表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

オリベノン、滞在

レアの告白めいた言葉に動揺するキズオ。

途中参加の盗賊団も、まだ集団には馴染んでいない。

今回は、

 魔法剣。

 そう呼ばれるモノが鍛えられるようになって十数年は経つそうだ。

 しかし、まだ完成には至っていないようで。

 オリベノンでレアが買い求め、俺に渡した『熱刀ヒクナギ』は、タイマツ

の代わりになりそうな灼熱色に輝く熱いだけの短剣だった。


 レアはオリベノンの魔法剣を作る会から、大量の駄作を引き取ってきたの

である。


 作る会曰く、魔法剣の製造はひどく難しいのだそうだ。

 一種類の魔力が宿ったもの、たとえば『伝達』の魔力を宿す鉄を材料として

使い、剣を作ることにより魔法剣は誕生する。

 人間の肉体に数千、数万種類の力が宿っているように、

 刀の材料となる鉄にも数千、数万種類の力が宿っている。

 人の目には同じ鉄に見えても、魔力を感知できる者には縞模様に魔力が入り

混じる『くず鉄』に見えるわけだ。 

 それを選り分け、一種類の力を持った刀を打つ。

 どれだけ良質の鉄であろうとも、力が宿らなければ意味がない。

 物質的に優れた刀と、魔法的に優れた刀は違うもの、ということだ。

 しかし、どうやって作るのだろうか?

 人に魔力を感知する能力はない。

 『モノ』の周囲で起こる不思議な現象を見て、魔力が宿っていると、初めて

気付く程度だ。

 フルスは以前、魔力を選り分ける方法がある、とは言っていたが。

 自作できれば、という考えはさすがに甘かったようだ。


 オリベノンに滞在するのは一日のみ。

 モイトの説得に半日を要したため、午後は放置した彼女達が、どんな動きを

見せるのか。そこを観察し、ダンジョン攻略における立ち位置を決定する。

 俺としては、素直に言うことを聞いてくれて、盗賊団の先発組と交代。敵地

をサーチする探索要員として働いてくれることがもっとも望ましい。

 のだが、

 モイトがオリベノンの街から外へと出ようとする現場に遭遇してしまった。

 現行犯だ。

「待ち伏せのし甲斐があるな。おい」

「もきッ!?」

 サルのような悲鳴を上げて、モイトが恐る恐る俺を確認。

「なんだよ。キープくんかよ」

 ガッカリ。

 と肩を落としていた。

 言いたいことは色々とあるが、その前に、

「人の神経を逆撫でするような、そのあだ名は何なんだ?」

「キズオの『キ』とプランターの『プー』を合わせてんだよ」

 「イかしたネーミングだろ?」と笑顔で言う不良少女。

 笑顔の理由がちっとも理解できない。

「まあいいか。それより、どこに行くつもりだ?」

「ちっとばかし街の外まで」

「何をするために?」

「そりゃあ、アレだよ」

「悪巧みか」

「………」

 彼女は悪戯が見つかった子供のように。

「そうだよ! 新しい仲間を集めて、テメエに復讐をだな!」

 潔く開き直っていた。

「モイトの言いたいことは良くわかった。

 つまり、お仕置きされたいんだな?」

「ぬ~ん」

 ここから先は、お仕置きタイムだ。

 

 モイトを貨物馬車に放り込んで、右足を鎖で拘束していた。


 今回の主役は俺ではなく「一つ動けば、二つ動いて返す」という半生物。

 触れると震える変な生き物。

 そこらへんで拾った肉の玉だ。

 あまりにも落ち着きがないモイトに『動かないこと』の重要性を教え込む。

そのための特別ゲストである。

 肉玉は、拷問紛いのくすぐり攻撃を実行していた。

「あ、あ、あひゃひゃひゃひゃ! い、いひひひひ!!

