【第五話:その男、潰す。】
1ヶ月ぶりです。
遅くなりました。いつもよりちょっと長いので、読んで頂けると幸いです。
「銀狐…だと!?」
「銀狐…!?」
数名の驚きの声が上がる。
黒藍は決して目立ちたがる性分ではないが、知っている者は知っているようだ。
「あぁ、ご存知で。」
「銀狐と言えば…、情報屋のくせに金さえ貰えれば何でもやるという、あの…?」
「解説どうも。」
黒藍は半笑いである。…顔は見えないが。
「潰しに来た…とはどういうことだ!?」
先ほど黒藍の首筋にナイフを突き付けていた男が叫ぶ。
「…そのままの意味だが?といっても…、これ以上しゃべる気はないけどな。申告してやったのは親切心とサービスだ。」
黒藍の纏う雰囲気が変わる。
男達もそれを察したようだ。
「っ!?」
数人の男が身構えると同時、黒藍は既に動いていた。
ドスリ、
黒藍の着物の袖口から伸びた刃の切っ先が、男の一人に突き刺さっていた。
「一人。」
淡々と黒藍は刃を振るう。
刀というより、暗器の類らしいそれは、雨の中にありながら禍々しい光を放っている。
「ひっ…」「いつの間に!?」
ドサッ。男が倒れると同時、黒藍は身を翻す。この場に居る者を逃がさぬように。
「二人。」
一人、二人。黒藍は誰にも逃亡を許すこと無く、男達を屠っていく。
「逃げるなよ。追いかけるのが面倒だ。」
ばしゃ、ばしゃん、男達が倒れる度、水音が響く。
心なし雨足も強まっているようで、逃げて散って行く男達の叫びや怒号と相まって、黒藍は不快であった。
「(まあ、身の程知らずに向かって来られるよりはマシか。)」
夜闇であまりわからないが、水溜まりに広がっているであろう赤を思い浮かべる。逃げられてしまうのも面倒だが、向かって来られ、抵抗されるのも面倒くさい。
もはや数えるのも面倒になったのか、黒藍は未だ逃げ惑う男達を無言で倒してゆく。
最後の一人とおぼしき男に黒藍が近づいたとき、男が口を開いた。
「たっ、頼む!止めてくれぇっ!!俺は、ただ割りの良い仕事が有るって、聞いて、ここに来ただけなんだぁっ!!」
命乞い、というのだろうか。男は必死の形相で黒藍に叫ぶ。
しかし、黒藍は歩みを止めない。黒藍の今夜の仕事は"取引を一般人に露見せぬよう潰す"事であって、男の話を聞くことではない。
ばしゃ、ぱしゃ。近づく黒藍に怯える男は可哀想というより、もはや滑稽であった。
暗器の間合いに男が来るように近づいた黒藍はゆるりと腕を振り上げた。
「たっ、頼む!!止め--」
ブシュッ。
躊躇なく武器を振るった黒藍は仮面をあげ、既に絶命した男を見下ろし呟いた。
「…仕事、完了。」
五話かけてまだ取引一つ潰しただけって…。我ながら酷いです。
読んで下さってありがとうございました!