はじまりの朝
「シリウス様、シリウス様!起きてください、朝ですよ」
「あーもう煩いなぁ」
だんごのように丸まった白いシーツを引っ張って女が叫ぶ。
「おーきーるー、おきるからもうちょっとこのままでいさせ…」
「何をおっしゃいます。もう日があんなにも高くまで登っているというのに、お坊ちゃまの寝坊癖はいつまで経っても取れませんね」
「わかったよエマ。起きるから…お坊ちゃまっていう呼び方は止して」
むっくりと起き上った少年は欠伸をして目を擦った。
そして黒い髪をおもむろにかき上げ、きらきらとした黒い瞳で侍女のエマを見た。
「ねぇ、エマ。今日は何の日だったかな」
「何の日だったかな?ではありませんよ。今日は公爵様と奥様とともに小児病院の視察へ行く日でございます」
「え、うそ!」
「このエマが嘘を言うと思いますか?」
シリウスは少々顔を青ざめさせてベッドから飛び降りた。
あたふたとする様は十二歳の年相応の少年そのもの。
しかし、その年相応の振舞をするのは寝起きのこの時間に限ってのことであることをエマは知っていた。
「エマはやくしないと!」
「はいはい、わかっておりますよ。今お召し物を持って参りますね。その間に洗顔と歯磨きを終わらせておいてください」
シリウスは洗面所まで駆けてゆき、侍女のエマはやれやれと肩をすくめてクローゼットへと向かった。