首のない麒麟
首のない麒麟
今日も空を見上げると太陽はさんさんと輝き、空は青く、視界には高くそびえ立つビルの群れが見える。日常だ。この時代を生きる者にとってごくごく普通の光景がそこにはある。
だが、わたしにはこの普通が普通でない世界を知っているのだ。それは幼い頃、両親とともに京都へ寺巡りに行った時のことだった。わたしはまだ小さな足で長い距離を歩いたからか足の裏の皮がべろりと剥げてしまって涙目になりながら両親に休憩を乞うた。だがわたしが疲れてしまっただけで実際はそれほどの距離は歩いていないのだろう。両親はただ頑張れと言うばかり。両親が本殿を観ている間、近くに流れていた川に足を浸からせていたわたしは、遠くにいる両親の方を向いて軽く唇を尖らせた。
それからのことはよく覚えていない。だけどわたしは気付いたら足を浸からせていた川をうんと上に登った山の中にいて捜しに来てくれたお巡りさんに保護されたのだった。年老いた彼はしわくちゃな手でわたしの頭を撫でると昔からたまにわたしみたいな子どもが出るのだと教えてくれた。まだまだ明るかったはずなのにいつの間にか真っ暗になっていたこと。迎えに来てくれた両親が不気味そうにわたしを見ていたこと。当時はさっぱりわからなかったが、そう。今思い出してみるとあの時わたしは朝着ていた服ではなく小袖と言われる着物を着ていたのだ。
ぼんやりと覚えてる記憶の中で、わたしはビルの群れなんてどこにもない不思議な世界を見ていた気がする。