後半戦、開始。
盗賊団の内紛が決着。
残ったものは、
オリベノンでの補給は、すべて俺以外の人に任せた。
最終補給になりかねないため、一か月分の食料その他も用意する予定だ。
そこまで大事な用事を差し置いてまでやるべきことが一つだけある。
捕らえた盗賊団の処遇を決めることだ。
モイトは捕まった直後こそおとなしくしていたが、しばらくすると、態度が
元に戻っていた。
最後尾の馬車より後方、追加された貨物馬車の一つで大騒ぎだ。
「出せー。だしやがれー。オレラをここから開放しろー」
彼女の投げやりな言葉に合わせて「そうだそうだー」と娘らが囃し立てる。
50人で行われる盛大な合いの手は、なかなかにうるさい。
放置されていた時間が長いためか、覇気はなかったが。
「おはよう。モイト」
「テメエ! ようやく顔を見せやがって! おっせえんだよ!」
「構ってやれなくて悪かったな」
「はあッ!?」
「もしかして、寂しがり屋か?」
「うぬぐ!」
盗賊団の面々が「どうしてソレを!」という顔で俺を見る。
女盗賊の身でありながら、可愛い属性もあったものだ。
玩具の銃を使うところとか、追いかけられている時はわからなかったが、
他の娘に比べて背が小さいところなど、可愛いといえば可愛らしい。
「まあ、そこはいいとして。今日はモイトに頼みがあって来たんだ」
「頼みだぁ? 誰がそんなもん」
「モイトがそれを叶えてくれれば、ダンジョン攻略が楽になる」
「何でオレラがそんなもん手伝わなきゃいけねえんだよ!」
「なんでって、都合がいいからだろ?」
「馬鹿かテメエ!」
もっともな話だ。
しかし、これ以上の解決策などない。
「モイトはどうするつもりだ?」
「オレラを逃がせよ」
「いや、馬鹿なのか?」
「ぐ」
どうやら俺と同レベルの提案をしたことに気付いたようだ。
彼女を逃がしても、メリットがあるのはモイトだけだ。
「まあ、聞いてくれ。
俺達は仲良くやるしかない。
俺はダンジョン攻略に向かうから、不安要素はできるだけ排除したい。
そうなると、アンタ達を解放するって線がなくなるのはわかるな?」
また襲撃でもされたら大変だ。
媚薬のせいで頭は回らないし。仕事はできないし。
前者はモイトのせいではないが。
「最初から逃がすとは思ってねえよ」
「だろうけど。
そうなると、ダンジョン攻略に同行して貰うか。
オリベノンの役人に『盗賊団の面々』として引き渡すしかない。
役人に引き渡せば、首都に連れて行かれて牢獄行きだ。
家族や友人にバレて大変なことになる」
「止めろ」
モイトの声のトーンが真面目そのものに変わる。
やはり一般人として暮らしている女性が大半なのだろう。
彼女らの身元がバレることは避けたいはずだ。
「かと言って、いまのままじゃ、ダンジョン攻略に参加してもらうことすら
難しいだろう。
背中を任せられないし。隣に立たれるのも勘弁だ。
となると、結局はモンスター討伐の最前線へ出てもらうことになる」
捨て駒として、というニュアンスを前面に出したせいか。
追い詰められていることを自覚してなのか。
モイトは唇を噛んでいた。
「お互いにとって、もっとも利がある選択肢を考えてくれ。
たとえば、俺達の仲間になること。
早々に背中を預けられるような関係を築くことが最善じゃないか?」
「ここから逃げる、って手もあるぜ」
気付かれたか。
まあ、当然ではあるが、自力で逃げ出せるならモイトの勝ちだ。
「そうなったら、次は命の取り合いだな。
牢屋に入れても逃げられる。そんなヤツを生け捕りにはしない」
次は容赦できない。
全力で潰し、二度と追うことができないようにする。
そういう意思を込めて俺は彼女を睨み、彼女は俺を睨み返してきたが、
「コイツ、マジかよ」
モイトの瞳は動揺し泳いでいた。
「リーダーなんだろ?」
「そ、そうだよ」
「決断してくれ。
牢獄に行くのか? それとも俺達の仲間になるのか?」
「ぐぬう」
彼女は結構なカリスマだ。
もし彼女が「協力する」と言えば、盗賊団は一致団結してダンジョン攻略に
挑んでくれるだろう。
逆に「拒否する」と言えば、分裂は決定的だ。
「わ、わかったよ。
ダンジョン攻略に協力するよ。すればいいんだろうが!」
「ふう」
俺は心の底から安堵して、全身から力を抜いた。
地面でも構いはしない。
大の字になって寝転ぶ。
「ああ。疲れたー」
「おい。なんでテメエが安心してんだよ」
モイトが呆れた顔で聞いてくるが、もうそんなことも気にならなかった。
「盗賊団の先発組は、もうシッカリ仲間だからな。
その知り合いを敵に回す事態には、したくなかったんだ」
俺の言葉に、モイトは不満げに鼻を鳴らした。
コレで、一番の不安要素は取り除かれたことになる。
しかし、問題が消えたわけではない。
ずっと先頭を走り続けていた馬車は、かなり傷んでいた。
報告によれば、オールドプラクティスとの接触が十数回。
