友人は六人目だった
神父様のお客さんの中には、私が会っても問題ない人もいる。
むしろ深い付き合いになる人もいるのだけど、それが揃いも揃っておかしい。
「シルヴィア、今度こそ神父様を魅了するわよ!」
昼食後のティータイム。片付けは神父様に甘えてくつろいでいると、しばらくぶりに帰ってきた居候がテーブルを叩きながら咆哮した。
おかしい人間の筆頭。聖職者を落とす気満々なヴィルマ。
見た目は私と同い歳で、金髪碧眼というこの大陸ではポピュラーな色合いの少女。
「……だから、何で正攻法でいかないの」
「私は魔術師なのよ。なら最も得意な分野で勝負するしかないじゃない」
「一番勝ち目のない分野でもある事に気づきなさい」
神父様は魔王などという、今の時代の人間からすれば御伽噺な存在を倒した英雄だ。
神官が得意とする神聖魔術はもちろん、魔術師が得意とする精霊魔術も使いこなすスペルマスター。
物流障壁と魔法障壁にくわえ、呪い返しまで常時完備な歩く城塞。
駆け出し魔術師のヴィルマの魅了なんて、埃のように跳ね返されるだろう。というか実際跳ね返された。
ちなみに呪い返しというのは、呪いの種類を特定し、呪いの力の源を知り、呪いの術者を突き止め、呪いの流れを変えるという、非常に面倒くさい術式を組まなければならない。
それをほぼオートで行う神父様は、もう人間かどうか怪しい。というか人間じゃない。
「普通に告白すれば良いでしょう」
「無理」
一番まともな手段が即座に否定された。
「というかアンタだって無理だと分かってるでしょう。私たち一族が何回神父様にフラれたと思ってんの!?」
自分で言って絶望したのか、涙目なヴィルマ。
性格を表したような切れ長の目と、性格に反してすらりと通って大人びて見える顔立ちは、ヴィルマを美少女と評して問題ない魅力を与えている。
そんなヴィルマに何故これほど自信が無いのかと言えば、彼女の一族と神父様の妙な因縁のせいだったりする。
「先祖、代々、神父様に失恋し続ける。この無念が分かる!?」
「うん。そばで見続けてるけど分かんない」
ヴィルマの一族は名のある魔術師の家系らしく、神父様に代々弟子入りするのが慣例になっているらしい。
しかしヴィルマの一族は女系らしく、ことごとくヴィルマのような少女しか弟子入りにこない。
そして永遠の美青年(笑)な神父様に惚れる。ふられる。
私が知る限りヴィルマで六人目。そろそろ学習しないのだろうか、この一族は。
「あんな物腰爽やかな男臭くない男が他に居れば諦めるわよ」
「そうやって神父様の代わりを見つけて、貴女たちの一族は血を繋いでるんでしょう」
「くっ……確かにお父様は優しくて爽やかなナイスミドルだけど……」
あ、なんか今原因が見えた。
神父様に惚れる→神父様に似てる人と結婚→神父様に似てるので子育てもこなすナイスガイ→娘の理想の男性像が神父様タイプに→神父様に惚れる→以下エンドレス
原因は見えたけど不毛に深すぎて根っこが見えない。
最初に神父様に惚れた人は、ある意味子孫に呪いを残したのかもしれない。
「あーどっかに神父様みたいな人居ないかなぁ……」
椅子に座ったまま、足をぶらぶら揺らしながら呟くヴィルマ。
数日後。その願いは現実のものとなる。
なってしまうのである。