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内紛

エイシンの計らいでレアについて深く知ることになったキズオ。

しかし、レアとの関係が他に及ぼす影響は大きく、

 樹上都市シルリスクに滞在二日目。

 盗賊団の代表、全身黒尽くしな人から『話がある』と呼び出されていた。


 防音の効いた馬車の中。

 俺を待っていたのはクスグリさんと二人の少女だった。

「代表はやっぱり貴女か」

 我が家の秘策、番犬トラップを誰よりも早く見破った女性。

 クスグリさんが頷く。

「見当は付いていた、って顔ね」

「まあ」

 しかし、主導権は取れていない。

 俺が彼女の正体に気付いたのが先。だが、彼女が代表ということは、相手も

『正体が露見したことに気付いた』のだろう。

 組織の中で、唯一まともに手綱を握れなかった相手。

 それが盗賊団である。 

「で、話って?」

「親衛隊の間に、ある噂が流れているのはご存知かしら?」

「すみません。ご存知です」

 おそらく、ダンジョン攻略団の代表であるレアと、その近くでちょこまかと

活動している俺が付き合っているのではないか、という噂だ。

 直接、自分の耳で聞いたものではないが、しかし、噂になることくらい容易

に想像ができた。

「ご存知であるのならご理解いただけるとは思いますが、この二人」

「ワタボシです」

 年の頃は15、6歳。普通の女の子だった。

「シオネラです」 

 同じく。至って普通の女の子だった。

「ワタボシとシオネラを、見張りとして随行させていただきますが。

 よろしいですね?」

「う」

 こういう事態になることも理解していた。

 組織のトップが「隠れて」付き合っている、という印象を持たれるのは非常

に困る。

 とはいえ、誤解なのだ。

「俺とレアは必要だから抱き合ってるだけって言っても理解されるとは思って

ない、とは言っても、組織のためにならないことは重々承知の上で、親衛隊に

バレたら大変なことになることもわかってて、お願いします。

 色々と、まだ無理です。

 そっとしておいてください」

「できないわね」

 両断された。 

「選択肢は二つ。

 正式に結ばれるか。あるいは」

「じゃ、我慢します」

「どうせ口だけでしょうに。可能とは思えないわね」

 クリグリさんの言い分は理解できる。

 しかし、これはいくら考えても答えが出ない問題だ。

「ええと、その二人を傍に置いて、レアには手を出さないと誓う。

 これでいいですか?」

「そんなことができると、本気で思っていて?」

「見張りは二人がしてくれれば、と」

「ええ。それが可能だと言うのなら、それでいいわ」

「それじゃ」

 あとはもう俺の意思次第だろう。

 俺は馬車を降りて、二人は後ろから付いてきて、仕事に戻った。


 シルリスクは軍事的な拠点であり、機械の再生を行っている。

 そのため、銃器の類。機械の類は豊富にあるのだが、そのほとんどが現段階

では使い物にならない。

 その原因は、魔力だ。

 どれだけ技術が発達しても不確定とされる力。

 人間の計算を狂わせる力。

 ゆえに、銃器を作っても『硬化』『軟化』の属性が付いていたら弾道が狂い

相手に当たらなくなる。

 『時間短縮』や『時間延長』の属性が付いていたら、弾の速度が安定しない

状態に陥る。

 結果として、魔力を原因とする暴発事件が相次ぐのだ。

 そして現在、銃は使われなくなっている。

 モンスターが出現した当初、銃器や兵器がもっとまともに作動していたら、

いまのような世の中にはなっていなかっただろう。

 しかし、土を掘り返せば、銃が山のように出てくる場所もある。

 昔の人が、どれだけ銃を頼りにしていたのかが、わかる。

 おそらくだが、当時は魔力の影響が少なかったのだろう。

 あるいは、まったくなかったのかもしれない。

 この世界にモンスターが出現した日、いったい何があったのか。

 そこにも興味はあるが、いまはダンジョン攻略だ。

「とりあえず火薬を探そう」

 ワタボシとシオネラは、カクンと人形のように首をかしげた。

「何のため?」

「どのくらい?」

「本当に必要?」

「お金は大丈夫?」

 二人は交互に質問をして、最後に「さあ、どうぞ?」とばかりに俺を見て

答えを催促していた。

 何を聞かれたんだっけ。

「ダンジョン攻略のため。分厚い王城の扉を4,5回は吹っ飛ばせるくらい。

ただの準備だから不必要かもな。お金は、まあ、何とかなると思う。

 他に質問は?」

「「ない」」

 二人とも営業スマイルなど一切なし。

 周囲を確認するように、俺から目を離していた。

 まるで、監視対象は俺ではなく、その他にも居るような風情だ。

「俺は誰に命を狙われているんだ?」

「!?」「!!」

 二人が一斉に俺の方を振り返って、直後に「しまった」という顔を。

 俺は冗談のつもりで口にしたが、どうやら命を狙われているらしい。

「で、誰なんだ?」

「それは」

「ワタボシ。クスグリ姉さんに怒られる」

「シオネラ姉。でも」

 おたおたする中。流せない言葉を耳にしていた。

 クスグリ姉だ。

「三姉妹だったのか?」

「そう」「そう」

 二人が並びのタイミングで口にするため、軽く「そうそう」と同意された

