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砂の器

ダンジョン攻略に出発した攻略団一行。

しかし、

 まずは首都ダンゴルザからペンデルスまで移動する。

 馬車の乗り心地は、まあまあで、神経質な人でなければ眠れるだろう、と

いった揺れ具合だ。

 御者の二人、リジーとオーザ以外の五人には何もすることがない。

 レア隊の面々はさっそく雑談に花を咲かせていた。

 と言っても、全員の興味はレアに向いている。

「エーハンは男として育てられました」

「国王様は何がしたいんだ?」

「お世継ぎがいなければ国が混乱しますから。

 『王子』は必要です。

 けれど王様にとって、王子は政敵でもあります。

 王子という条件を満たし、なおかつ王位に辿り着くことはない存在として

エーハン『王子』という幻想を作り出したんです」

「それで王の娘が、王の息子として振舞っていたわけだ。

 子供に遺産を渡したがらない大富豪みたいだな」

 いつまでも王座にしがみついて、挙句に国を滅ぼすタイプだ。

 国王の第一印象は、頑張っている口下手な人。

 最終印象は、言い辛いことを王子に丸投げした人。

 自己中心的な王様と、王子様の政争に、レアも巻き込まれたわけか。

 そういえば、

「王子と婚約していた、って聞いたけど」

「はい」

「どうして婚約なんだ?」

「現国王側としては、婚約者は女性でなければならないものの、女性同士で

子供を作ることはできませんから。

 王国側と婚約者側で、秘密を共有する必要があります。

 そこに現れたのが、力で頭角を現した私の父です」

 レアの表情が曇る。

「父はエーハンの秘密を知り、私との婚約を取り付けたんです。

 王様の操り人形だったエーハンと、

 父親の操り人形だった私は、とても気が合いました。

 二人で『一生、独身でいよう』と誓い合った仲なんです」

 俺としては、コメントに困る誓いだった。

 それで王女様が「請け負います」的な台詞を言ったのか。

 レアと王女様の絆は、男女のソレを越える、と。

 しかし、父親が行方不明になって以降、レアだけが開放されてしまった。

婚約の話も宙に浮いたわけだ。

 レアがダンジョン攻略を申し出た時、王女様も面食らったことだろう。

 せっかく操り人形ではなくなった友人が元の状態に戻るかもしれない攻略

をしたい、と言い出したのだから。

「レアは、どうして父親の生死を確かめようと思ったんだ?」

 もし生きていたら、面倒なことになるだけとわかっていて。

 そう聞いたつもりだが、彼女は迷うことなく、

「家族ですから」

 と言い切った。

 レアの目は優しく、憂いに満ちていた。  


 暗い話題は流れ、時間を潰す。

 サバイバルライフではないカードゲームで盛り上がったり、

 フルスに占いを披露してもらったり、

 エニルの王宮トリビアに聞き入ったり。

 レアは「何もできない」と前置きをしてから、車内でジャグリングをして

みせるという大技をやった。

 俺こそ何もできないが、実家のネタ話で場を繋いだ。

 そのうちに、

 エニルが話しつかれて眠り、静かになると各々のペースで寝入った。

 

 俺はリジーとオーザが朝から不休で御者をこなしている姿を見て、何とは

なしに手伝いたくなるが、

 扉に手をかけたところで、手首をそっと捕まえられた。

 レアだ。

「兵士の務めは戦いです。

 行軍は彼らに任せましょう」

「わかったけど、

 まあ、わかったよ」

 小声で注意されて、仕方なく席に戻る。

 

