立て直すことが不可能なくらいバランス

を崩して、後ろ向きに倒れていた。

 まだまだ行けるだろう。

 俺は、戦場に放置された魔法剣を回収しつつ、ゴーレムの足の甲を踏み台に、

向こう脛を蹴り、膝関節へ。

 倒れ行くゴーレムの体を、斜めに駆け上がる。

 これだけの巨体になると倒れた時より、バウンドして戻ってくる反動が怖い

はず。

 そこは、ふわりとジャンプしてやり過ごし、

 ゴーレムの鳩尾に到着した。

 巨体を見下ろす。

「はあ。はあ。はあ……」

 さすがに息が乱れている。

 しかし不思議なことに、怖いとは思わなかった。

 そして「どうにかなる」と思った。

 倒れ付したゴーレムの、起き上がるために最も重要な箇所である鳩尾。胸部

と腹部の境目に立って、拾ってきた魔法剣を振り上げる。

 それと同時に、ゴーレムの体に200人超の剣士達が駆け寄った。

「せーの」

「「おりゃあああああああああああああああーーーッッ!!!」」

 全員の剣が、ゴーレムの間接へ突き立てられる。

 見た目、全身を串刺しにされたゴーレムは、剣が駆動の邪魔をして動けない

ただの木偶人形と化していた。 

「次だ」

「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーッ!!!」

 敵の動きを封じた。

 やってやった、という高揚感が熱に変わり、胸に溜まる。

 俺も素直に喜べばいいものを「次だ」なんて格好つけて。

 何をやっているのだろうか。


「こういうヤツ、たまにいるな。

 緊急事態に陥ると、なぜか冷静になるヤツ」 


 俺は、そういう人間だったのだろうか。

 そんなことを考えながら、次の敵へ向かった。

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