創世式
サンドマンの討伐はほぼ確定的となった。
しかし、空気の悪いまま二人きりになったキズオとレアは、
レアの借りた家は、空き家というだけあって、家具が何もなかった。
椅子も机もない中、茶を入れる。
他の家から水を貰い、火を起こして湯を沸かし、茶葉を入れて。湯飲みは
自分達が持ち込んだ荷物の中から綺麗なのを取り出して。
レアは、その荷物箱に背を預けて、体育座りで茶を待っていた。
茶葉をこして、差し出す。
「出来たけど」
彼女は読みづらい無表情のまま、湯飲みを両手で包み、受け取った。
「ありがとうございます」
さて、どうすればいいのだろうか。
素直に謝ってしまうのが、一番いいのだろう。
「ごめん。レア一人でも何とかなりそうだったのに、邪魔して」
「いえ。私の方こそプランターさんの作戦を邪魔して、すみませんでした」
お互いに謝ってしまう。
ほぼ反射的に、彼女も謝っていた。
「でも、たぶん、ほら、薪の代金は払わされるだろうし」
「私も、あのまま敵を倒し切れたかどうかはわかりませんから」
お互いの弱点もさらし合った。
どちらも正しい判断であったことを認め合う形だが、
以前、ぎこちない雰囲気のままだった。
俺は話題を探す。
何か疑問はないか?
考えるべきことがあったはずだ。
たとえば、
「いまさらだけど、サンドマンの栄養源になる魔力って何なんだ?」
「知らなかったんですか!?」
「知りませんでした」
「あ、いえ」
レアが驚いたように言って、まずい、というように口をつぐんだ。
俺は『サンドマンの栄養になるもの』という認識だったが、レアにとって
は別の、常識的なものだったらしい。
「魔法的なモノの考え方で『創世式』というものがあります。
『0=1』『0=1|-1』
『0÷0=(1|-1)÷(1|-1)=1』
という一連の考え方です」
俺には数字の羅列にしか見えないが、彼女の中では考え方として成立して、
読めているようだ。
「最初の式は、
『この世界の始まりが必ず無であることに間違いはない。が、
自分達が今ここに存在している以上、無より生じる有も必ずある』
という意味です」
「なるほど、な」
とりあえず頷いておいた。
「二つ目の式は、その証明として使われた『分離式』というものです。
無=プラス、分離、マイナス。
簡単に言えば、何もないとされている無を『無理やり分離する』というもの
で、この考え方は色々な分野に応用が効くとされています」
俺の中では単一の使用法すら思いつかないが、
「魔力は、ここで出てくるマイナスのことです。
式の途中に出てくる『|』は『計算してはいけない』という意味で」
レアが段々と乗ってきた。
実は魔法オタクだったのだろうか。随分とイキイキしているが。
「三つ目の式は、0枚のクッキーを0人に配るとどうなるか。という問題で、
魔法的な答えは、
『クッキーが0枚でも、それに相当するもの(お金、材料)は必ずある。
その場に配る相手がいなくても、クッキーを用意した以上、人はいる』
という答えになるそうです。面白くありませんか?」
「あ、ああ」
どこらへんが面白いのだろうか。
俺から仲直りをしよう、というオーラを出していたせいか。
ただ単に魔法の話が好きなのか。
彼女はその後、しばらく楽しそうに語り続けた。
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