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初仕事、結末

影の女神に対して危機感を覚えたキズオ。

今回は、


 俺達は正念場を迎えていた。

 ここが、サンドマンを倒せるかどうかの分岐点だ。

 

 考える。

 サンドマンは嵐の日に唐突な現れ方をした。

 それが第一の疑問点だ。

 レアの動きに翻弄されていたし。移動速度は遅いはず。

 なのに、唐突に現れることができたのはなぜか?

 村人の誰一人として、敵の接近に気付かなかった理由が必要になる。

 たとえば、サンドマンが見えなかった、とか?

 あるいは、サンドマンが人型ではなかった、とか。

 嵐の日にサンドマンが擬態するとしたら、それは『砂嵐』だ。

 風に乗って移動した可能性が高い。

 言わば、サンドマンの長距離移動形態だ。

 一日の食事で、肉体のすべてが木片に切り替わってしまうようなヤツだし。

 吹き飛ばされながら、それでも自身を保つことくらいならできそうだ。


 それに、そう考えれば、サンドマンに物理攻撃が通用しないことにも納得が

いく。

 肉体の結合が緩く、はじめから分離するように出来ているとしたら、

 それはサンドマンの長所であり、短所となるはずだ。


 第二の疑問点は、場所。

 ここは首都から五キロの場所にあるペンデルスの村。

 モンスターが生息していることは確かだが、全高50メートルの大物がいて

いい場所ではないはずだ。

 レアが『サンドマン討伐』の依頼を「小型のはぐれサンドマン討伐の依頼」

だと勘違いしたことにも納得がいく。

 敵側にも、何か目的があるのではないだろうか?

 もし仮にそうだとすれば、サンドマンの進行方向には首都がある。

 相手が人間なら首都強襲からの首都制圧が目的だろう。となるが、相手が

モンスターであるならば、他にも存在する村々を無視して、一直線に首都を

目指す理由にはならない。

 モンスターの行動に理由を探すなら、

 やはりダンジョン発見が、いかにも怪しい。

 今回のコレは、ダンジョンにまつわるトラブルの一つなのか?

 敵が王国軍の痕跡を辿り、ダンジョンからここまで追いかけてきた刺客だと

したら、ここで取り逃がすとえらいことになる。

 負けられないどころか、引き分けることもできない理由が増えてしまった。


 最後に考えるべきは『影の女神』について。

 偶然を司り、奇跡をもたらす女神様。

 だから、モンスターにとって奇跡のような最高の展開と、

 俺達にとって悪夢のような最低の展開を考えてみよう。

 最悪は、今夜にも嵐が来てペンデルスの村が全滅。

 サンドマンは移動形態となり、首都へ直行し、制圧されることだ。

 この場合、当然のように俺達も全滅している。

 最高の展開は、今夜も晴天。

 明日の援軍は間に合って、サンドマンはウッドチップマンとして焼却。

 首都に取って返し、ダンジョンから刺客が放たれていることを報告。

 王国軍が国防を担う中、俺達がダンジョン攻略に取り掛かる。

 比べてみると、

 最悪の方にリアリティーがありすぎて困るくらいだ。


 思考完了。

 意識を現実に向ければ、そこに変わらずお婆さんがいた。

「用意して欲しいものがある」

「それは?」

「水。酒。油。あれば小麦粉」

「料理でも始める気かい?」

 おばあさんに言われて、ああ、と気付く。

 しかし、さすがの俺でも、そこまで見当違いなことはしない。

「敵を倒すために決まってるだろ?

