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戦闘訓練

母親から自立を認められたキズオ。

覚悟も決まり、気合の入るところだが、

 攻略団に奴隷の子供達が加わったことで、急速に小隊が出来上がってきた。

 最初は必要に迫られてという感じだったが、子供一人に付き大人が三人から

四人で面倒を見ることになると、それがそのまま小隊の編成として優秀である

ことに気付かされたのだ。

 逃げ出す子供もいたし、さじを投げる大人もいたが、

 『奴隷の面倒を見なかった小隊は戦時雑用ナシだからな』

 と通達したところ、ほとんどの小隊が真面目に子育てをしてくれた。


 俺はシルヴァレアの小隊に入れられている。

 他のメンバーは、エイシンとエニル。

 戦時雑用には女の子のリジーと、男の子のオーザが付いてくれている。

 リジーはとにかく不機嫌そうな女の子で。

 オーザは「親密度がリセットされる」という謎の性質がある。

 リーダー以外は戦力にならない人ばかりな面子だが、魔法使い二人には俺の

治療という仕事もあるし。仕方がない話ではあった。


 そして、小隊が出来上がったことにより、ようやくと言っていいだろう。

 戦闘訓練が始まった。


 と言っても、首都ダンゴルザ周辺に危険な場所はない。

 よって、徒歩一日と掛からない周辺の村からモンスター討伐の依頼を受け

出動する形を取った。

 これなら資金も集まり、訓練にもなって一石二鳥だ。

 

 100ある小隊の半分が任務に合わせてバラバラに出発する。

 シルヴァレア隊も初日こそ首都で留守番を食らったが、

 翌日。

 ダンゴルザから北東へ五キロの位置にあるペンデルスの村で、初陣を

迎えることになった。

 ひたすら緊張する。 

「キズオ。食えし」

「あ、ああ」 

 街道の端に馬車を止めての昼食中だった。

 リジーが料理を手に俺の前へ。戦時雑用の本領発揮だ。

 言葉遣いはアレだし、不機嫌そうな顔だが働いている。

 差し出された料理の見た目は、緑色のスープに仄かに黄色いブロック状

の具が浮かんでいるようだが、

「食えるのか、これ」

「知らんし」

 リジーの言葉で不安になりながらも、匙を貰い、口の中へ。

「んー!? 美味い」

 滑らかな口当たりが、すべてだった。

 材料は検討も付かないが、素材の味ではない。何種類もの材料をスープの

中に溶かしてあることがわかった。

「すごいなリジー! こんな特技があったのか!?」

「それオーザが作ったヤツ」

「あ」

 街道から少し離れた野原に臨時で作られた厨房、

 そこにオーザ少年が立っていた。

「美味かった。ありがとなオーザ」

「あ、いえ」

 控えめな返事で、視線も合わせてもらえない。

 最初期のオーザは誰に預けても評価された。

 しかし、誰にも馴染めず、あぶれてしまった経緯がある。

「じゃあ、あの、片付けします」

「ああ」

 オーザは逃げるように、次の仕事へ。

 重度のコミュニケーション不全なのだ。

 誰に何を言われても、オーガの心には響かない。

 信頼を示しても、親愛を示しても、無視される。

 これでは連携することができなかった。

 オーザを100%信頼して、背中を預けられないのだ。

「なあキズオ。聞けし」

 そしてオーザがいなくなった途端、リジーが俺の膝の上へ。

「俺は昼食中なんだが」

「聞けし」

「はい。何でしょうか、お嬢様」

「好みのタイプってどのくらい?」

「タイプ? でどのくらい、って何だよ」

「大きさ。リジーでも平気?」

 お子様から、すごく答えに困る質問をされた。

「リジーはキズオのタイプ?」

 もっと困る質問をされた。

「こっちから先に質問していいか?」

「早くしろし」

「リジーは、いま何歳だっけ?」

「20」

「嘘吐くな」

「20だし!」

「本当は何歳だ?」

「言わない」

「なら俺も」

「キズオは言えし。タイプはどのくらい?」

「そんなものはありませんな。

 女性は年齢で好きになるものじゃないからだ」

「綺麗事だし。若い方がいいじゃん」

「男には色々と見るところがあるのだよ」

「胸とか、お尻とか」

「教養とか性格な!

 というか、どうして俺の好みのタイプを聞くんだ?」

「私より小さい子が好きかもしれないし」

「安心しろ。下すぎるのはスルーだから」

 考えてみれば、下すぎるのはダメ、は倫理観の問題だが、

 俺にも『年齢的な好み』は存在しているのか。

「下はともかく、上はどのくらいまでいけるんだろうか」

「プランターさん。敵です」

 シルヴァレアのすごく平坦な声が聞こえた。

 すごく怖い。

 その話題はダメです、と彼女の態度が言っている。

「えっと、フォーメーションは?」

「前衛に私。中衛にプランターさん。中央にリジーとオーザ。

 リジーは私の後ろに。オーザはプランターさんの後ろです。

 五メートル以内には入らず、十メートル以上は離れないで」

「わかってるし」

 リジーは反発し、オーザは黙って、シルヴァレアの指示に従った。

「プランターさん? ザラさんとエニルさんは?」

「そういえば見てない!」

 どこに行ったのか。

 俺は、どうすればいいかわからず、混乱中だ。

「敵の種類は、なんだっけ?

