表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

「ふぅ……ここまで逃げればモニカも追っては来れないでしょう」

 場所は変わってアルトナの街から渓谷を一つ跨いだ所にある森林。ルインズは全力疾走で消費した体力を取り戻さんとするべく、その鬱蒼とした森の奥深くにあるただ一つ陽だまりができるギャップで休憩を取っていた。

 森のざわめきとでも言うのだろうか、木の葉の擦れる音や鳥たちの鳴き声が絶妙なハーモニーを奏で、聞く者の心を落ち着かせる。

 ここで昼寝をするのがこの上なく心地が良い。どうやらここは動物たちの憩いの場になっているらしく、ルインズが寝転がっていると様々な動物が集まってくるのだ。

 そんなスポットを森に迷い込んだルインズが発見したのはおよそ五年程前であろうか。初期の頃は動物たちもルインズを怖がって近寄ってこなかったのだが、毎日通っているうちに動物たちは彼に仲間意識を芽生えさせたようだった。

 キツネがりんごを咥えてルインズに寄り添って来た時は嬉しくて涙が出たほどである。

 今日もルインズが切り株を机のように使い、それに背をもたれていると動物たちがわらわらと集合する。今では本当の家族よりも家族になったような森の仲間たちだ。

 その内の一匹、あのキツネの頭を撫でて言う。

「あぁ、キツネちゃん。今日は君たちとお昼寝に来たんじゃないんだ」

 頭を撫でられて嬉しいのかキツネはくんくんと鳴く。その様子を見て、ルインズはにっこりと笑った。

 欲を言えば、もふもふの動物たちに囲まれて脱力しきった肉体に英気を取り戻したいのも山々ではある。しかし、それで本初の目的を失う訳には行かない。

「さて、そろそろぼくは行きますね。また、もふもふさせてください」

 言いながらルインズは立ち上がった。キツネたちが寂しそうな目で見つめてくる。

 彼らに踵を返し、その場からまだまだ森の奥へ。


 霧が霞み、森を熟知したルインズでさえも正体不明な植物や動物がいる、少し危険な森の奥。ルインズは見たことが無いが、もしかするとキメラやらコカトリスなどの幻獣が生息しているかもしれない。

 足に絡まる草々を力任せに引き千切りつつ、前へ前へと進む。

 何度も来ている為、道順は覚えている。幻獣による幻影魔術を受けない限りはたどり着くことができるだろう。

 歩くにつれて徐々に瓦礫が目立ち始める。それも様々な種類の瓦礫があり、人工的に作られたかのような岩の破片であったり、それから錆びた鉄の棒が飛び出した瓦礫もある。

 一段と目立つのは、岩とも木材とも取れない滑々した建材である。一度燃やして見たところ、黒い煙を放ちつつ不健康な臭いがした。それからは後悔して触れていない。

「おっと……そろそろですかね」

 霧の中にうっすらと大きな建造物の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。苔や葦で覆われた巨大な遺跡である。

 どうやら昔は大きな塔だったらしいが、途中でぽっきりと折れてしまっている。窓の名残であろうか、直方体の遺跡の壁には等間隔で四角い穴が開けられており、ちらほらガラスの破片のような物がのこっている。

「いやはや……興味深い物です。古代の技術は一体どのような物だったのでしょうか」

 ついつい癖になってしまった独り言が口から出る。

 ルインズは遺跡の中に入り、崩れた柱の残骸を避けながら歩みを進める。謎の機材や鉄で出来た床、パイプが張り巡らされた壁。完璧にルインズが住む世界とは一線を置く雰囲気がある。

 案外空気は澄んでいて、崩れ落ちた屋根から太陽光が差し込んでいる。何処からか流れ込んでいるのだろうか、床は山水で少々ばかし濡れていた。

 おそらく古代人の遺物の一つなのだろう。世界中で稀にこのような遺跡は発見されるらしい。だが、まだこの遺跡を知っているのはルインズただ一人のようであった。

 世間の明るみに出て、然るべき機関に独占されてしまう前に古代技術を解明して見せよう。ルインズは最初、この遺跡を見つけた時にそう心に決めたのだ。

 日々調査をする内に将来、魔術師になるのではなく、遺跡研究者になろうというのが夢になっていた。この遺跡にある様々な物体がルインズの心を惹き込んでいく。

「……おや?」

 床にキラリと光る物体を見つけ、ルインズはしゃがみこんだ。

「これは……この遺跡では良く見かけますが、一体何に使用した物体でしょうか?」

 錆びた鉄でできた円状の物体に棘のような物が八方に突き出している。

「ふむ……」

 ルインズは首元から昔、父に貰ったペンダントを引っ張り出す。ペンダントにも、突き出ている棘の数は違うが酷似した物体が付いている。父は魔術師を仕事に持ち、趣味として遺跡の探検を休日に行なっていたらしい。