 あとは針、糸。縄。布。袋。杭。丸太。火薬と、火打石を頼む」

「そんなに用意して何をするのさ」

 お婆さんは呆れたように言って、

 俺は呆れられるような答えを返した。

「きっと半分以上は使わないと思う」

「なんだって? じゃあ、何のために用意すんのさ!」

 火を噴くように怒るお婆さん。

 しかし、

「十分に用意して、アイツを一回でも殺せればいい」

 そう言うと、お婆さんはニヤリと唇をゆがませて笑った。

「無駄が多いねえ、まったく。

 しかし必要だって言うなら、用意してやるさ」

「ありがとう」

 お婆さんは俺の作戦を聞くと、大急ぎで村人を集めてくれた。


 最大直径1キロ。高さ60メートルの展望台で、火柱が上がっていた。

 村の中央に丸太を組み上げ、火を起こしたのだ。

 これでサンドマンを焼き尽くす。

 しかし、最後に頼るのは、やはりレアだ。

 空き家から出てきたレアはいつもの騎士服で、凛々しい顔だ。

「作戦を教えてください」

「ごめん。危険な役目だと思うけど」

 そもそも彼女が一人で危険な役目を負わないように、と思っての火計だった

のに。

「いずれこうなるとは思っていました」

 辛辣な言葉。

 だが、それにしては嬉しそうな彼女は言った。

「キズオ劇場の始まりです」


 レアが崖下へ。

 片手に縄の付いた麻袋を持って。

 サンドマンもそれに気付いたのか、怯えるように距離を取っていた。

「行きます!」

 敵の懐までダッシュで接近した彼女は麻袋を振りかぶり、

『ゴアアアアアアアアアアア!!!』

 迎撃するように叫ぶサンドマン。その腹を抉るように、麻袋を振り抜いた。

 人型の腹に、道が刻まれていく。

 サンドマンの肉体が削られ、ほんの少しではあるが、小さくなる。

 そして上では、村人達がレアの合図を待っていた。

「今です!」

「「よいっしょー!!」」

 中身がいっぱいになった麻袋が、村人達の手によって崖の上まで引き挙げ

られる。

 そして引き上げた先から、火柱の中へと放り込んでいくのだ。

 村人達にも、自分達の手でモンスターを討伐している! という高揚感が

あるようで。

「うわ! この麻袋、なんか動いてない!?」

「気持ち悪ッ! でも、なんかいいよな!」

「みんなー! がんばれー!」

 老若男女に関わりなく、年寄りから子供まで、村人が揃ってサンドマンの

討伐に参加していた。 

 レアは縦横無尽に動き回り、サンドマンの肌を削り取る。

 一つの麻袋を満たせば、次の麻袋を拾っては削り、拾っては削り。

 それは初日に行っていた単純作業と、まったく同じであるはずなのに、

「次! あげてください!」

 こちらを振り向いて指示を出す時、彼女の顔には余裕と笑みがあった。

 行ける。

 このままなら勝てる。

 だが、油断はするな。

「一段目が麻袋で埋まったら周囲に盾を配置してくれ!

