不思議な絵
シリウスはぼんやりと遊ぶ子どもたちを見ていた。
澄んだ黒の瞳は穏やかに、しかし心はどこか遠くにあった。
僕はこの景色を知っている。
不思議とそう思った。
一際強い風が吹いた。
シリウスは目を閉じて風をやり過ごす。
「あ…」
目を開けると何かが視界をよぎってひらひらと落下した。
下を向くと、それは画用紙の様だった。
拾い、裏返すとそこにはクレヨンで不格好な絵が描いてあった。
それは何かの絵本のワンシーンの様だった。
いったいどこから…そう思ってあたりを見回すも先ほどから絵を描いている子どもはだれ一人いない。
その時だ。
また一枚ひらひらと遅れてやや遠くに舞い落ちた。
頭上を見上げると、三階の窓から小さな手が引っ込むのが見えた。
もう一枚の紙を拾おうと一歩踏み出すと、何人かの少年たちが走ってきて、そのうちの一人が絵を拾って甲高い声で笑った。
「へんな絵!!」
そう言うと他の少年たちも笑い出す。
シリウスは少しむっとして少年たちの方へ足を向けた。
「君たち。その絵を返してくれるかな?」
声をかければ少年たちは何事かとシリウスの方に目を向けた。
「これ、おまえの?」
少年の一人が絵を差し出すと、シリウスは自分でも不思議なくらい自然に笑っていた。
「ううん。僕の、友だちの絵だ。素敵だろう?」
何故、そんな言葉が自然と出てきたのか、シリウス自身にもわからない。
けれど、本能が言っていた。
これはそういう絵だ。
「ふーん」
少年は大人しくシリウスの絵を渡すと興味をなくしたように走り去ってしまった。
少年から渡された絵を見て、シリウスは目を見開いて吃驚した。
その絵には不気味な、人とは到底ほど遠い、怪物の絵が描かれてた。