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行動不能、戦闘不可能

自分には『劇場化』という能力がある、とわかったキズオ。

しかし、

 究極の客観視『劇場化』能力。

 それを自由自在に操ることができれば、俺も戦力になれる。

 そう思ったが、

「オマエさんの出番は、ここまでだぜ」

 エイシンはそう言って、俺の肩を叩いた。

 「おつかれさん」と。


 俺が実家に運び込まれ、寝ている二日の間に色々なことが起きたそうだ。

 常連軍団と親衛隊の和解。

 エイシンとエニルの顔見せ。全員の顔合わせ。

 盗賊団との交渉。

 王政府は正式にダンジョン攻略者を募集し始めた。

 それにより、組織はシルヴァレアを中心に団結しつつあるそうだ。

 俺を置き去りにして、すべてが順調に動き始めている。


 首都ダンゴルザの東端にある住宅街。

 農業従事者が多い集合住宅の一角に、プランター家がある。

 俺は自室で横になっていた。

 目だけが冴えてしまって、眠れない。 

 ガチャ、と部屋の扉が開く。

 お見舞いか、とも思ったが、

「母さんか」

 部屋に入ってきた母親は、なぜか笑顔だった。

「怪我の具合はどうだい?」

「動かなければ、もう痛みはない」

 エイシンが何かしてくれたのだろう。

「アンタ。頑張ったんだってねえ」

「いや」

 思わず否定してしまう。

 『自分はよくやった、頑張った』と思ったが最後。

 そこですべてが終わってしまう。

「何を言ってんだい。

 たった一週間で300人も人を集めたんだろう?

