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クロアケダンジョン第一層

モイトとキズオの二人旅。

本当は色々とあったのですが、

 結局、モイトが一緒だからといって、

 俺がモンスターを討伐することはなかった。


 二人旅が始まって、二日目。

 俺とモイトはクロアケダンジョンまで到達していた。

 結局、悪いことは一度もしないままに、だ。


 クロアケダンジョンは、切り開かれた草原の端、

 森の際、崖の三点に挟まれた場所に存在していた。

 俺とモイトが辿り着いたのは、崖の上。

 高台からダンジョンを見下ろして、一言。

「出入り口がないな」

「やっぱ、だよなー」

 ダンジョンの地上部、おそらくは高温で焼き固められたのだろう建物群は、

小さな町くらいの規模で広がっている。

 しかし、崖の上から一見した限りでは、地下への階段らしきものがない。

 建物で隠しているのか。

 あるいは、出入り口そのものがないのか。

「ふむ」

 普通なら建物で隠している、と思うところだろう。

 しかし、ここに『モンスターの姿が一つも見当たらない』という情報が追加

されたら、どうだろうか?

 クロアケダンジョンは一目見て、封印済みのように見える。

 完全に放棄されているようにも見える。

 俺の眼には『迷宮が死んだフリをしているようにしか見えない』のだ。

「火薬を買ってきておいて、正解だったな」

 死に体と偽装するダンジョンのフタに穴を開けよう。

 

