【第八話:その男、呆れる。】
随分と間があいてしまいました。読んでいただけると幸いです。
いさかいの起こる通りに突如として響いた凛とした声。
揺れる茶髪と、深い緑青の瞳。バーテンダーのような格好をした男----カルフだった。
「(何やってんだあの馬鹿。)」
黒藍の眉間の皺は一気に深くなった。
何を隠そう先程まで自分の隣にいたくせに魔法軍に絡まれているのが女性と見るやいなや、瞬時に駆け出していった仕事仲間…カルフのせいである。
「(また、面倒な…。帰りたい。)」
イラつきがピーク気味の黒藍であった。
一つ、重く長いため息を吐き出して黒藍はカルフを見やる。
登場に問題があったのか、はたまた普通にうざったかったのか、カルフと魔法軍はぎゃあぎゃあと騒いでいる。
魔法軍の男は首にも腕にもアクセサリーを着けていて、いかにも馬鹿そうだ。…ちなみに黒藍がここから立ち去らないのは、今の魔法軍よりもカルフが後から絡んでくることの方がうっとおしいからであって、正直仲間意識だとかカルフへの心配などといった感情は微塵も無い。
「(…何が、気を付けろ。だ、あの屑野郎。魔法軍よりも先に嬲り殺してやろうか。)」
「なんだお前は!!」
「ただの困ってる女性をほうって置けない通りすがりだよ。」「えっ…と、」
カルフの乱入で更に収集がつかなくなった通りの喧騒。
黒藍は本気で帰りたかった。
「くそっどいつもこいつも我々を馬鹿にしおってからに…!」「馬鹿にはしてない、馬鹿なんだ。わかる?」
「貴様ぁ!」
不意に、魔法軍の男の周りの雰囲気が変わる。その雰囲気は、
「(これは…魔法?)」
どうやら街中で魔法を使ってしまう、ごく一部の方の馬鹿だったらしい。
随分男はキレているらしく、男のつけたアクセサリーがじゃらじゃらと音をたてる。
「(あのアクセサリー…魔法用だったのか。)」
正確には、アクセサリーについた゛石゛が、だが。
魔法には、二つの種類がある。
一つは、生まれ持ち、修業や才能によって開花させる属性魔法。
これは人の瞳の色にちなむもので、赤い瞳ならば炎、青い瞳ならば水や氷、緑の瞳ならば風、といったように、それぞれ別れており、比較的遺伝しやすい。
属性魔法を使うには、゛石゛が必要で、それが正に男のアクセサリーについている石である。
石とは、持つ人間の瞳の色と同じ色の宝石のこと。
ただの石ではなく、魔力の媒介として一定以上の鉱物の成分が必要であり、単純な話、魔法を使う為には瞳と同じ色の宝石が必要だということ。そのため、魔法使いは大抵、アクセサリーや装飾品として自分の石を身に付けている。
もう一つの魔法は、自製魔法と呼ばれるものだが、これは属性魔法よりもさらに個人の資質や生活環境が関わる魔法で研究はあまり進んでいない。
こちらは使える者の方が少ないが、色やアクセサリーは必要ない特殊な魔法である。
今魔法軍の男が使おうとしているのは属性魔法だろう。
アクセサリーの石の色は…赤。
つまり属性は炎だということだ。
刹那、カルフと女性がいた通りの床が炎によって弾かれた。
一瞬で上がった赤に野次馬共が一斉に逃げ惑う。
「ははは、私を馬鹿にするからこうなるのだ!馬鹿共め!」
消えた炎の後には半端に黒ずんだ煉瓦だけが残っていた。
二人が燃え尽きたと思った男は高笑いをする。しかし、
「随分と楽しそうだな?お馬鹿さん?」「!!?」
「その程度じゃあやっぱりショボいとしか言えないな、魔法軍サン?」
消えたカルフの声が響く。…頭上から。
上を見れば女性をしっかりと横抱きにして爽やかな笑顔で空中に浮かぶカルフの姿。
「(…アイツいつか殺す。)」
とりあえず黒藍の苛立ちは既にMAXだった。
まだまだ話の本題は遠いです。
読んでくださり、ありがとうございました。