ようにも聞こえた。

「盗賊三姉妹か」

 二人が同時に頷く。

「クローレンでは珍しくない」

「盗賊団の全員が姉妹」

「腕力勝負で男には勝てない」

「生きるためには仕方がない」

「盗賊団の問題は、盗賊団で解決する」

 二人がそう言った直後、場の雰囲気が変わった。

「よく言ったじゃん」

 震える声。これは機械の体に放り込まれた時に、自分の口からこぼれたモノ

に良く似ていた。

 しかし、周囲には誰の姿もない。

 空洞部分に鉄骨とコンクリを流し込まれた枯れ木。

 森の上に急造された滑走路。

 フェンスの向こう側にも、人影はなかった。

「姉さん!」「モイト姉さん!」

『テメエら。攻略団の物資を根こそぎ頂く手筈だったろうが。

 お仲間気分で攻略なんて誰が許したよ。ふざけんじゃねえ!』

 絶対にいる。

 二人の態度がそう言っているし。

 何より、そこらを走り回る拳大の車が、そう言っていた。

「あの車がしゃべってるのか」

「おい! そこの男!」

「俺か?」

「テメエをぶっ殺して攻略団は解散。残りの物資はオレラがいただく!

 火薬が欲しいなら食らいやがれ!」

 ぎゅるん、と砂を噛む音。

 おしゃべりを続けていた車が急に進路を変更して突っ込んできた。

「危ない!」

「爆発する!」

 ワタボシとシオネラの二人に庇われて、俺は咄嗟に、腰に巻いていた鎖帷子

を開放すると同時に、投げつけていた。

 ふわり、と宙に舞った鎖帷子は重力に引かれて下へ落ちる。

 が、そのスピードが尋常ではなかった。

 ぱごん! と、小さな車を解体する勢いで覆いかぶさる鉄の鎖。

 身動きのできない玩具のような車は、俺を庇う二人からも、かなり遠い位置

でひたすら空回りを続けた。

「なッ!? なんじゃそりゃ!!」

「いじめられッ子の常備アイテムだな」

 『重力方向操作』の魔力が宿った鎖帷子だ。

 表から裏側に向かって『重力が流れる』という不思議アイテム。

 普段は横を向いているため、腰や足に絡まる程度で、ほとんど重さを感じる

ことはなく、上に向ければ重力と重力が相殺して重さがなくなる。

 ただし、下に向ければ、それはタダの鎖帷子だ。

 鉄本来の重さを取り戻し、玩具の車くらいなら簡単に動きを止められる。

「昔から、こういうのに頼っていたんだ」

 体中に仕込まれたトラブル防止策。

 ダンジョン攻略を始めて以降は危機感も高まり、トラップ倍増だ。

「チイッ!」

 舌打ちが聞こえ、玩具の車が「ボン!」と爆発。

 俺は女の子二人に上着を被せて庇いつつ、

「うげ」

 そこにビッシリと突き刺さる棘や、釘を見た。

「本気すぎるだろ。こんなの」

 背筋を伝う特大の寒気。

 モイトには加減ってものがない。

「二人はここで待っててくれ」

「「でも」」

 同時に反論してくるが、両手を突き出して、それぞれを止める。

「命を狙われているのは俺なんだ。

 これは俺の問題だろ」

 二人は納得する様子もなく、ただただ「心配だ」と表情で語る。

 信用がないな。

 それでも二人を巻き込むわけにも行かず、俺は一人で走り出した。


 走りながら、お互いの所持品を見て、確認する。

「待て! クルァーー!!」

 その前に背後から叫び声が。

 まるで三段活用だな。

 「こらぁ! くらぁ! クルァ!」だ。

「馬鹿にすんなー!!」

「げ」

 エスパーか?

 有り得るかも。モイトは見たところ、武装らしい武装は皆無だし。

 とはいえ、腰には蛍光色をした玩具の銃が。

 火薬満載な玩具の車を小脇に抱えている。

 それらも武器と考えるなら、完全武装なのかもしれなかった。

 しかし、

 どれも敵を狙うタイプの武器ばかりだ。発想の偏りは、おそらく意図しない

ものだろうが、このタイプの最終系には自動誘導が多い。

 そこまである、と見て対処しなければ。

 対する俺の装備は、砂色の帽子。

 鎖帷子はさっきの爆発で吹っ飛び、行方不明。

 『衝撃吸収』能力を持つ上着は、女子二人に預けてしまったし。

「待つか」

 足を止めた。

「うええ!? なに待ってやがんだテメエ!」

 俺が止まったことに、相手が怒っていた。

「何だよ。止まれって言うから止まってやったのに」

「なに企んでやがる!

 テメエが狡賢い人間だってことは調査済みだからな!?」

 警戒されているようだ。

 彼女は左腰の銃に手を伸ばし、俺は砂色の帽子に手を伸ばした。

「くそッ」

 彼女は結局、銃を手に取らない。

 次に何をどうすればいいのか、わからなくなっているようだ。

 普段から突撃するタイプの人間は、手の読み合いに放り込まれると、途端に

深く考えすぎて失敗する。

 俺とは正反対のタイプだ。

 頭を使えば使うほど、正しい答えからは遠ざかっていくもの。

 俺は堂々と突っ立っているだけだった。

「チイッ。

 次は殺る。絶対にだ!」

 彼女は勝手に退いてくれた。

 俺は最後まで帽子から手を離すことなく彼女を見送り、

「ヤバイ。死ぬかと思った」

 その姿が見えなくなった直後に、駆け足で逃げ出した。


 砂色の帽子は、単なる日光対策だ。

 それ以上の意味を持たない既製品である。

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