 街道だから働きゴブリンと、はぐれサンドマンと、あとは」

「オールドプラクティスです」

 シルヴァレアが偵察していた方向、ペンデルス方面の街道には、

 「ずももももー」という吸引系の音が響いていた。

 そして遠目にも、デカイのいる、とわかった。

 街道の左右にある立ち木が五メートル。その倍だから十メートルくらいの

モンスター。

 全身が透明で、所々に斑点が浮いている。

 竹のように節があり、頭のてっぺんに髪の毛のような繊毛が生えている。

何となく、生物図鑑に載っているイソギンチャクを思い出した。

 色を抜いて、縦に引き伸ばした感じだ。

 それが一本ではなく、たくさん、おそらく百単位で群れていた。

「集合住宅を見上げるような感覚なんだが」

 しかし、シルヴァレアは敵の大木的な威容など関係ないようで。

「私はしばらく防御に徹します。プランターさんはどうぞ」

「え? コイツを倒すの?」

 俺と、オーザで?

 覚悟はしてきたつもりだが、初陣を飾るにしてもデカすぎだろう。

「強すぎないか?」

「残念ですけど、これで最下級なんです」

 コイツすら倒せないようでは話にならん、ということか。

「よし。わかった」

 気合を入れるように両頬を「パン」と叩く。

「とりあえず、短槍をくれオーザ。あとは盾だ」

「は、はい!」

 敵を見据えながら後ろに向かって手を伸ばす、とチクリとした痛みが、

「あ、ごめんなさい!」

「?」

 謝罪されて、気づいた。

 痛みの発生源は右手。親指の内側に、小さな切り傷が出来ている。

 深くはない。筋を痛めた様子もない。ただ、槍を握ると痛みそうだ。

「オーザ」

「は、は、はい」

「どんまい」

 軽く慰め、再度、手を伸ばす。

 オーザも今度は慎重に、穂先ではなく柄の方を渡してきた。

 今度はしっかりと短槍を見て受け取る。

 が、オーザの顔面は蒼白だった。

「あ、あの! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「大丈夫だ。盾も用意してくれ」

 オーザが慌てているせいか、スッと気持ちが落ち着いた。

 今は緊急事態なんだ。

 俺がやらなきゃ、たぶんシルヴァレアがやるんだろうけど、そこに頼って、

何も出来ないのは嫌だった。

 せっかく母さんにも認めてもらったのに、ここで出戻るのは、いかにも根性

が足りていないではないか。

 そう思うと、途端に視野が広がった。

 俺の背後にはオーザ。

 リジーとシルヴァレアは左手に陣取っている。

 オーザと同じく、支援する役目のリジーはもっぱら装備交換の練習だ。

 シルヴァレアの指示が飛ぶ。

「盾換装です」

「ん!」

「消化液防御用をください」

「むー」

「余裕があれば、装備の痛みを軽減するためにも」

「余裕ないし!」

 と言いつつ、すごい速度で順応していた。

 リジーはすごい子。

 そしてオーザも重たい盾を担いで持ってきてくれた。

「盾の用意できました!」

 しかし、

「これは『シルエットシールド』!」

 盾の素材を透明なものに限定することで、防御しながら、その向こう側に

存在する敵の動向が観察可能になった、という優れもの。

 なのだが、条件が厳しい。

 太陽の下であること。

 雲が出ていてもダメ。日陰や、ダンジョンの中でもダメ。

 それに、今回は相手も透明だからシルエットが見えない。

 普通の盾として使う分には問題ないが、問題にならないレベルのミスを

連発していることが、むしろ気になる。

 俺の不満に気づいたのか、オーザは恐縮してしまったようで。

「す、すみません!」

 怒っているわけでもないのに、謝られてしまった。

 オーザに自分と同じ匂いを感じる。

 普段通りの状態ならやれるのだ。料理も美味かったし。

 しかし、現場での判断が上手くない。

「オーザ」

「はい!」

「俺はお前のことが好きになれそうだ」

「???」

 え!? という感じで引かれた。

 言い方に問題があったのだろうか。

 考えても仕方がない。とりあえずシルヴァレアより前へ。

 それで、相手の攻撃範囲に入ってしまったのか。オールドプラクティスは竹

のような体をしならせて、俺の頭頂部、あるいは後頭部を狙うように思い切り

倒れてきた。

 まるで、竹刀で人の頭を狙うかのような一撃。

「あ」

 俺は咄嗟に、その場で座るように避けたが、盾を打たれた。

 「バーン!」と、尋常ではない音が響く。

