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初仕事、行動

レア隊VSサンドマン。

ペンデルスに残ったキズオとレアは、

 俺とレアの『どちらが村に残るべきか?』という口論は、小隊の年長者

エイシンの一言で決着した。

「お嬢ちゃんはお嬢ちゃんで好きにすればいいじゃねーか。

 キズオはキズオで好きにしろよー」

 という、適当な一言によって。


 冷静に考えれば、答えは簡単に出た。

 レアが残れば、何かが出来て、意味がある。

 彼女が残るかどうかは、彼女の意思で決めればいいことだった。

 そして、

 俺は残っても、帰っても、何もできないのだから、どちらでも同じだ。

 残るかどうかは、俺の意思で決めればいいことだったのだ。


 レアは空き家を、俺は民家の一室を借りてペンデルスの村に一泊した。 

 俺が寝ている間も、レアは孤軍奮闘である。

 彼女は首都から援軍が到着するまで、三日分の食料を用意して森に配備し

単身サンドマンに挑んだ。

 自らが『人の手に負えない』と説明した怪物に、一人で立ち向かっている

ことになる。

 正気の沙汰ではない。

 俺は展望台からレアを見守るつもりで、見入っていた。

 サンドマンの周囲を走り回って、時折、注意を引くように片手剣で攻撃して

いるレア。

 反撃しようと手を伸ばすサンドマンだが、くるり、くるり、と踊らされて、

レアは捕まる様子もなく、また同じことの繰り返しだ。

 飽きることなく、間違うことなく、機械のような精密さで同じ動作を淡々と

こなしていた。

 まるで、像を殺そうとする蜂のようだ。

 一見して、絶対に無理だろうと思うのに、無機質な殺意を放つ小さな者に、

いずれは恐怖感を抱かざるを得なくなってくる。

 レアを見ているだけで、寒気がした。

 例のお婆さんも俺の隣に立ってレアの戦いぶりを見ると、まもなく、感嘆の

ため息を吐いた。

「ありゃ何者だい?」

「シルヴァレア・レイフォート。王国軍の騎士で」

 とんでもなく規格外な強さを持っている。

 鍛えただけで、ああはならない。

 基本的な戦闘リズムも規格外。腕力も走力も、女性の平均を遥か遠くに追い

やっている。

 反応速度も、人間の限界を軽く超えていた。

 もともと持っている才能が違うのだろう。

「たぶん誰よりもすごい子だと思う」

 おそらく俺は今、伝説を見ているのだ。

 一昼夜、休息を取ることもなく化け物と互角に戦い続ける少女。

 これが伝説にならないはずはない。

 吹聴する人間なら俺の隣にいることだし。

 レアは凄い。

 凄すぎて、近くにいるのが難しい。

 隣に立っているだけでも、否応なく自分の非力さを思い知らされるからだ。

 

 俺はレアから視線を切って、お婆さんを見た。

 凡人でもできることをするために、だ。

「準備できました?」

「そりゃあ、まあ、言われた通りにはしたがね。

 あんなもの何に使うんだい?」

「もちろん、敵を倒すための準備です」

 そもそも俺は、準備の良さを買われていたはずなのに、最近はそのあたりを

完全に失念していた。

 無茶は俺の仕事ではない。

 突発的なトラブルも、反射神経が必要になる戦闘も手に余る。

 ならば何をすべきなのか。

 周到に準備して、執拗に思考して、対処より先の未来を読んでいくのだ。


 この辺りの街道は左右を野原に囲まれている。

 サンドマンの性質、特徴は様々だ。

 砂漠は縦長で、砂の量が十分ではない。

 レアは相手の魔力切れを狙っている。


 ここまでの条件が揃っているのなら簡単だ。

 レアの意思を無視することにはなるが、仕方がない。

「お婆さん、やっちゃって」

「あいよ!