 立派なもんじゃないか。

 アンタにそんなことができるとはねえ」

 どうやら予想外だったようだ。

 食事を作ってくれたし。包帯を替えてくれた。傷で火照る肌を布など使って

冷やしてくれていたが、

 言葉だけが痛い。

「もう少し、やりたかったんだ」

 ダンジョン攻略の準備を。

 シルヴァレアと一緒に。

 それが、俺の本音だった。

 母親の表情が厳しいものへ変わる。

「止めときな」

「なんで?」

「危険だからに決まってるじゃないか」

「いや、母さんだって最初は」

 やれ、と言っていたじゃないか。

「アレは冗談さ。

 絶対に無理だと思ってたからね。

 アンタは昔から、あたしの言うことを何でも聞いてくれる子だったから。

これからは実家の手伝いばかりじゃなくて、何かやりたいことでも見つけて

くれれば、って思ったんだよ。

 でもさ。

 ダンジョン攻略とか、そういう危険なことは、アンタには向いてないよ。

 自分でもそう思うだろ?」

 確かに、俺には向いていないのかもしれない。

 でも、俺はダンジョン攻略に惹かれてしまった。

 母さんが焚き付けたんだから、どんなことになっても応援してくれ、とは

言えない。

 むしろ、

「わかった」

 自分の願いは潰してもいい。母親の願いを叶えよう。

 俺は自然とそう思いながら、

 でも母親に隠れて、ちょっとシルヴァレアを手伝うくらいはしよう。

 と決めた。


 さらに三日が経過した。


 とりあえず動けるようにはなったので、さっそく剣の広場へ。

 杖をつきながら歩いていると、周囲から妙な視線を感じた。

 「アレが」とか「例の」という声が聞こえてくる。何か、前にも同じような

ことがあったような、

「あ」

 しかし、その正体を知る前にシルヴァレアを見つけた。

 広場の中央。分厚い紙の束にペンを走らせている姿があった。

 彼女の両脇には未だに名前がわからない親衛隊長と、軍団長。

 と、もう一人。

 黒フードに黒覆面。全身の肌を残らず隠している性別すらわからない人。

 アレが、盗賊団の代表者だろうか。

「おう! キズオじゃねえか!」

 軍団長が声をあげる。

「えっと」

「あ? どした? 俺の顔わすれちまったか?」

「いや、名前が」

「名前が出てこねえのか!? 頭をやっちまったんじゃ」

「いや、聞く機会がなかったから」

「お? おう。そういやそうだったか。

 俺様の名前は『ゴドリー』。親衛隊の頭は『ジレイ・セントラル』。

 新顔の名前は、そういや聞いてねえな」

 顔のない新顔、黒ずくめは軽く会釈して、

 沈黙を貫いた。

「名乗らねえのかよ!? 何なんだ、アイツは」

「顔出しも声バレもダメ、か」

 これは、ハンドサインが必要になるわけだ。

 とりあえず俺はエイシンの姿を探して、

「あ」

 あちらも昼夜問わず顔バレNGであることに思い至った。

 そうなると、誰に相談すればいいのか。

「ん? どした?」

 ゴドリーが不思議そうに俺を見る。

 彼に相談してみるか。

 よくわからないが、そこはかとなく好意のようなものを感じるし。

「役に立てないかと思って、来たんだ」

「おいおい。その体で無理するんじゃねえよ。こっちは任せとけって」

「いや、雑用でも。そういえば『戦時雑用』が必要って言ってなかったか?」

「まあ、言ってたがよ。

 戦時雑用ってのは、人員と荷物の運搬とか。タイマツを持って歩いたり

とか。とにかく戦闘以外は何でもするヤツのことだ」

「それでいいんだ。俺も何かの役に立ちたい」

「おいおい。ちょっと待て」

 ゴドリーが怪訝そうな顔をしていた。

「なに言ってんだ? 本気じゃねえよな?

 組織をまとめた功労者を雑用に使うわけねえだろうが」

「あ」

 そうか。

 俺はゴドリーにも認められていたのか。

 そして俺は雑用を申し出たことで、彼を『努力をしても、結果を出しても

評価しない人間』にしてしまうところだったのだ。

「そんなことしてたら士気に関わる。ちったあ人様のことも考えろよ」

「あ、ああ」

「ったく。こっちの調子が狂うわ」

「ごめん。謝る。

 これからって時に怪我で離脱だし。少し焦ってたみたいだ」

「気持ちはわかるが、俺様を信頼してくれてもいいんじゃねえか?」

「ああ。そうだな」

 でも、それなら俺はどこに行けばいいんだ。


 組織の中に、俺の居場所がないと感じていた。 

 

 エニルとエイシンの二人に会えるだろうと思って酒場へ。

「自惚れんなー」

「師匠! さすがにそれはヒドイですよ」

 慰めてもらうつもりで来たわけではないが、見事にカウンターを食らった。

「つってもなー。何が不満なんだか」

 特に不満があるわけではない。

 ただ、

「中途半端な気がして。

 このまま皆を送り出して、もし、誰かが帰って来なかったら」

「自惚れんな、って言ったろう。

 オマエさんは三百人からの指揮をするつもりなのか?」

「いや」

「オマエさんが一緒に行ったからって、なにをどうできる?」

「何かできるだろ」

「はあー」

 エイシンはわかりやすくため息を吐いて、俺を見る。

「あの決闘を見たヤツらが『ヤラレ形のキズオ』って二つ名を付けたくらい

だ。がっかりさせてやるんじゃねーよ」

「なんだ。それ」

「なんちゃら形は、フリじゃねーかって意味だな。

 女形とか。人形とか。そういう系列だぜ。

 本当はすげーのにヤラレたフリしてたんじゃねーか、ってことだ」

「過大評価だよ」

「それだよ、それー。

 オマエさんは今、評価を下回るようなこともしちゃいけねーんだ。

 評価を上回ることができねーんだから」

「ああ。そういうことか」

 俺は本当に、今、何もできない。

 何もしてはいけないのか。

「そもそも一般市民だったのに、ここまで出来ただけでも御の字じゃねーか。

なにをそんな、やる気になってんだ?」

「ダンジョンに行きたいんだ。

 行きたくても行けない、ってなったら、余計に行きたくなった」

「んー?」

 エイシンがうなる。

「もっかい言ってくれ」

「は?」

「今の台詞をもう一回だ」

「あ、ああ。

 ダンジョンに行きたい。行きたくても行けない場所だから」

「そうだぜ!

 そうだそうだー! 行きたくても行けねえんだ!」

「念を押さなくても」

 傷に塩を塗らなくてもいいじゃないか。

「ちげーよ!

 新しい魔法の話だぞ!?」

「は?」

 今は魔法の話をしていたわけではないのだが。

 考える、って話を以前にしていたくらいで。

「いまの話のどこらへんが、新しい魔法なんだ?」

「わかったんだよー。

 人間には行きたくても行けねー場所がある。

 生きている間ずっと歩いたって辿り着けやしねー場所だ。

 そこから何を持ってきたとしても、不思議じゃねー。

 心、魂、時間と来て、最後は『空間』だ。

 オレはこの閃きを待ってたぜ!」

「エイシン。俺の話は?」

「あー。すまん。

 愚痴でも何でもエニルに言え。オレは今から忙しくなるからよ」

 それを言い終わる頃には、エイシンは荷物をまとめて店の外へ。

「じゃーな!」

 とても良い笑顔で、子供のような無邪気さを見せていた。

「ごめんなさい。悪気はないんですよ?」

「ああ。わかってる」

 自分より年上の男なのに、男の子だもんな、仕方ないよ、と思える。

 あの感じだと、魔法は強化されるのだろう。


 俺の居場所は、やはり『こういう』裏方になるのだろうか。


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