 一日経過。

 連結馬車がクロアケダンジョンに到着し、火薬も到着。

 そしてレアにたっぷり怒られた。


 俺は早速と、地上部の中央付近に火薬を設置した。

 周辺への被害を抑えるために鎖で固定しつつ、

 「ボン!」

 クロアケダンジョンの焼き物チックな地上部に地割れのような竪穴が開く。

人が二人同時に余裕で入れるくらいの大きめの穴になった。

 ここに全小隊が突撃したら、焼き物の底が抜けそうだな。

 とりあえずは、危険度チェックだ。

 地割れから、火を付けたタイマツを投下。

 爆発は確認できず。

 火災も起こらず。

 ガスの類は溜まっていないようだ。

 次に音。

 タイマツを投下してから3秒が経過して、

 「ゴイン、ゴイン……」

 と、一層の床にタイマツの当たる音が返ってきた。

 これは思ったよりも、かなり長い。

 10~20メートル。あるいはそれ以上か。

 あとは割れて崩れそうな部分を補修してから、突撃だ。

「ゴドリー小隊。突入するぜ」

「ジレイ小隊。行きますよ」

 先行偵察部隊がロープを使って、クロアケダンジョンの内部に降下する。

 直後に、

「「た、宝箱発見!!」」

 思わず口元がニヤリとする報告が来た。

 しかし、そこで立ち止まってはいられない。

「状況の確認を」

「宝箱一つ。敵影なし。東西南北に通路が一つずつだ」

 残りは壁か。

 やはり迷宮化していたようだ。

 なら、俺が指示を出すか。

「ゴドリー隊、以下ゴドリー指揮11部隊は北方向『B0』へ進行」

 それぞれの現在地を明確にするため、アルファベットは南北を。

 数字は東西を表し、それぞれ十メートル単位で区切っている。

 ゴドリーにも伝わるはずだが、

「了解だぜ! 宝箱の回収は任せたぞ!」

「わかってる。予備部隊は宝箱発見の報告を受け次第、出発回収に向かえ」

 地上に残った数部隊の面々が頷きで返してくる。

 ここで、機械人形が役に立つ。

「こちらゴドリー。C0は通路。D0の右に扉を発見」

 機械の音による報告を、脳内で映像化する。

 通路を出て、すぐ片側に扉。

 ということは、他の三つの通路も同じ構造である確率が高い。

「了解。ゴドリー隊は扉の先を探ってくれ。

 ジレイ隊は南。『-B0』へ進行」

「心得ました。全員、気を引き締めて行きましょう!」

「レア隊は『Aー1』へ。モイト隊は『A1』へ進行してくれ」

「了解です」「了解だよ」

 現在、俺はレア隊から抜けている。

 自分がどういう人間なのかを、ここに来て、ようやく理解したからだ。

 俺は、自らの手を汚すことに抵抗がある。

 現場に出られないのなら、現場を監督する人間に。

 情報処理班に鞍替えすることが、もっとも、俺にとってふさわしい戦場で

あるだろう、という判断だ。

 四つの部隊、合計44小隊がダンジョンを踏破する。

 そのスピードは圧巻だ。

「ゴドリー隊。扉の先に宝箱発見」

「46小隊は回収へ」

「ジレイ隊も-B0において、レア隊、モイト隊も同様に宝箱を発見」

「47、48、49小隊は報告のあった順に宝箱を回収。

 場所は、通路に入って一番最初の扉を潜った先だと思われる」

「「了解」」

 後発の部隊が次々とダンジョン内部に侵入する。

「やっぱり、混線すると一台じゃ辛いな」

 俺の仕事にはマッピングもある。

 報告を受けると同時に、地図を作るのだ。

 おおまかな部屋の広さ、通路の長さ。小隊それぞれに見立てたコマを地図上

に並べて動かしていく。

「レア隊です。分岐路に到達」

「分岐のある地点は?」

「A-10です」

「分岐の数は?」

「2です」

「なら1小隊を待機。5対5に分かれて両方を探索だ」

「了解」

「敵との遭遇は?」

「まだありません」

「そうか」

 何か、おかしい。

 西に100メートル探査して敵影なし。

 地上部の大きさから推察される一層の規模は半径約250メートルだ。

 5分の2を探査してモンスターと遭遇しない、なんてことがありえるのか。

運が良かっただけ、と考えるのはあまりに楽観的すぎるだろう。

「全員、足元に注目してくれ」

「足元ですか?」「なんでだ?」「何もありませんが」

「何かないか?」

「「「特には何も」」」

 レアも、ゴドリーも、ジレイも返事をしてくれたが、一人。

 モイトの返事がない。

「モイト?」

「心拍、上昇中」

 機械の声が冷静に告げる。

「モイト!?」

「足元に、排水溝があるよ」

「!」

 機械の声では判断し辛いが、モイトの緊張感が伝わってきた。

 それで、俺にも想像ができた。

「先行部隊はサンドマンの挟撃に注意。 

 排水溝から上がってくるかもしれない。

 予備部隊は各所の排水溝を塞いで回ってくれ」

「了解!」

 こんなに早く、第二陣を投入することになるとは。

 しかし、出る杭は事前に打つのが俺流だ。

「報告を」

「レア隊。B-12付近でサンドマンの死体を発見」

「死体?」

「おそらく動けなくなり、餓死したものと思われます」

「餓死、って」

 ダンジョンはモンスターにとっての家だろう。

 その中で生活していて、餓死者が出るとは。

 ここを統括する『人の手に負えない者』は、かなりヤバいな。

 低級モンスターを使い捨てにするヤツが相手、か。

「死体なら、無視して構わない」

「了解です」

「モイト隊! 敵と遭遇したよ!」

「来たか」

 予想していたより随分と長い索敵だったが、

「モイト隊は『サーチ』を終了。通路を簡易封鎖して後退してくれ!」

 封鎖と言っているが、使っているのは発芽弾だ。

 物質吸着弾は、ある程度の大きさになるまで質量が増え続ける。

 その性質を利用し、一枚の布に複数の発芽弾を埋め込み、いくら削られても

自動修復する壁を作ったのだ。

 緊急処置的なものだが、上手くいったのだろうか?