 みんな、やっちまいなー!」

 俺はお婆さんに合図して、

 お婆さんは村人全員に合図して、崖の上から大量の砂を降らせた。

 サンドマンの注意がレアから逸れて、降り注ぐ大量の砂へ向けられる。

 お預けされた犬のように、サンドマンは砂を貪り始めた。 

 レアは、俺を含め、崖の上に立つ全員を睨んでいた。

 ここまで魔力を消費させたのに何をするんですか、と目が問うている。

 しかし、それも一瞬だ。

 彼女は視線をサンドマンに戻して、戦う意思を崩さない。

 俺が回復させてしまった分の魔力も、自分で削り倒すことに決めたようだ。

「休めよ」

 思わず、口から悔しさが漏れた。

「次の投下は十分後にしよう、と思う。

 いまから俺が下に言って、レアに作戦を伝えてくるから」

「あいよ」

 お婆さんは「やっぱり若い子はいいねえ」などと冗談を言いながらも、準備

の方は手早く行ってくれているようで、村人が村へと走っていた。

 俺は、高さ60メートルからの直滑降だ。

 ロープを使って、一気に降りる。

 その様子をレアも見ていたのだろう。半分も降りないうちに、彼女の声が、

がけ下から聞こえてきた。

「戻りなさい!」 

 容赦なく俺を打つような声だ。

 怯まず、声を返す。

「作戦があるんだ。聞いてくれ」

「必要ありません!」

 絶対的な拒絶。

 とても強い拒否に、俺の心は打ちのめされていた。

 仕方がないことだ。

 俺は彼女の期待を裏切り続けて、余計なことばかりしてきたし。

 関係の修復は、もう不可能だろう。

 俺への憧れなど、とっくの昔に消え去っているはずだ。

 彼女と再会してから、今が一番、お互いを嫌い合っている。

 それでも、

「一人で戦うのが作戦なのか?」

 激情を飲み込んで、俺は彼女の前に立っていた。

「使えるものは何でも使うべきだ。

 レアがどうしても一人で戦うって言うなら、俺はそれも利用する」

「どうして、私の邪魔をするんですか」

 彼女の声は悲しそうだったが、それでも自分を曲げることはない。

「レアが俺の邪魔をするからだ」 

 どちらも自分が正しいと思って譲らない、なら、あとはどちらがより正しい

のか。やってみなければわからないだろう。

 彼女にとって、いまの俺は敵以外の何者でもなかった。

「アナタと知恵比べをするつもりはありません」

 『アナタ』という他人であることを突き付ける言葉に、また胸が痛んだ。

「しばらく休みます。その作戦が終わったら、起こしてください」

「ああ」

 彼女は俺を避けるように、村の出入り口がある方へと歩いていった。

 実際のところ、レアがいなければ俺の作戦は成り立たないのだが、素直に、

ここで「協力してくれ」と言えるようなら、そもそも喧嘩などしていない。

 俺は仕方なく、サンドマンを疲弊させる別の方法を考えることにした。

 

 六時間後。


 レアが自分から起きて、展望台に現れるまで作戦は続いていた。

 砂漠と森の境目を行き来する空中ブランコを敷設してから数時間、崖下に

向けて大量の砂を投下していた。

 サンドマンが右往左往して砂を回収し、魔力を回復している。

 しかし動き回ることで、魔力を消費してもいる。 

 俺は、回復と消費のバランスを取り、サンドマンに『特殊な砂』を回収して

貰い続けていたのだ。

 レアは放り投げる前の『砂』を見て、ようやく手に取った。

「これは、木片ですか」

 彼女の言葉に頷いてみせる。

「村の人達に頼んで、薪を細かく刻んで貰った。

 もともとは街道の脇に生えていたものらしいけど。

 長く寝かせていたものだから、魔力もたっぷりだろ」

 サンドマンの主食は砂だが、雑食性でもあるとレアノートに書いてあった。

 つまりは、飢餓状態に陥れば何でも食べる、ということだ。

 砂状のものであれば、たとえ木片であっても、である。

「肉体の置換率は、現在時点で60%くらいだと思う。

 少なくとも半分以上は砂から、ウッドチップに置き換わったはずだ」

 あとは劇的な火力さえあれば、サンドマンの肉体は燃え尽きることだろう。

 レアはしばらく呆然と作業風景を眺めていたが、不意に俺を見ると。

「倒すのではなく、倒しやすくすることを考えたんですか」

「ああ」

「たぶん、成功すると思います。たぶんですけど」

「そうか」

 それはつまり、火を使ってもマグマライナーにはならない、という意味なの

だろう。

 砂が燃えて残るのは、ドロドロに溶けた砂だろうが。

 木片が燃えて残るのは、灰だけだし。

 おそらくサンドマンは、いや、ウッドチップマンは倒せるだろう。

 この時点で俺達の勝利は確定した。

 と言うのに、イマイチ喜びが足りない。

 レアも行き場のない片手剣を、腰に戻していた。

 会話がない。

 レアとの関係は、ギクシャクしてしまったままだ。

 彼女が危ない橋を渡り続けなくて済んだことにホッとしている自分と、彼女

のことを腫れ物のように思う自分がいる。

 会話がないから、ついつい余計なことを考えてしまう。

 俺がやらなくても、サンドマンが魔力切れを起こすまで、魔力を削り切って

倒せたような気がする、とか。

 沈黙に耐え切れない。

「援軍が来る前に火を放ったら、ダメかな?」

 レアはびくりと反応して、言葉を探すような間が開いた。

「火力は高い方がいいと思います。

 ザラさんとエニルさんの到着を待ちましょう」

「魔法召喚術に頼るべきだよな。やっぱり、そうだよな」

 レアの意見はもっともだし。俺もそう思う。

 しかし、そうなると暇なのだ。

 援軍が到着するまで、おそらく三日はかかる。

 初日は彼女の出番だった。

 二日目は俺が貰っている。

 とはいえ、あと半日と、明日が丸ごと残っていた。

 この空気の中、何もやることがないというのは、とんでもない苦痛だ。

 お互いをけん制するように、耳を澄まし、目の端で相手の様子を伺い、

なにをやっているんだろう、と自問する。

 とりあえず声をかけてしまえば、何とかなるだろうか。

「ああ、お茶でも飲む? 俺、入れるけど」

「え、あ、はい」

 彼女らしくもなく、カクカクとぎこちなく頷いていた。

「では、いただきます」

「了解です」

 村人に作業を任せて、俺とレアは現場を離れた。


 レアが借りている空き家の方へ。

 悪い意味での、二人きりだ。

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