 俺は、そのまま寝入ることにも罪悪感を覚えて、陣形の確認に入った。

 組織は巨大化し、現在で500人超。

 割合は剣士1、盾役1、盗賊1、魔法使い1、戦時雑用1。

 しかし、すべての職種を均等に割り振るだけが編成ではない。

 好きな人、嫌いな人を調べて一緒にしたり、離したり。

 状況によって活躍してもらうため、それぞれの職種のみで構成された特化

部隊も編成している。

 特化部隊の第一陣、二十五小隊。

 平均部隊の第二陣、五十小隊。

 そして本陣、二十五小隊。

 構成からあぶれた人材は、行軍と防衛に力を裂いてもらうことにした。

 しかし、

「減ってる、な」

 即席の魔法使いが加入して、人数は増えたはずなのに。

 思ったほどではない。

 減ってしまった無機質な数字の中に人の命を感じ取る。

 訓練では、モンスターを倒しきれず全滅したという話は聞かなかった。

 しかし、一人、二人と欠けた組は存在していたようだ。

 怪我で脱落した者もいるが、命を落とした者もいるようで。

 俺の知り合いに死者は居ないが、ゴドリーの知り合いだったり、ジレイ

とレアの同僚が亡くなっている可能性は高い。

 リジーの友達、オーザの友人が死に至った可能性もある。

 重いな。

 いっそ単なる数字として、考えることなく処理してしまいたくなる。

 自己責任で参加している大人はともかく、つき合わされている奴隷の子供

達には、申し訳ないという言葉では足りないほどの罪悪感を覚える。

 一人でも死に追いやれば、その罪を償いきれない。

 十人、二十人という命が失われて、責任の重さは増すばかりだし。

 もう何もしてやれない。

 進んでいくほどに命を落としながら、

 残った人の命を守るために進んで、さらに命を落としている。

 悔しさで、ギリリと歯が鳴った。

 この先で零れ落ちる命は、少しでも少なくなるようにしたい。

 時間は夜。

 透明なガラスに映る自分の顔は、決意の光で鈍く輝いていた。


 馬車は一日をかけて、ペンデルスまで移動。

 サンドマンが踏み均していない街道を踏破するのは骨だ。

 一日目の夜はペンデルスで一泊。

 と言っても、五百人を出迎えることが可能なほど大きな村ではないため

ほとんどの人員が『木吊りの蓑』で寝泊りをしていた。

 五本の柱に支えられた空中の寝床。

 星型の床に、星型の天井。

 中は広々としている。

 レア隊は男子用、女子用に分けて二つほど組み上げていた。

 オーザは昼間の御者仕事で疲れてしまったらしく、早々にダウンしたが、

エイシンはしばらく前に蓑を出て、日が落ちても帰ってきていない。


 深夜になって、ようやく蓑の口が開いた。

「失礼します」

 しかし、声はレアのものだ。

 思わず振り向いて、

「忙しい夜分に申し訳ありません。けど、あちらの蓑では、こ、子作りが。

ザラさんとエニルさんが、その、はじめてしまって。フエルニケスまで参加

すると言い出すものですから居場所がなく、こちらにお邪魔させていただけ

ればと思って来たんですけど」

 レアにしては珍しい早口の言い訳を聞いた。

 そして、あの男は相変わらずのハーレム体質だな。

 『好みの年齢』なら見境なしだ。

 俺は緊張を悟られないように「まったく」と溜息を装って深呼吸をする。

「事情はわかったから。お好きにどうぞ。

 あとリジーは置いてきて大丈夫なのか?」

「はい。大丈夫だと思います。

 ぐっすり眠っていましたから」

「そうか」

 オーザの眠りの深さを思えば大丈夫そうだ。

 何より、あちらにはフルスがいる。もし仮に起きてしまったとしても魔法

で即座にリジーの意識を落とすだろう。

「しかし、なんでこのタイミングで『そういうこと』をするかな。

 あのオッサンは」

「ザラさんは『後顧の憂いを絶つタイプ』と言っていましたから、そういう

ことを我慢したまま戦場に出ては集中できないんだと思います」

 そしてレアは口数が多い。

 顔も真っ赤で、思考能力もほとんど働いていない様子だった。

 見ていて目の毒に思うくらい、頬が紅潮している。

「プランターさんは、大丈夫なんですか?」

「うん。まあ」

 何が、とか詳しいことは聞かない。

 エイシンから聞いて、彼女も知っているのだろう。

 戦場が近づくにつれて、俺の体も準備を始めている。

 戦闘準備状態。

 数時間前から全身が熱を持って、火照りが止まない。

 特に下半身は手が付けられない状態だった。

 鎮めてもらいたい、という気持ちはある。

 できればレアに、という思いもある。

 しかし、

「プランターさん?」

「なに?」

 彼女は「ふう」とため息を吐いて、普段の彼女に戻っていた。

「思い詰めた顔ですけど。

 どうしたんですか?」

「ああ。実は、俺には責任が負えないんじゃないかと思って」

 一般市民ではなく、大富豪なら。

 王様なら。

 レアなら、もっと大きなモノを背負えるだろう。

 しかし、俺には無理だ。

 将来はプランター家の実家から大きすぎる畑の一部を貰って、好きな人と

一緒に食べていけるだけの仕事をしながら、余裕があれば責任を持って育て

られる子供の一人か、二人を授かること。

 それでも精一杯だろう。

「レアはどう思う?」

 彼女の瞳にも後悔の色が揺れる。

「ダンジョン攻略は、確かに、私達の手に余る大きな仕事です。

 けど、私達が責任を負ったことで救われたモノもあります」

「たとえば?」

「サンドマンの討伐も、奴隷達の解放も。

 小型モンスターの討伐も。どこかで誰かを助けているはずです」

 責任を負うはずだった王政府に比べれば、よくやっている。

 その自信があるのだろう。

 彼女の言葉に共感する一方で、傲慢と思う向きもある。

「俺はそういう時に、

 『自分より上手くやれるヤツがいたんじゃないか?』

 と思うタイプだけど」

 すべては可能性の話であり、過去の話だ。

 今回のダンジョン攻略に限って言えば、最大限に良い結果は、

 『俺が最大限に頑張った時に出るもの』

 と決まっている。

 俺が投げ出して、後任に物凄いヤツが納まれば、また話は違ってくるかも

しれないが。

 基本的には、手を抜けば抜くだけ、悪い結果が訪れる。

 腐っていないで最善を尽くせ、ということだ。

 そして、いまの俺に出来る最大限の努力とは何か?

 とりあえずは、体調を元に戻すことだろう。

「レアに頼みたいことがあるんだけど」

「何ですか?」

「戦場が近づくにつれて、体の火照りが強くなってきたから」

「え? あ、はい」

「鎮めて貰ってもいいでしょうか」

「あの、もうそういう雰囲気はないんですけど!」

 レアは顔を真っ赤にして拒否していた。

 そして、大声の直後にゴゾゴゾと布団を剥ぐ音が。

「?」

 『何事ですか?』

 と、巣穴から出てきた小動物のように視線を寄越すオーザ。

 もう完全に目が覚めてしまったようで。


 その後、レアの怒りは驚くほど長く続き、

 俺は眠れずに夜を明かした。

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