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初仕事、開始

反省会が終わり、戦闘に関する知識が増えたキズオ。

改めてペンデルスの村へ向かうが、


 ペンデルスの村へ到着するまでの間に、レアの持っている紙の束、あの中身

を見せてもらっていた。

 内容は攻略団に集まった資金の動き、ほぼ出納帳である。

 奴隷達の養育費、闇金貨108枚も入っていた。

 その価値を見て驚く。

 市場に出回っている金貨の30倍。普通金貨3240枚に相当するらしい。

 銅貨一枚でジュース一本

 銀貨一枚で吟遊詩人から歌が買える。

 金貨一枚なら、

 サバイバルライフカードゲームプレミアム限定版『アイドル人生』『とある

王様の一生』『勇者の生涯』コンプリートボックスが手に入る。

 しかし、それだけの資金があってもダメなようだ。

 レアの予定表では、組織の維持はあと三ヶ月が限度、と書かれていた。


 ダンジョンまで移動するのに一ヶ月。帰還に一ヶ月。

 攻略の時間を半月と見積もった場合、戦闘訓練は二週間で切り上げる計算だ。

 意外とギリギリだな。

 50の部隊が半々に出動することを考えれば、

 訓練の機会は多くても4,5回。

 成長のチャンスは少ないし。確実にモノにして行かなければならない。


 俺が資料に目を通し終えるより速く、レア隊はペンデルスの村へ到着した。

 はずなのだが、目の前には岩肌がむき出しの断崖絶壁があるだけだった。

「ここです」

「マジか」

 レアの紙束を参照すると、断崖絶壁の上に村があるらしい。

 ペンデルスの別名は『巨人の遊び場』。 

 その由来は俺達の目の前にある町の土台にあるそうで。

 最大直径一キロ、高さ二十メートルという小判型の巨岩を三つも積み重ねた

天然の要塞になっている。

 古の巨人神が暇つぶしに積み上げた、という伝説があるのだとか。

 全高十メートルを誇るオールドプラクティスでも、ここを這い上がることは

難しいだろう。

 モンスターの存在を考慮するなら、こういう場所に村を作るべき。

 なのだろうが、

「馬が登れないし」

 リジーが不機嫌そうに呟く。

 ぺたり、と背中に触れて撫でてやっていた。

 ここまで世話をしてきて情が移ったのか。表情に反して、根はいい子なのだ。

「問題ありません」

 レアは断崖絶壁に開いた大穴を指差して、言った。

「モンスターは入れませんけど、人なら通れます。

 馬もギリギリ通るでしょう」

「早く言えし!」

 リジーは不機嫌そうに言い放って、嬉しそうに馬を引いた。

 ちぐはぐだなー。

 日常の一場面に和む、ところだが、俺達は依頼をこなすために来ている。

 これだけ大規模な天然防壁があっても討伐が必要になる相手、だとすれば、

相当の大物だろう。

 今から胃が痛くなるな。

 一行は洞窟のような雰囲気の大穴の中へ。緩やかに登るスロープに入った。


 しばらくは黙って歩くのみだ。


 スロープの終わり際に乾いた風が吹き付けてきた。

 砂交じりの風が頬を叩く。

 ある程度の覚悟をしながら、洞窟の向こう側へ。

 光、というより熱気の中に飛び込んで、

 森を切り裂くように真っ直ぐ縦へと延びる砂漠を見た。

「おー」

 感嘆の声が漏れる。

 展望台のように尖った地面の向こう側には、こちらを睨むように見ている

巨大なモンスターの姿があった。

 自然発生する砂丘より大きな砂の塊。

「サンドマンか」

 俺は戦慄と共に、敵の名を口にしていた。


 砂漠の只中にいるのだから、はぐれとは呼ぶまい。

 街道に現れる雑魚とはレベルが違う。ホームグラウンドで待ち伏せするボス

クラスの『サンドマン』だ。

 今回はレアも作戦会議を開いていた。

 トラブルのように出会ったオールドプラクティスとは違って、今回は仕事。

全力を尽くさなければ、依頼者に対して失礼に当たる。

 敵を背に、展望台へレアが立つ。

 リジー、オーザがその前に。

 エイシン、エニル、俺はその後ろに並んでレアの講義を聴いていた。

 女医スタイルのレアが全員に資料を配っている。

「見ての通り、敵はサンドマンです。

 彼らの肉体は砂で出来ています。

 食事も砂以外を好みません。

 砂に宿る魔力を消費し尽くすと、ただの砂として吐き出します。

 そして、砂の魔力が自然回復するのを待って、また取り込みます」

 レアの渡してくれた資料にも色々と書いてあった。

 物理攻撃は無効化される。

 火炎系の魔法は効き辛く、もし効いてしまった場合にも『マグマランナー』

という厄介な敵に変化するらしい。

 他にも場所によって肉体を構成する要素が違ったり、雑食性に変化したりと

様々な特徴がある。

 レア隊が勝てる要素は、皆無だ。

 唯一の希望があるとすれば、

「持久戦か」

「はい」

 サンドマンの前後には砂漠が確認できたが、細長い。

 あのすべてを「ただの砂」に出来れば、サンドマンは魔力の供給がなくなり

人間で言うところの飢餓状態に陥るはず。

 あとはサンドマンが新しい砂と接触できないよう隔離するだけでいい。

