【第九話:その男、傍観す。】
またもやお久しぶりですー。
だるめに頑張ると言いながらだるめにすら頑張っていないのではというのはさておき、今回も読んでいただけると幸いです。
「き、貴様、魔法使いだったのか…。」
「ははっ、一般人とは言ってないだろう?」
意地の悪い笑みを緩く浮かべながら、カルフは地面に着地する。女性は横抱きにしたままで。
「こっちも行かせて貰うぜ。」
いつの間に装着したのか、カルフの腕にはめられた緑の石のブレスレットがしゃらん、と軽い音をたてた。
「(…あの、馬鹿。)」
黒藍が心の中でカルフに対して悪態をついた瞬間、
ゴウッ!という凄まじい音を立てて突風が巻き起こった。
当然、さして広くもない通りにそんな風が吹けば、魔法軍の男とて対策を講じる事ができるはずもなく。
「うっ、うわあああぁ!?」
「っ!!?」
ぶわり、けして細くも小さくもない男達が空中へ投げ出された。
「都まで送ってやるよ。軍人さん達?」
キラリ、と効果を横につけてやりたいぐらいの笑顔でカルフは軽く指を振った。
「まっ、待て!、うわあぁ!!」
空中に投げ出された軍人の男達はひどくあっさりと、しかし激しい勢いで跳ばされていった。
その様子をポカンとした様子で見る横抱きにされたままの女性だったが、やがて自分の置かれた状況に気が付くと、顔を真っ赤にして俯いた。
それにはカルフも気付いたようで、緩やかに女性を足元から降ろす。
「あぁ、すいませんお嬢さん、ずっと抱き上げてしまっていて。」
「あ、いや…、その。」
「?」
「ありがとうお兄さん!」
「あぁ、いやいや。怪我がなくて良かった。貴方のその美しい肌に傷がつかなくて。」
砂を吐くような台詞をカルフはさらりと言ってのける。
カルフは改めて女性を注視した。
歳は二十代の半ばといったところだろうか。
この国では比較的よく見られる緑がかった黒髪。気の強そうなつり目がちの双眸は美しい空色をしており、目鼻立ちも整っている。
格好は、粗末と言ってもよい簡素な一枚布のロングスカートワンピースだったが、貧しさや苦しみを感じさせないほどに女性の瞳は強い意思を宿しており、まさしく、美人と言って遜色ない女性だった。
下心や打算が無かったと言えば嘘になるが、やはり助けて良かった。とカルフは心から思った。
「ははは、美しいなんて、そんなことないよ。それよりも、本当に助かった。魔法使いにも、いい人はいるんだね。」
「ああ、そうだ、どうして魔法軍と揉めていたのか、訊いても?」
「…どうもこうも、向こうが一方的に絡んできただけさ。ただ普通にしていただけだってのに。」
「…。」
最近、調子に乗っているどころか、かなり強引な魔法軍の者が出始めてきた。
自分達が特別だと思い込み、何をやっても許されると勘違いしているのだ。それはカルフが黒藍に対して放った、気を付けろ。の言葉が意味する事の一つでもある。
「まあ、そんなことは良いよ!お兄さんの御蔭で今回は助かったしね。それより、お兄さんの名前を教えてくれないかい?お礼がしたいんだ。」
「あぁ、いやいや、別に謝礼目当てでやったことじゃあないですし、あの軍人達にイラついたからやっただけで。」
「それでも、助かったのは事実だよ!アタシのうちはそう遠くないし、お茶ぐらい飲んでいかないかい?」
「人を待たせてるんですよ。気持ちだけで十分です。」
「っじ、じゃあせめて名前だけでも…。」
これでは気がすまない、と少々辛そうに女性は食い下がる。
しかしカルフも、けして大手を振って歩くことのできる人間ではない。困ったような顔でカルフははにかんだ。
「…名乗る程の者じゃあありません。」
緩く微笑み、カルフはその場に少し強い風を起こした。
そして、通りにいた数名が目を瞑った瞬間にもう一つ風を起こし、通りを一つ飛び越える。
「さようなら、お嬢さん。」
ビュウッという音と共に表れ、消え去った名も知らぬ青年の浮かんでいた空をを、女性--レイラはじっと見つめていた。
カルフは先程黒藍といた路地を再び歩いていた。
ついつい助けに入ってしまい、黒藍をほったらかしにしていたのだ。確実に何か言われるに決まっている。
女性に見つからぬように、少し遠回りしてたどり着いた場所に、黒藍の姿は無い。その代わりに、ご丁寧にレンガ造りの建物の壁に無理矢理突き刺さる形で、黒藍の持ち物である太い針によって紙が残されていた。
そこには、
「『帰る。仕事を蔑ろにすれば殺す。 --狐--』」
と書かれていた。
「…黒藍んんんっ!?」
先程の女性に気付かれるのではないかという声が、狭い路地に響いた。
黒藍さん空気!
実はカルフさんがレイラさんとお話し始めたくらいからいなかった黒藍さんです(笑)
傍観もしてないですね。
では、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!