 そのときに他の遺跡から拾ってきた物なのであろうか。ルインズは思考しつつもペンダントを元に戻し、用途不明の物体を纏った黒いローブのポケットに突っ込む。

 ルインズはしゃがんだ拍子にずれてしまった眼鏡を掛け直し、遺跡の奥の奥に進んでいく。

 十数分程歩き回っただろうか。一直線の廊下とおぼしき通路を通った末、瓦礫の山がルインズの行く先を塞いだ。

「……これは人為的に瓦礫が積まれたような感じですね。屋根は崩れていませんし、近くにこれほどの瓦礫を生み出せる損壊部は見受けられません」

 ルインズは瓦礫に向かい、手のひらをかざす。

「さて、初期化ですね」

 その一言で道を塞いでいた瓦礫は重力を無視し、元ある場所に戻っていく。ある物は亀裂と亀裂の狭間に嵌まり、またある物は見えなくなるほど遠くにまで飛んでいった。

 あっという間に瓦礫の山は無くなった。今、ルインズの歩みを遮る物はない。


 どうやら通路の先は外に繋がっているらしい。薄暗い通路に目映い程の明るさが飽和を始める。出口はその光によって輪郭が少々失われているようにも錯覚してしまうほどだ。

「こ、これは――!」

 光を越えた瞬間、ルインズの眼界には様々な物が映った。その全てが見たことの無いような物である。

 比較的大きな部屋。というよりは工廠のようだった。

編み目のある鉄の床。天井には屋根が無く、その代わりに木々の木の葉とそこから差し込む光のカーテンが覆い尽くしている。

 そして、夢でも見ているかのようにルインズの瞳には金属で出来た人形がずらりと隊列を作るようにして並んでいる光景で光輝いていた。

「こ、これは……初めて見ますが『ゴーレム』でしょうか……? 本では泥や岩で作られているのが一般的と読みましたが、金属のタイプもあるんですね」

 ルインズは期待に胸を高鳴らせつつ、一体のゴーレムに駆け寄った。夢にまで見た古代遺物が目の前にあるのだ。興奮しないわけがない。

 大きさはおよそ、六・七尺はあるだろうか。その巨躯を見上げつつルインズは分析を始める。

 全体的に金属でできた体躯は長年ここで仁王立ちを続けている所為であろうか。舐めるように苔と錆びが全身を覆い尽くしており、茶と緑が織りなすカーキ色になってしまっている。

「これではディティールまで把握できませんね……『初期化(リカバリー)』」

 ゴーレムから苔や蔦がはじけ飛び、みるみる内に錆が磨かる。新品同様の輝きを取り戻したそれは、赤い塗装が施されていた。

 肩から背中にかけて橙色のパイプが配管されており、赤い細めのパイプが背中から腰に繋がっている。そして、その背中には大きくガラス張りの丸い穴がぽっかりと空いていた。

 腰にはエアダクトのようなスリットが入っている。

「……うわぁ、これは最高に興味深いっ……!」

 ルインズのボルテージがゴーレムを分析するにつれてどんどん上昇していく。普段は見ないような機関があり、その全てがルインズの知的好奇心を刺激する。

 そんなルインズの目線がゴーレムの胸元で止まる。何かが刻み込まれているのだ。

「これは個体名称でしょうか……? なになに、『Stein』……?」

 どうやらこのゴーレムはシュタインという名を持つようだ。ルインズはシュタインをどうにか稼働させようと試行錯誤を尽くすが、その顔部にある双対の瞳は光を宿すことは無かった。