 や、やめてへ~!!」

 モイトが泣きながら笑いつつ、全力で助けを求めていた。

「仕方がないなー」

 魔法の短剣を抜き放ち、肉玉に熱を近づけておとなしくさせる。

 と、モイトが息を荒げて、ぐったりと床に伏せた。

「はあ、はあ。この鬼畜ヤロー」

「大丈夫か?」

「もう腹筋が痛いんだよ。限界だって言ってんだろうが」

 笑うと腹がよじれる、というが、本当に筋肉が吊るほど笑わせているため、

拷問としてはかなり苦しい部類に入るのだろう。

 とはいえ、痛くしてやろうとはこれっぽっちも思っていない。

「ソイツは振動を与えることさえしなければ、動かない、って言ってるだろ。

なんで動くんだ?」

 暴れなければいいだけなのに。

 そう心の底から思っての質問だったが、

「テメエにはわかんねえのかよ。ジッとしてることの辛さってもんが!」

「んー」

 確かに、動くな、という命令は辛い。

 しかし、思考労働中は一時間でも二時間でも資料を読んでいられる。

 ただ黙っているだけのことが、出来ないものなのだろうか。

「うーむ。って」

「あひゃ、ひゃッ! やめてって!」

 俺が考え込んでいる間に、肉玉によるくすぐり攻撃が再開していた。

 モイトが踏み付けたり、蹴飛ばしたりしてしまったのだろう。

 震える肉玉は足と言わず、腕と言わず、彼女の全身に絡み付いていた。

 思わず視線が吸い寄せられる。

 細い手足に、白い肌。全身を覆う黒革の衣服は、肉玉のせいでところどころ

破けて、肌蹴ていた。

 肩や胸元、ささやかな谷間まで見えそうで。

「見蕩れてんじゃねえよ。バーカ」

 モイトに感づかれた。

 見ていたことを指摘されると、どうしてこんなに動揺するのだろうか。

「おほん」

 もともと生意気な小悪魔系のニヤリ顔から、また視線をはずす。

 クスグリさんと同じ、赤く長い髪が網膜の裏に焼きついていた。彼女の発展

途上の体に、肉玉がまとわり付いている様子も、だ。

 これは、いかんと思う。

 「浮気、絶対ダメ」と心の中で唱える。

「今日はこのくらいにしといてやるか」

 また短剣を使って、肉玉をおとなしくさせた。

「こんなもんかよ。たいしたことねえよな」

「いや、思いっきり根をあげてなかったか?」

「そんなもん演技だよ。演技に決まってんじゃねえか。

 この程度の拷問なんて経験済み。女盗賊を舐めてんじゃねえよ」

「あ、そう」

 手近な肉玉を蹴飛ばして、転がす。

「ちょ! 終わりじゃねえのかよ!?」

「まだ大丈夫なんだろ?

 リーダーとして、自分の取った無責任な行動をだな」

「あひゃはやはひい!」

 反省するまでは、と言いたかったのだが。もう聞いてないようだ。

 転がる肉玉を迎撃するように蹴り上げて、それが別の肉玉に当たり、あとは

もうメチャクチャに動き出した百を越える肉玉に集られるのみだ。

 モイトは額に汗を浮かべ、全身には脂汗を浮かせつつ、息を荒げて、

「見ない見ない」

 健全な肉体が反応しないよう彼女から視線を逸らした。

 とりあえず肉玉を観察する。

「コイツ、いったい何なんだろうな?」

 勢い外に転がっていたから使っていたが、ヤバイものだったらどうしよう。

 俺は不安になってモイトに振り返り、

 肉玉がモイトの口を塞ぐように張り付いているのを見た。

「んー! むー!?」

「ヤバ!」

 すぐに短剣を抜き放ち、肉玉に向ける。

 しかし、肉玉の雰囲気が違っていた。

 一度は溶けて、再び固まり、人の形を成そうとして失敗する。

 モイトの口元ギリギリまで短剣を近づけて、肉玉を追い払った。

「モイト。コイツは何なんだ?」

「知らずに使ってたのかよ!? コイツは『肉体離脱』の成れの果てさ!」

「肉体、離脱?」

「死にそうな体から精神が逃げていくことを幽体離脱って言うだろうが。

 逆に、死にたがりの精神から『肉体が逃げていく』ことを『肉体離脱』って

言うんだよ!

 生活の厳しい辺境になればなるほど増えてくるモンスターさ!」

 つまり、元々は人体の一部だったわけか。

 それが「生きたい」という独自の意志を持って、自殺願望を持つ人間の肉体

から分離したもの。

 しかし、そうなると一応は『人』という分類になるのだろうか。

「倒したら人殺しになるかな?」

「ならねえよ! なに気にしてんだ! いいから戦え!」

 モイトの指示に従う形で、俺は纏まりかけている肉玉に短剣を突き出して、

するりと避けられた。

「躊躇ってんじゃねえよ!」

「う」

 モイトには見破られていた。

 俺には、刺しきる。貫く、という意思が欠けている。

 その一瞬の隙をつくように、肉玉は散り散りにバラけて、逃げ出していた。

 

 沈黙が気まずい。

 モイトの足かせを外して自由にしたが、拘束している時にはまったくと言う

ほど落ち着きのなかった彼女が、じっくりと考えるように黙っていた。

「キープ」

「そのあだ名は」

「聞けよ。

 オマエ、人を殺したことないんだよな?」

「ああ」

「モンスターも、殺したことないのかよ」

「そうだけど、でもそれだけじゃないな。

 植物は刈り取ったことがあるけど、動物をしめたこともないんだ」

「なんだよ、それ。どこのお坊ちゃんだよ」

「まったくだ」

 これからモンスターの巣に飛び込んで大量討伐をしようという人間がまさか

の不殺。

 オールドプラクティスを殺ったのはエイシンとエニルだし。

 サンドマンを討伐したのは俺じゃなくて、フルスだ。

 俺に殺した覚えがあるものと言えば、虫ぐらいである。

 だからこそ、俺は実践が必要だ、とレアに申し出たのだから。

「そんなんでやっていけんのかよ?」

「何とか、なる、と思う」

 必要に迫られれば、人は何とかするものだ。

 追い詰められれば、俺もモンスターを討伐する。

 いや、殺すことができるだろう。 

「ったく、頼りねえよな」

 モイトは弟を相手にする姉のような、妙に頼りがいのある表情をしていた。

「付いてきなよ。キープ」

「だから、って言うか、どこに?」

「罪のおっかぶり方、教えてやるよ。

 一緒に悪いことしようぜ♪」

 彼女はとても悪い顔をして、しかし楽しそうにそう言った。


 その日、俺はモンスター討伐の機会を得た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