 と、言うのは簡単だが、

「実現可能かな?」

 俺たちだけで、というニュアンスを含めて聞く。

 と、レアは首を横に振った。

「応援を呼びましょう。

 10小隊50人で戦えば、何とかなると思います」

 レアは荷物をまとめて、来た道を引き返すようだ。

 俺も彼女の判断に従う。

 が、下りスロープをはさんで向こう側に村人の姿を見つけてしまった。

 サンドマン討伐の依頼をしたペンデルスの人々だ。

 20~30代の男達。乳飲み子を抱いた女性達。リジーやオーザと同い年と

思われる少年少女が親の手を掴んで、伺うようにこちらを見ていた。

 遠くとも「帰っちまうのか」という落胆の声が聞こえてくる。

 「何しに来たんだよ」という罵倒の声も。

 俺は立ち止まって声をあげようとしたが、

 何も言うことができなかった。

 この場で『必ず帰ってきますから』という言葉を放ったとして、どれだけの

信用を得られるだろうか。

 そう思うと声が出なくて、

「必ず帰ってきます。少しに間だけ待っていてください」

「!}

 レアに先んじて言われてしまった。

 村人は散る。俺達を見る目には疑心しかなかった。

 俺には耐えられない仕打ちだ。

 レアは、いまから助けようとする人々からあんな目で見られて、それでも、

頑張ることができるのだろうか。

 隣を見れば、何事もなかったように帰還の準備をするレアの姿がある。

 俺が一方的に見詰めていたら、不意に振り向いた彼女と正面から、視線が

合ってしまった。

 俺はとても情けない顔をしていたのだろう。

 レアは俺から視線を切ると、

「彼らの敵を倒せば、感謝してくれるでしょう」

 小さくそう言った。

 一瞬の静寂。それを貫くように、カン! と背後から硬質な音が聞こえて、

振り返った。

 そこにいたのは、杖をついて歩くお婆さんだ。

「帰ってはならん!」

 くわッ! と目を見開いて、脅すように言い放つ。

 外見に似合わず、随分と元気な人だ。

 他の村人が肩を掴んで止めるも、振り払ってまでレアの前にやってきた。

「アレは三日前の嵐の日に突然あらわれたもんじゃ。いつ消えていなくなる

かもわからんと言うのに、いま帰られてはなんっの意味もない!」

「申し訳ありません」

 レアは深々と頭を下げていた。

「こちらのミスです。

 街道のはぐれサンドマンを討伐するものと思い込んでしまい」

「そんなもん! 金を払ってまで依頼するはずないじゃろが!」

 お婆さんは杖を振り上げて、

「!」

 俺は咄嗟に、レアを守る形で手を出していた。

 杖は俺の手の甲に当たり、ピシャン! と割かし大きな音が響く。

「ほおう! 私の邪魔すんのかい!?」

「ああ、いや」

 怒っている相手に、どう言えばいいのかわからないが、

「すみませんでした」

「ああ!?」

 俺も頭を下げることにした。

「隊長、じゃなくてレアは、未熟な俺に経験を積ませたくて、弱い敵を探して

くれたんだ、と思います」

 それ以外に、こんな単純なミスをする理由はないだろう。

「俺が原因なんです。すみませんでした」

「じゃ、ここにいる連中は全員たいしたことないってことかい?

 素人同然の部隊を寄越した、と。そういうことかい?」

「う」

 墓穴を掘ってしまった。

 お婆さんは、遠くを見るような顔でそろばんを取り出すと、

「もう帰っていいよ」

 悪魔のように、いい顔で笑った。

「その代わり、今日この時から、あのモンスターの出した損害は全額アンタに

補填してもらうからね」

「げ」

 そうなったら、詳しく計算しなくともヤバイことだけは直感した。

 お金を払ってもらうどころではない。下手をしなくても、こちらからかなり

の損害賠償金を支払うことになりそうだ。 

 しかし、それでもレアは頷いていた。

「わかりました。人の命には代えられませんから」

「あー、うー」

 俺のせいで話がこじれた、のだろうな。

 レアの場合、ミスをした自分のせいだから、自分で何とかしなければ、とも

思っていそうだ。

 人の命には代えられない、と言っても、金がなければ組織を維持できない。

 組織を維持できなければ、結局は108人の奴隷っ子達、その他の仲間達に

だって迷惑をかける。

 お金の有無は命に関わるのだ。

「わかった。俺が残って、アイツに対処する。

 そうすれば活動費ってことで、実費は村持ちだし」

「?」

 レアが「何を言っているんですか?」と問うように首を傾げていた。

 俺も「いや、だから」と説明するように言い直した。

「みんなには一旦、援軍を呼びに、首都まで戻ってもらって。

 その間は、アイツが被害を出さないように、俺がここで見張ってるから」

「わかりました」

 レアの瞳が納得の色を浮かべた。

「では、私がここに残ります」

「え?」

 何とも、かみ合わない会話が始まった。


 数十分に及ぶ話し合いの末に、俺とレアが村に残り、

 エイシンとエニル、リジーとオーザは首都へ戻ることになった。

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