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友人はやはり頼りになる

 それから一日は何事もなく過ぎた。

 案外早く暗示の解けたディートフリート様の襲撃が何度かあったけれど、そのたびに暗示をかけ直しご退場いただいた。


 途中でようやく対策をすべきだと気付いたのか、宮廷魔術師に言って耐魔術のお守りを用意させていたけれど、少し込める魔力を強めればあっさり突破できた。

 宮廷魔術師作にしてはお粗末だったけれど、もしかして阿呆らしくてまともに相手にされなかったのだろうか。


 しかし丸一日籠城を決め込んだはいいものの、食事をどうすべきか本格的に考えなければいけなくなってきた。

 ディートフリート様には無意味とはいえ結界ははりっぱなしだ。

 いくらなんでも警戒しすぎだと思わなくもないけれど、初日に会ったあの慇懃無礼なメイドさんみたいな使用人ばかりなら顔も合わせたくない。


 そんな考え方をしている時点で、やはり私はまだまだ子供っぽいのだと気付く。

 表面的に愛想よくして食事を貰えばいいのに、あんな人間の世話になりたくないと駄々をこねている。


 かと言ってこの屋敷を逃げ出す度胸もないときた。

 さてどうすべきかと悩んでいると、救いの手は唐突に現れた。


「シルヴィー!」


 何かが結界に干渉していると思ったら、ディートリート様のような解呪(物理)ではなく術式を解いて侵入してくる少女の影。

 まあ予想どおりというかヴィルマだった。

 何故か顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いており、まだ舌足らずだったころの呼び方をしながら私に抱き着いてくる。


「し、シルヴィー。わ、私が居ない間に、いなくなって……」

「あー、ごめんね。心配かけちゃったね」


 どうやらちょっと散歩気分で村を離れている間に、私が居なくなったうえにディートフリート様に拉致監禁されたのを心配したらしい。

 というか本当にディートフリート様がやったことって犯罪じゃん。

 しかも相手がロイヤルガードの姉で国の恩人である神父様の養女とか、下手すりゃ将軍解任されるのではないだろうか。


「シルヴィーは……私が幸せにするから!」

「うん。ちょっと待って。落ち着いて」


 何でそこまで思いつめた決心をしてるのか。

 落ち着かせて話を聞いてみれば、どうやら城下ではディートフリート様が若い娘を連れ込んで手籠めにしたことになっているらしい。

 それ神父様かライアルの耳に入ったら殺されるのではないだろうか。

 実際には何もされてないというか何もさせてないけれども。


「落ち着きなさいヴィルマ。私が魔術師でもない相手にどうこうされるわけないでしょう」


 これは自信過剰に思われるかもしれないけれど本当のこと。

 戦士では魔術師には勝てない。一部の例外を除いて真理と言っていい。


 その一部というのはディートフリート様のような魔剣使いなのだけれど、だからと言って魔剣使いなら魔術師を圧倒できるわけでもない。

 魔剣があれば魔術に対抗できる。要は魔剣があってようやく魔術師と対等なのだ。

 そして魔術師は攻撃魔術以外にも様々な搦め手を持っているので、私がやったみたいに直接戦闘以外で相手を制する方法なんていくらでもある。


 魔術師を殺すならともかく、無効化しようと思ったら手を縛るだけでなく猿轡をして目隠しをしてついでに耳を塞いで情報遮断するくらいでないといけない。

 そしてそんな悠長なことをしていたら大抵どっかで反撃を食らう。

 呪文をとなえなくたって魔術は使えるのだ。


「それにしてもよく入って来れたわね」

「ふふん。私だって伊達にお姫様じゃないのよ」


 ああそうだっけ。

 まったくもって似合ってないから、神父様から聞いても次の日には忘れてた。


「でもシルヴィアを連れ出すのは難しそうね。無駄に警備が厳重だし、無効化するのは簡単だけど無効化したらしたでいろんなところに責任問題が発生するわ」


 そしてそういうことをちゃんと考えられるあたりは、ディートフリート様より実にお姫様らしいと言える。

 それにディートフリート様の我儘を女王陛下がどこまで許すかが未知数だから、あまりことを荒立てるのもよくない。


「ライアル様の魔物討伐もまだしばらくかかるみたいだし、私のほうでシルヴィアを解放するように交渉してみるわ」

「大丈夫? 王国と魔法ギルドの関係悪化したりしない?」

「むしろお婆様に話したらノリノリで王国に喧嘩売ると思うわよ」


 セニアならやりかねない。

 ヴィルマの一族は、なんだかんだ言って身内に甘い。

 神父様に弟子入りした時点で私とは姉妹みたいなものだから、下手すれば正面から奪還しにきかねない。


「なるべく穏便にね?」

「派手にやったほうがあの馬鹿王子に灸をすえられていいと思うけど」


 それは確かにそうだけれど、私のせいで戦争勃発とかしたら洒落にならない。

 そんな危惧とは裏腹に、次の日には私は解放されることになる。

 神父様とは別の、自称保護者の手によって。


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