「……燃料、ですか。……携帯魔力は持ってませんし、一端戻りますか……」

 携帯魔力とは、魔力の込められた宝石のことだ。魔力の少ない物でも、生活用具として普及している魔道具くらいならば数個で動力として機能する便利な宝石である。

 残念なことに先程モニカと戦闘した時、ローブを少し破られた部分から所持していた携帯魔力を全て道端に落としてしまっていたらしい。

 ルインズはため息を吐いて、家に携帯魔力を取りに帰るべく元来た道を辿ろうとゴーレムたちから踵を返し――――


 ――轟音。

 ――蒼い閃光。

 ――揺れによって高周波を奏でる鉄の床。

 ――空間が歪み、吸い込まれる景色。

 ――止まる時間、進む異常。

 ――一瞬の静寂、後の爆風。

 ――残るのは一つ。白銀の繭。

「――ッ!?」

 突然の出来事であった。ルインズが帰ろうとした瞬間、空間に亀裂が入り蜷局を巻いたのである。激しい閃光が辺り一帯を蒼く染め上げ、一気に水が蒸発したかのような水蒸気の爆発が巻き起こった。

 ローブが強く煽られ、眼鏡が飛ばされかけるのを手で防ぐことによって押さえ、荒れ狂う水蒸気の蹂躙を耐え抜いた。

 蒸気はひんやりとした森の空気に曝され、すぐさま結露してしまう。そして、霞が消えたルインズの視界には一つの繭がそこに鎮座していた。

 爆風により、おでこにかかってしまっている眼鏡を元に戻してルインズは落ち着こうと努力する。しかし、突然の出来事に脳内は正常な判断を下せない。

「な、なんだです。これは――ッ!?」

 震える足を無理矢理動かして、近寄った。

怪しげに青白く光る白銀の繭をルインズは慎重に慎重に、調べる。

 鼓動を脈打ち、繭は揺れている。手で触れてみるとほんのりと暖かい。生き物なのだろうか。ルインズは疑問に思い、ガラスが張られた蓋を覗き込んだ。

 ――その中には。

 ルインズの黒い髪とは対照的な真っ白な髪。精密に人形職人が作ったかのような顔立ち。ほんのりと紅潮した頬。おまけに見たことも無い真っ白な衣を身に纏っている。

 少々幼い顔の少女がその中に乗っていた。

「え、……えぇ!?」

 自分の頭の中で考えていた展開以上のことが目の前で起こり、ルインズは思わず後ろにこけてしまった。心臓の動機がどんどん高鳴っていき、息が思うようにできない。

「な、なんで女の子が……」

 そんなルインズに追い討ちをかけるように、繭が真ん中で裂けるように割れる。繭の隙間からは蒸気が噴出。

 抜け落ちるように繭の中から落ちてくる少女をルインズは慌てて抱きかかえた。ひどく顔が青ざめていて、意識を失っているようだ。

「一体、何が、起こって、いるんです!?」

 気絶している少女に語りかけた訳では無い。気が動転した上に自身の独り言癖が合わさったのである。事態を全く把握できない。

 そして、そんなルインズに比べものにならない最大の追い打ちがかかった。

「待って、待てよ、待ってください」

 白銀の繭が登場した所為で何らかのショックが掛かったのだろう。ゴーレムの瞳に光が灯り、一斉に動作を開始したのだ。

【右腕関節部、肩甲部ノ導管ガ異常ヲヲヲヲ……】

【内部回路故障、通信伝達不可不可不可……不】

【人工筋肉ノ損傷。動力機関ノ異常、大腿部導線ショート……】

【視野範囲極狭、周囲データ取得不能。重度ノ錆ニヨリ、行動制限大。修復要求】

 気味の悪い音声でゴーレムたちは状態を告げる。しかし、すでに故障してしまっているゴーレムが大半で、ほとんどが行動することは無かった。

 それどころか次々と青白い電気を弾かせて壊れていっている。

 ただ一体を除いてだが。

【System boot……ok all complete\動作確認……so good \視覚範囲確認……so good \外部及ビ内部合計損傷率……zero percent\個体名『Stein』確定命令ニヨリ行動ヲ開始シマス】

