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やりたい事

貴族を敵に、奴隷を味方にしたキズオ。

仲間は増えてきたが、

 奴隷達を剣の広場に案内した。

 常連軍団には呆れられたし。親衛隊には軽蔑されたことだろう。

 しかし、シルヴァレアは「わかりました」と言って、手に持つ紙に書かれた

『戦時雑用』の文字に横線を引いた。


 奴隷達108名は攻略団の一員となったのだ。


 俺はゴドリーとジレイに、いつもの酒場へと呼び出された。

 が、エイシンとエニルの姿はない。

 まだ魔法の研究中なのだろう。

 団長二人はテーブルに酒が来るなり、口を開いた。

「どういうつもりだ?」

 息を揃えて、まったく同じ質問をしてくる。

「随分と仲良くなったようで」

「なってねえ!」「ご冗談を」

 ここでシンクロしたら笑えたのだが、まだハードルが高いようだ。

 軍団長の鼻息が荒い。

「任せろって言ったろうが。そんなに俺様は信用できねえのか?」

「いや、信用してるし。悪いと思ってる。

 今回は完全に俺の暴走だから」

「私達は一つの仕事に失敗してもどうとでもなりますが。

 あの子達は違いますからね。

 これでダンジョン攻略に失敗できなくなりましたよ」

「ごめん。申し訳ない」

 俺はなぜ、あの子達を仲間に引き入れたのだろうか。

 もちろん、奴隷達を助けたいという気持ちはあった。

 しかし、仲間に引き入れることが救いになるとは限らない。

 彼らが救われたと思うかどうかは、これからだ。

 俺は、ただ『やりたいだけ』というフワッとした理由ではなく、

 『やらなければならない』という使命感を持ちたかったのだろう。

 そのために彼らを利用した。

 自分勝手な話だ。

 せめて、彼らが後々、救われたと思えるように努力しよう。

「そういえば」

 ふと聞いてみたくなった。

「二人がダンジョン攻略に参加する理由って」

「ああ? いまさらそんなこと聞いてどうすんだ?」

「単純に、ただ聞いてみたくなっただけで」

「まあいいか。俺様はモンスターを倒したいからだ」

「それだけ?」

「なんか文句でもあんのかよ。ああ?」

「いえ、何もないです。ジレイさんは?」

「この国の平和を脅かす存在を、許してはおけないからです」

「おお」

 まともな答えに感心する。

 が、ゴドリーは口に含んでいた酒を盛大に吹き出して笑った。

「グワッハッハ! テメーはこのまえ飲んだ時、

 『シルヴァレアさんに振り向いて貰いたい。

  目障りだった目の上のタンコブも消えたことだし』

 とか抜かしてたじゃねえか! なにをいい子ちゃんかましてんだ!」

「ちょ。おぉい!」

 二人は本当に仲が良くなっているようだ。

 というか、いま聞き流せない情報が飛び込んできたんだが、

「ジレイさん、シルヴァレア狙いだったんですか?」

「いや、その、国王軍に所属していた頃から憧れていただけで。

 彼女とどうにかなりたいがために騎士を辞めたわけでは断じてない!」

「ああ。はい。そういうことですか」

 言い訳をしているが、その顔は真っ赤だった。

 酒のせい、ということにしておいてあげよう。

「そうなると、親衛隊の人達はみんなシルヴァレア狙いですか」

「私はともかく、彼女に命を救われた者は多いからね。

 憧れと恋を混同し、吊り橋効果で邪な感情を抱く者がいてもおかしくない」

「いや、おかしいと思いますけど」

「おかしくないんだ!」

「ああ、はい」

 ジレイさんは意外とヤバイ人だったのだろうか。

 どう思います?

 と、話を振ろうと思ったゴドリーまで、顎を摩りながらもともと怖い目を

限界まで細めていた。

「超銀かあ」

「まさかゴドリーさんも?」

「いいや。別に狙ってるわけじゃねえが。

 『超銀のヤツを一度は地面に這い蹲らせる』と決めてんだ。

 その後でなら、俺様の女にしてやらんこともないな」

 ニヤリと笑うゴドリー。

 そこに、酒とお冷やをぶっかけようとするジレイさん。

 もちろん止めた。

 「貴様なんぞに勝てるものかーッ!!」と叫んでいたが、俺もゴドリーも、

もはや構う気はない。

 恋する男は攻撃的だなー。


 しばらく飲み食いしていたが、何か忘れているような気がして。

 バタン!

 と、酒場の扉が開いた。

「キズオ!」

「あ」

 まずい。部屋をふらりと出てから、一度も戻っていなかった。

 酒場に飛び込んできた勢いのまま、母さんはテーブルまでやってきて、

「帰るよ!」

 有無を言わさぬ一言を発した。

 襟首を掴まれかねない剣幕に、俺は頭を下げるしかない。

「ごめん。帰れない」

「なんでだい!?」

「やりたいことが出来たんだ」

「怪我を治してからにしな!」

「わかった」

 俺は唖然とする二人に頭を下げると、店を後にした。


 母さんの背中を見ながら歩いていた。

 怒りに任せて腕を振り、不機嫌さを隠さない。俺を置き去りにする勢いで

実家に戻っている。

「母さん」

 返事はない。

 俺が勝手にしゃべるしかなかった。

「やりたいことが出来たんだ。

 家族のために何かをするより、大切に思えることで」

 おそらく『コレ』は『夢』と呼ばれるものだろう。

「俺は人の役に立ちたい。

 きっと、人の役に立つことが好きなんだと思う。

 好きだから続けられたことだし。続けてきたから何かが出来そうなんだ」

 不意に、強烈な罪悪感が生まれた。

 今日まで育ててもらっておきながら、愛情を感じていながら、こうして心配

してもらっておきながら、他にもっと大切なことが出来てしまったのだから。

 母親より、やりたいことを優先する自分がひどい人間に思えてくる。

「ごめん! 母さん、ごめん!」

「いいさ」

「!」

 その声があまりに優しくて、俺は驚いてしまった。

「アンタが、自立するんだねえ」

 息が詰まる。

 俺は泣きそうになって、

「しっかりしな。これからなんだろう?」

 頷く。

 母さんは俺の背中を叩きながら、俺を安心させるように抱いた。

「躓いたら帰っておいで」

「ぶッ! ちょ、不吉なこと言うなよ」

 俺の頬を涙が流れていく。

 しかし、それは笑いの中で流した嬉し涙のように感じられた。

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