 二つ目の火柱もあげるから! 組み立て用意!」

「「おうさー!」」

 村人の士気も高い。

 作戦は順調に進んでいる、かのように思われたが、

「きゃー!?」

 村人の一人から悲鳴が上がった。

「どうした!」

「ひ、人が」

 火柱の中に、ゆらりと人影が立ち上がる。

 サンドマンの肉体を焼けば片付くもの、と思っていたが、

「これは、アッシュマンなのか?」

 砂人形、木片人形と来て、最後は灰人形だった。

 燃やしてもダメなのか。

「いや、大丈夫さ」

 諦めかけた俺の目に、お婆さんのしたり顔が映る。

 火柱の中に現れた人影は、ゆらゆらと揺れて細りながら散っていく。

「あれだけ軽いと、結合を維持できないはずだよ。

 バラバラになって終わりさ」

「ふう」

 焦った。

 これで終わらないようなら、本当に手がないところだ。

 しかし『偶然』は、まだ残っていた。

 ぱちぱち、と火の弾ける音がして、

 パチン! と一際おおきな音が響くと、空を舞う一欠けらの木材を見た。

「あ」

 崖下から伸びる木目の手に、その一欠けらが飲み込まれていく。

 爆ぜる小さな火種を抱えたまま、だ。

「ヤバイ」

 俺は危険を察知した。

 しかし指示を出す間もなく、巨大な敵の腕が発火していた。

 巨腕から全身へ、火が舐めるように広がっていく。

 一瞬にして火達磨に。

 おそらく、これでサンドマンは終わりだ。

 討伐は成功だろう。

 しかし、ヤツは残された最後の時間で暴れまわる。

 この村が滅びることも、ほぼ確定したと言っていい。

「うわあ! 逃げろー!」

 村人達から悲鳴が上がる。

 俺はもう呆然と見守るのみ、だ。

「やれやれ、結局はこうなっちまったかい」

「あ、すみません。お婆さん」

「後のことは、よろしく頼んだよ?」

「え?」

 お婆さんは展望台に立つと、火達磨を見下ろしていた。

「なにを?」

「これでも昔は『劫火のフエルニケス』と呼ばれた魔法使いでね。

 このくらいの炎なら、私が抑えてみせるさ」

「ちょ」

 レアが崖の上に戻ってくると同時にお婆さんは、

 フエルニケスはその身を投じるように、火の中へと消えた。


 その後、暴れると思われた火達磨は沈黙。

 動きを止めて、粛々と自らを焼き続けた。


 俺は火が消えるまで、巨体が完全な灰になるまで、それを見詰めていた。


 

 どれくらいの時間が経っただろう。

 ガサリと灰が動いた。

「ん?」

 もぞもぞ、と中から這い出してくるものがあった。

「んん!?」

 それは、サンドマンを討伐した後、

 嵐が来たものの、すでに過ぎ去り

 朝日が昇ると同時に立ち上がった裸の少女。

「いつまで見てるのよ」

「あ、ごめん」

 指摘されて、思わず視線を逸らしてしまった。

「この状況で、アナタの服は誰のモノ?」

「え? あ、はい」

 誰のモノか、と言われたら俺のモノなのだが、彼女に上着を貸した。

「ふむ。よしよし。なかなかの反応ね」

「えと」

 そんなことより、彼女に聞きたいことがある。

 肉体的には随分と若返ってしまったようだし。口調も別人だが、

「フエルニケス、なのか?」

「ええ。生まれ変わったようなものだから、また新しい名前を考えなくちゃ

いけないけど。

 まさか、生き返る保障も根拠もなしに、火の海に飛び込んだりなんて、

 できるわけないでしょ?」

 彼女が生きていた、という事実に、まずはホッとした。

「とりあえず、いまは一刻も早く、どこかに連れて行ってちょうだい」

「なんで?」

 そして、どうして俺が連れて行くことだけは決まっているのか。

 そう言うと、フエルニケスはショックを受けたように顔を歪め、その後に、

 唇を尖らせた。

「言ったでしょ? 『後は頼んだ』って?」

「言われたけど、俺は何を頼まれたんだ」

「火蘇生の魔法は10年分の魔力を使うの。

 つまり、この先10年は守って貰わなくちゃ割りに合わないのよ」

「はあ」

 確かに、手を貸してもらったし。命を助けてもらったし。

 再蘇生のために必要、と言われるなら、仕方がないだろう。

「そ・れ・に~!」

 フエルニケスは、いきなり俺の上に覆い被さってきた。

 上着一枚の姿で。

「え?」

 彼女は顔を真っ赤にしていたが、別に恥じているわけではないようで。

 ぺろりと舌を出して、おどけていた。

「前にシたのって50年も前のことだし。さすがに我慢できないって言うか。

誰が相手でもいい気分なのよね」

「ええ!?」

「これも蘇生の副作用ってことで、いただきま~す」

「ちょ!?」

 俺は万事休す、と目を閉じた。

 すると、砂を踏みしめ、灰を蹴散らす音が。

「レア!」

 姿を見なくてもわかる。

 俺は救世主を見るために振り返り、菩薩のような彼女を見た。

 すごい笑顔だった。

「何をしているんですか? プランターさん?」

 語尾に「軽く蔑ろにしますか?」と付いてもおかしくない感じだった。

  

 でも正直、俺に聞かないで欲しい。

 襲われているのは俺の方です! と言いたかった。

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