 腰のスリットから排気しつつ、こちらを向いて瞳の色を紅に染めるゴーレムが一体。

 先程ルインズが修復したゴーレム、シュタインである。

【規定ノ範囲ヲ超エタ技術ヲ確認。外世界カラノ侵入者ヲ敵トミナシ、攻撃ヲ開始シマス】

 シュタインはその巨躯に似合わぬ軽やかさでこちらに向かって走る。

「うおっ! 動いてる!」

 ルインズは一瞬、シュタインの稼働した姿に見惚れてしまった。しかし、どうも様子がおかしい。このままあの巨体が自分に突っ込めば、間違いなくぺしゃんこだ。

「――ッだぁ!」

 ルインズは急いで少女を抱きかかえ、鉄の床を蹴って跳ぶようにシュタインの体当たりを回避した。紙一重で躱し、シュタインはそのまま繭に突っ込んだ。

 ぐしゃり、と金属がひしゃげる音。少女が入っていた繭はシュタインの一撃によってただの鉄くずへと変化してしまった。

 踊る青白い放電の中、シュタインは首をこちらに向けて瞳を輝かせる。

【……未撃破。目標ノ再確認。発見、次ノ手段ヲ実行開始】

「くっ、素晴らしい……! 素晴らしいですよ。ですが、追いかけられるのは本日何回目でしょうか!」

 ルインズは少女を抱きかかえたまま、出口へと走る。ルインズは少女を抱きかかえている為、どうしても移動速度が遅くなってしまう。それに比べ、シュタインは腰の排気により推進力を得て、徐々にスピードを増してきている。

 このままでは追いつかれてしまう。ひやり、と火照った体に寒気が走った。

 どうにか時間稼ぎをして、モニカに救援を頼む。そうしなければこんな化け物、ルインズが勝てるわけがない。

「くっ……『進行しろ!(パレード)』」

 ピシピシっと乾いた音と共に壁に亀裂が入り、瓦礫が一点に積もり始める。塵も積もれば山となる、すぐに通路はルインズとシュタインを遮るように瓦礫で塞がれた。

 先程ルインズが修復し、瓦礫を元に戻した通路である。つまり、修復前に戻してしまえば瓦礫の山がシュタインの行く先を封じるのだ。

「これで多少の時間は稼げるはず……!」

 ルインズは一気に加速する。このチャンスに距離を離さなければ勝ち目は無い。

【障害物ノ確認。右腕部、対戦車榴弾発射許可】

 瓦礫を越えた奥からシュタインの音声が通り抜け、聞いたことも無いような妙に金属が擦れるような音が通路に響き渡る。

【3……2……1……Go!!】

 カウントダウンの後に、耳を劈く爆音。そして、通路が煌煌とした紅蓮と橙色の蹂躙で染め上げられた。モニカの爆発魔術の上を行くような爆裂。その爆風に煽られ、ルインズは転けそうになりながらも身近の柱に隠れこむ。