サンドマンとの衝突が五十数回。
それらのモンスターは先頭車両から数えて五十車両が対処してきた。
しかし、連日連戦ともなれば、部隊にも疲労が溜まる。
ゆえに、オリベノンからダンジョンまで、後半はレア隊が中腹に移動して、
戦闘の指揮を執る。
リーダーは当然のようにレアが。
今日まで休んでいた本陣部隊、および能力平均部隊が戦闘を担当する。
忙しさは、物資補給や、新顔の説得に勝る。
俺は伝令の受け取り役だ。
前方の小隊から『進行方向に敵出現。サンドマンE』という手信号が。
「先頭車両がサンドマンを確認したそうだ。サイズE」
「突撃してください」
前方に『突撃せよ』とハンドサインを送る。
車体を伝わって、ドン! と衝撃が掛かるのがわかった。
サンドマンが砂の幕となって車列を襲う。
さすがに五十も前方の車両ゆえに、その衝撃も微々たるものだが、
「敵は馬車上で再生していますか?」
「再生は」
伝令を待つ。
しばらくして前方の小隊が、『再生なし。消滅を確認』という意味のハンド
サインを示した。
「再生は確認できないそうだ」
「わかりました。進行方向のサーチを続けてください」
「了解」
ジレイとゴドリーは、こんなことを一週間も続けていたのか。
走っている間は、ずっと気を張らなければならない。
「コイツはキツイな」
キツイ上に、新しい問題点が見つかってしまった。
ハンドサインでは伝達に時間が掛かること。
正確な状況判断が難しいこと。
指令と伝達が同時に発生し、混線すること。
スキルアップが必要だが、ダンジョン攻略は三日後だ。
もう時間がない。
昼休憩。
ダンジョンが近づくにつれ、太り始めた砂漠の道端に馬車を止めた。
今日は時間の流れが遅い。
問題について検討する時間も少ないが。
連絡能力の向上には、レアが協力してくれた。
音札。
声を何倍にも増幅するという魔法の札を用意してくれたようで。
「シルリスクに立ち寄った際、歌好きの知り合いに譲ってもらいました」
「ああ。歌う屋敷の」
どうりで。どこかで見たことがあるな、とは思っていたが、
「? プランターさんも歌う屋敷を知ってるんですか?」
首都から出たことはないはずなのに。と首を傾げるレア。
「それはだって」
彼女の疑問に答えようとして、
その日、俺は俺ではなく、筋肉自慢のお小言男だったことに思い至る。
「たまたま、な。知る機会があって」
言葉の繋がりが微妙におかしいが。
「そうですか」
彼女は特に疑う様子もなく、スルーしてくれたようだ。
「あとは『アレ』ですけど」
レアが嫌そうに目で示したモノは、半壊した機械人形だ。
俺が中に入って、レアが殴り壊したアレである。
「この機械人形は人の意思を感知することができるようです」
正直に言おう。
無理だと思った。
「そんなことができるもんなのか?」
「なんでも、人間の脳から発せられる指向性を持った『電波』を汲み取るそう
ですけど」
怪しいものです。と彼女は眉をひそめていた。
「電波か」
そんな機能があるから、俺の意識を中に放り込めたのだろうか。
「プランターさんには、何か覚えがあるんですか?」
「近いものなら体験してるな。
うちの番犬は主人が帰ってくる時に必ず玄関でお出迎えするんだ。
そう躾けたわけでもないのに『帰ろう』と思った瞬間、なにかが犬に伝わる
んじゃないか、とは思う」
こうなってくると、だ。
機械人形の機能も「絶対に嘘」とは言い切れない。
「レアはどう思う?」
「その場合は、人の思念が地磁気に影響を及ぼしたのだと思います。
なんでも、地磁気の強い場所で、人は幻覚を見るそうですから。
幻覚を見るということは、脳に何らかの刺激を与えることが可能である。
ということです。
地磁気に人の意を溜め込み、刺激として放出する機能があればですけど」
レアの説明は論理的なのだろう。
証明のされていない超理論だが。
仕事の話が続いていた。
だから気にならなかったが、しかし、
「「………」」
いつの間にやら沈黙が訪れている。
そういえば、ここ最近、レアとシていなかった。
今が平和なら一日中だって抱き合いながら過ごしていておかしくないような
時期なのに。
何の因果か、禁欲生活だ。
「プランターさん」
「ん?」
「私の相手はアナタしかいないと思います」
「えッ!?」
唐突に『そういう話題』を出されたのか、と思って驚きが声に出ていた。
レアは少し怯んで、俺から逃げるように背を向けた。
「プランターさんの相手も私だけだと思ってますから」
「あ、うん」
答えて、深く考えようとする前にレアがどこかへ行ってしまった。
追いかける前に考える。
いまのは、どういう意味だ?
私にはアナタだけ。アナタには私だけ。
つまり、
「告白された?」
俺は呆然としたまま、仕事も手に付かない状態になっていた。
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