 モイト隊からの返事がない。

「何かあったのか」

「でもさ。相手は一匹だよ?」

 サンドマンと戦うつもりらしい。

「後退だ」

「こんなの相手に逃げ出せってのかよ」

「後退だ!」

「へいへい」

 イマイチ従順ではないモイトだが、三度目でやっと言うことを聞いてくれた

ようだ。

「場所はBの27だよ」

「おい、こら」

 東西の違いはあれど、距離だけならレア隊より進んでいる。

 地図上ではA1からB27まで、すべて空白になっているのに、だ。

「そこまで移動してるなら報告しろ!」

「細かいことは苦手なんだよなー」

「分岐とか、扉とか、あったんじゃないのか?」

「2、3個あったよ」

 なんで報告しないのだろうか。

 ずぼら、だ。

 一応、東側に敵影アリ、少なめと書き込んでおく。

「レア隊。Bー20で敵と遭遇」

「シルヴァレア分隊。ーB-18で敵と遭遇」

「簡易封鎖と後退を」

「ゴドリー隊、ジレイ隊、すべての部隊が敵と遭遇しました」

「一斉に、か」

 どうやらモイトが敵と接触したことによって、ダンジョンの端に偏っていた

モンスターが、中央に向けてなだれ込もうとした。

 ということのようだ。

「全部隊。簡易封鎖を実行後に後退してくれ」

「了解しました」

「ふむ」

 一回のサーチで、全体の八割強を把握し、簡易封鎖も実施できた。

 実質的には自分達のエリアとして制圧したも同然だ。

 問題は、

「階段を発見した小隊は?」

「ありません」

 肝心の、次の層に下るための階段は、まだ確保されていない。

 さて、どうするか。

「地上に戻って、もう一度、改めて穴を開けるか」

 探査の不十分だった場所に狙いを絞って。

 いや、サンドマンの脱出口を提供するハメになる。

 ここはやはり、

「とりあえず宝箱を引き上げよう」

 今回の目的、その半分である宝箱の中身を調べる。

 それなくして、今後の作戦続行はありえないだろう。


 ダンジョンの地上部に戻って、穴周辺に防壁も兼ねた巨大テントを張り、

宝箱を並べる。

 発見の報告があったのは五箱。

 追加で捜索した結果、さらに五個の宝箱が見つかった。

 中身は『大量の骨』と『備蓄食料』がそれぞれ二箱。

 崖がある方向には化石か何かが大量に出土するらしく、歴史的に貴重そうな

石像や、石碑、生物の化石が二箱。

 さらに二箱には、モンスターにやられたと思しき冒険者の装備。

 そして、最後の二箱には目もくらむような大量の宝石が。

 途中まで、腐りかけたゾンビのように座り込んでいた人々が、宝石の輝きに

よって、蘇った。

「やっはーい!」

 ゴドリーの絶好調な乾杯の音頭によって、酒が振舞われそうになり、慌てて

止めに入った。

「ダンジョン攻略が残ってるのに」

「いいじゃねえか。最低でも山分けできるくらいの宝はあったんだしな。

 酒盛りの一つもしたくなるってもんだぜ!」

「というか、なんで酒なんか」

 ダンジョン攻略の邪魔になるから、と積んできていないはずだ。

 いったいどこにあったのか。

「敵さんの備蓄食料に決まってんじゃねえか」

「食うのか。毒とか、気を付けてくれ」

「毒見はやってるっての。キズオは心配性すぎるぜ」

「………」

 話を真剣に聞いてくれる雰囲気ではなかった。

 俺は一人でテントの外へ。

「はあ」

 いまは軽く扱われると、ちょっとしたモヤモヤが溜まる。 

 モイトのように自由で楽しく、気持ちの良いことだけができれば。

 こんな気持ちになることもないのだろう。

 たとえば、エイシンのように複数の女性を同時に愛することができれば。

 おそらく楽しいのだろう。

 今日も今日とて、エイシンは蓑にエニルを連れ込んで、フルスも引き連れて

気付けば盗賊団の面々にも手を出して一大ハーレムを形成していた。

 普通に羨ましいと思う。

 しかし、純愛が好ましい、とも思う。

 少なくともレアを好きでいる間は、レアに好かれたいと思う間は、だ。


 しばらくして、テントから人が出てくる「パサリ」という音が。

 このタイミングは、

「キープ。大丈夫かよ」

「レアかと思ったのに」

 モイトだった。

 タイミングの悪いヤツだ。

「恋人じゃなくてもいいじゃん。ほれ、飲みなよ」

 カップに大盛りの水をモイトから受け取る。

 俺が、酒を飲みすぎて吐くために外へ出たもの、と思われたようだ。

 夜空を見上げて吐くヤツもいないだろうに。

「なに悩んでんのさ?」

「俺が楽しいと思うこと、って何だろうな」

「人はなんでも楽しめるはずだよ。

 キープは頭ガチガチだから楽しめないって思い込んでるだけじゃん?」

「法律で禁止されていることを、楽しもうとは思わないだけだ」

「どこかにはあると思うよ。

 キープの楽しめることが、さ」

「どうだろうな」

 本当にわからない。

 窮屈な縛りの中で、俺が楽しみたいと思うもの。

 楽しんでもいいと認められているもの、か。


 俺には『ソレ』が何なのか、明確には見えてこなかった。

 

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