 盾の底部が地面に擦れてビリビリと震える音がした。

 首が縮むような衝撃だ。

 もし盾を持っていなければ、そのまま頭を潰されていたかもしれない。

 ぞくっと、背筋に寒いものが。

 いまさらだが、コレは命がけの戦闘なのだと実感した。

 怯えて、足が下がりそうになるところを俺は前進していた。

 自分でもなぜ? と思いながら、震える足が前へ出る。

 敵に手が触れそうなほど近くに立って、ようやく気付いた。

 敵の攻撃方法が『竹刀打ち』なら、ここには攻撃が来ない。

 安全地帯なのだ。

 俺は短槍を腰の裏へ巻きつけるように構えを取り、柄のしなりも利用して、

思い切り、横薙ぎに振り抜いた。

 ざっくりと裂けるモンスターの体。

 竹に見えたソレは思いのほか脆くて、一撃で十本は吹っ飛んだ。

「プランターさん!」

「!」

 シルヴァレアの声が危機だけを教えてくれた。

 俺は直感的に背後を振り向いて、盾も槍も捨て、近くまで来ていたオーザに

覆いかぶさるようにして、庇う。

 その時、襲い掛かってくる竹の束を横目に見た。

 割った時の手応えは軽いが、なにせ10メートルの長さだ。

 一本五キロは下らない。

 それが十本か。

 打ち所が悪ければ、あるいは怪我くらいはするかもな。

 そう思いながら、全部、背中で受け止めた。

 皮膚が張り、弾けるような感覚が何度も襲ってきた。

「ごめん。大丈夫か?」

「(こくこく)」

 オーザは声もなく頷いていた。

 幸いなことに俺も意識を失っていない。

 背中の皮膚が裂けていなければいいが。

 とりあえず敵の攻撃が来ないうちに立ち上がらなければ、と思う間に、

 シルヴァレアが俺への攻撃を防いでいた。 

「下がってください。いえ、下がれますか。プランターさん」

「ああ」

 手足はノロノロと、だが動いてくれた。

 退いた先には、エイシンとエニルの姿が。

「いつの間に」

 二人とも手には水晶玉を持っていて、二人の間、街道の真ん中には巨大な

魔方陣がある。

「準備完了ですね。いつでも行けますよ」

「お嬢ちゃんやー。こっちに誘導してくれー」

 エイシンの言葉に、シルヴァレアが頷く。

 と、すごい勢いで魔方陣の方向へ走り出し、そのまま陣を飛び越えて後方

まで飛ぶように後退していた。

 途中でリジーを捕まえ「???」状態のリジーと一緒に、だ。

「速いなー」

「このまま放っておけば、いずれ魔法陣の上に来るでしょう」

 オールドプラクティスはしばらく動くのを止めていたが、やがて彼女の言う

通り、魔法陣の方向へ移動を始めた。

「はいはい。みんな離れた、離れたー」

 エイシンが全員を誘導するように野原へ退いていく。

 そして、しばしモンスターの動向をうかがうだけの時間が過ぎ、

 魔法陣の位置と、モンスターの肉体が完全に重なった。

「召喚!」

 エイシンの気合が乗った言葉に、エニルが応えた。

「爆発爆炎陣!」

 魔法陣が赤い光を放つ。

 と、世界が一瞬、夕焼け色に染まった。

「!?」

 モンスターの全身を包み込むほどの火柱が上がったのだ、と遅れて気付く。

モンスターから十分に離れていても肌が熱を持つほどの高温だ。

「よっしゃー! また成功だぜ!」

「やりましたね!」

 モンスターを完全焼却して喜ぶ二人だが、これは酷い。

 前衛などいなくともいいレベルではないか。

「凄すぎる」

 改めて、モンスターの死骸を確認してみる。

 やはり残らず灰だった。

「一撃じゃないか」

「まだまだ初期段階だぜ?」

 これで初期とか。

「呼び出すモノも安定しねーし。威力も方向もメチャクチャだな。

 もうちっと精度をあげねーと。味方を巻き込みかねん」

「おい!」

 そんな危険なものだったのか。

 せめて事前に教えておいて欲しかったが、

「いいだろうが。

 『魔法召喚術』! 

 いまので完成したんだからよー」

「前に言ってた魔法か。一応、おめでとうと言っておく」

「ありがとさん。

 んで、ご愁傷様ー」

「は? なんで?」

 エイシンは後ろを指差して笑っていた。

 振り向く前に気配で悟る。

 シルヴァレアだ。しかも、怒っていた。

「反省会をしましょう」

「ああ、はい」

 俺はすべてを諦めたように、項垂れた。


 激怒される心当たりが、ありすぎて困るくらいだ。

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