 ルインズは柱から顔を出し、相手の様子を探る。

「……冗談じゃありません。こんな化け物にモニカでも勝てるかどうか……」

 そもそもシュタインを街に誘導してしまったらとんでもないことになるだろう。森の仲間たちに危険を及ばせるわけにもいかない。

 もはや闘うしか道はない。

 しかし、何故かシュタインはルインズが修復したゴーレムだというのに、『進行』させても元のボロボロの姿に戻らない。

 ルインズが修復及び進行できない対象は生命を宿す者である。ならば、このゴーレムはルインズが修復した後に生命を宿したとでも言うのだろうか。

 そういえば、とルインズは抱きかかえている少女の顔を見る。ゴーレムたちは少女が搭乗していた繭が放った蒼い閃光に照らされた後、動き始めた。

 あの光はもしかすると、大量の魔力だったのかもしれない。それか、それに代わるエネルギーとしか考えられない。

 そんな異能力に照らされて生命を持ってしまったのだろうか。

【目標消失。レーダー展開、技術力ノ原点ヲ検索開始……】

 シュタインは砕け散った瓦礫を蹴りつつ、熱によって赤みを帯びて変形している鉄の床を踏みゆく。

 どうやら、シュタインはルインズたちを見失っているらしい。キョロキョロと胴体部を回転させて辺りを見渡している。

 だが、見つかるのは時間の問題だろう。はやく対策を考えなければ敗北は確実だ。

 神経を集中させて対策を考えるルインズを邪魔するように腕の中で動き出す者が。

「……むにゃ。ん?」

 可愛らしい声が腕の中から聞こえた。

 ルインズは吃驚して少女の顔を見つめる。目と目が合う。

「……ふ、ふぅーあーゆぅー?」

 お姫様だっこされている少女は緊張気味に開口一番そういった。よく見れば顔を赤くしてぷるぷると震えている。

「目が覚めましたか。もう抱っこは必要ありませんね?」

 ルインズの問いに少女はこくこくと頷く。

「お、おぅ。おーけー! って翻訳技術効いてるんだ。じゃあ日本語で良いわけだね!」

ニホン語? ルインズは聞き覚えの無い国の名を聞いてますます頭が混乱する。

「まぁいいです。今、この状況が分かりますか?」

「う、うーん……。分かんないよ」

 無理もない。事の始まりからこの少女は気絶していたのだ。ルインズは早口気味に事の顛末を説明する。

「ふ、ふーむ。つまり、あのロボットに追いかけられてるってわけだね?」

「ろぼっと……? あのゴーレムはろぼっとというのですか」

【検索率……80 percent……】

 シュタインは赤い目を点滅させてその場に立ち尽くしている。何かを調べているのだろうか、ルインズには分からない。

「……よし、私に任せて!」

 そう言って少女は柱から飛び出した。ルインズが止める間もなく突然に、だ。

「き、危険です! 早く戻ってください!」

「むぅ、私は子供じゃないよ! 安心して!」

 少女が飛び出したのとほぼ同時にシュタインの目が点滅を終えた。

【検索結果……技術力ノ原点ヲ二点発見。ソノ内一点ガ接近中。攻撃モード切替、対戦車榴弾発射許可】

 シュタインは飛び出してきた小さな体に向けて右手を照準する。まずい、ルインズは叫ぶ。このままでは先程の瓦礫のように少女の体は砕け散ってしまうだろう。

【3……】

 少女はそんなこと関係ないといった様子で、繊細そうな右手を天へと掲げる。着ている白いローブが、風が吹いていないのに翻る。

【2……】

 シュタインの右腕部が開き、回転を開始する。空洞になっている腕からは迸るように白い蒸気が暴れていた。

【1……】

 ルインズが飛び出す。しかし、このままでは間に合わない――ッ!


模倣職人(リプレイ=レイス)ッ!』


 だが、奇妙なこともあるものだ。少女の鈴のような声が遺跡に響くと同時。鉄の床や壁から鉄板、鉄骨などの金属がシュタインを取り囲むように浮遊・回転。

 まるで空の星々の動きを再現した後に、その金属たちは変形。一瞬の内に組み立て上げられた。

 ルインズはこんな物体を見たこともない。シュタインの頭上には長方形の口金のようなものがつり下げられており、その上の螺旋連結部には巨大なハンドルが鎮座している。まるで万力のような相貌である。

 そして一連の機関を支えるように四本の足が地面にガッチリと深く突き刺さっている。

「今回の作品は『スクラップマシン』だよ」

 言うと同時に少女は掲げていた手を振り下ろす。そう、命令を下すように。

 その命令に基づいて『スクラップマシン』と呼ばれた人工物は起動する。黒板を引っ掻く音や猿の鳴き声のように生理的悪寒を引き起こす鉄と鉄が擦れるような音が響き渡った。

 ハンドルが火花を散らせながら旋回。それに連動し、口金がシュタインに襲いかかった。

 たった一瞬だ。

 万力による驚異的な圧力。地面と口金の狭間にいるシュタインは為す術も無く、押しつぶされる。

 ルインズは少女に駆け寄り、シュタインの最後を見送った。

【理解 能ナ圧 二ヨリ……メ ンシス ム大破。停止シマ 】

 瞳の明滅が途切れたという事実。それはシュタインが完全に破壊されたことを意味する。

「き、君は一体……」

 ルインズは少女を見る。今のは魔術ではない。それよりも高度な異能力。

「やぁやぁ、君。普通は自分が名乗るのが礼儀だよ」

「あ、すみません。ぼくはルインズ。ルインズ=マルチネスと言います」

「うふふ、そんなに固くならないでもいいよ。私はレイスって言うんだ。よろしくね、ルインズくん!」

 にっこりとレイスは笑って、呆然としているルインズに手を差し出した。同時にレイスのお腹がぐぅー、と不満を訴える。

 目をまん丸にして頬を赤くしたレイスは、はぅっと呟いて一言。

「……ねぇねぇ、ルインズくん。あたしにこの世界の美味しい食べ物、紹介して欲しいな」

Military in the Fantasy の癖にミリタリー部分がまだ出てきてませんね


ロリかわいいです。僕はロリコンではありませんが

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