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理解されない

 まあ何というか。

 やってくれたなこの野郎という感じである。


 私は百年以上も生きていながら人の悪意というものに馴染みがない。

 何せ保護者は無敵に素敵な神父様だし、村人たちだって善良な上に神父様に鍛えられ強さも兼ね備えた頼りになる人たちばかりだ。


 そばに悪人が寄ってくる環境も、悪人が産まれる土壌もない。

 これは私のために神父様が骨を折ってくれたのもあるけれど、神父様自身が人の悪意を嫌うためだと思う。


 前にも述べたように、不老不死になった人間の最大の敵は退屈とストレスだ。

 いくら無敵の神父様だって、教会の中央で政治やら駆け引きやらに頭を悩ませていたら、とっくの昔に首をつっていただろう。

 首つったくらいで死ぬかどうか怪しいのは置いといて。


 そういうわけで私は悪意というものに馴染みがない。

 無駄に長く生きているおかげで、いざ悪意に晒されても「ああこういう人間って本当に居るんだなあ」と客観的に見ることはできるだろう。

 でもそれに対して上手く対処ができるかと言えば話が別だ。


 まあ要するに、私はまんまと騙されて、ライアルのお屋敷ではなくディートフリート様の屋敷に連れ込まれました。


 どおりで途中で御者がザシャさんじゃなくなってたと思ったよ。

 てっきり何かの手続きにでも行ったのかと思ったら、ディートフリート様の手のものに強引に交代させられていたとは。


 大丈夫かなザシャさん。あとで罰せられたりしないだろうか。

 ライアルなら事情を聞いて判断するだろうけれど、職務を遂行できなかったとなればお咎めなしというわけにもいかないだろうし。


「そういうわけで。各方面に多大な迷惑をかけてる自覚はありますか?」

「自覚はあるが反省はしていない!」


 軟禁状態の部屋にノコノコやってきたディートフリート様に説教混じりに言えば、フンスと鼻息荒く言い放ちやがった。

 最近いいところもあるんだなとか見直してたけど間違いでした。

 やっぱり悪い意味で馬鹿だこの王子。


「しかし何だ。何故用意したドレスを着ていないのだ?」

「だれがそんなもの着ますか」


 確かにここへ連れてこられてきた当初、慇懃無礼なメイドさんに無理やり着替えさせられそうになった。

 しかしその時点で私は騙されたことに気付いていたので、メイドさんには退出していただき、誰も入れないように部屋に結界をはらせてもらった。


 人様の家の一室を占拠するのはどうかとも思ったけど、騙して連れてきたのは向こうだ。身を守るためにも多少の無茶は押し通す。

 しかしそんな決意とは裏腹に、籠城から小一時間も経たないうちにディートフリート様がやってきて、魔剣で切り捨てられた私の結界はあっさりと消滅した。


 前に怒ってたライアルの気持ちが分かった。

 神父様みたいなその道の先達や、ウィルマみたいな同志ならともかく、こんな魔術のイロハも知らない脳筋にあっさり魔術を無効化されるのって納得いかない。


「大体この状況から後のことは考えているんですか。ライアルはまだしも神父様を敵に回したら死んだ方がマシな目に合わされますよ」

「それまでにおまえを惚れさせれば問題ないな」

「ハッ」

「鼻で笑うな!?」


 笑うなと言われても、ちゃんちゃらおかしいとしか言いようがない。


 別にディートフリート様が私を好きだという思いを嘘だと思っているわけではない。

 でもこの人は、このどうしようもないほどに傲慢なこの人では、私を愛することはできても救うことはできない。

 そもそも私にとって恋とは何なのか、想像するどころか疑問に思うこともないのだろう。


「ライアルから私のことを何も聞いていないんですね」

「恋敵に女のことを聞けるか」


 ほらまた。

 つまらないプライドで理解を放棄した。


 神父様を除けば、私のことを最も理解してくれているのはきっとライアルだ。

 十年間会っていなかったとは思えないくらい、あの子はするりと私の心へと触れてきた。


 ライアルは知っているのだ。

 私が見た目以上に経験を積んだ大人であり、そしてどうしようもないくらいに孤独な子供だと。

 だから姉として敬いながら妹のように愛しむ。


 嗚呼溺れてしまいそう。

 だけどあの子は絶対に私をそこまで堕とすことはないだろう。

 だってライアルは、私にとって恋がどれほど残酷なものか知っているのだから。


「シルヴィア。何故それほどまでに俺を拒む」


 何故とその口で私の心を問うのか。

 私の心を見ようともしないくせに。


「ディートフリート様」

「何だ?」


 名を呼ばれ、どこか嬉しそうに顔を向けてくる王子様。

 きっとこの人は悪い人ではない。

 ただあまりにも私と相性が悪い。


「――この部屋から出ていきなさい」


 交わった視線を通して術式と命令を叩き込む。

 拘束されたときにも対処できるようにと、神父様に仕込まれた技術の一つだ。

 魔剣の担い手とはいえ魔術の心得のないディートフリート様には、こうして直接叩きつけられた術式に抗う術はない。


「……」


 無言で立ち上がりドアへと向かうディートフリート様。

 そのまま振り返ることなくドアを開き、命令通りに部屋の外へと出て行った。


「……馬鹿みたい」


 無意識に言葉が漏れる。

 それが誰に対して放たれたものなのか、今の私には分からなかった。


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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
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