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第一章 タリウス家

 パルイッソの港町に到着すると新年祭と書かれた沢山の旗が風に揺らめいていた。どうやら新年から一週間はこの祭りが続くようだ。ディム大陸の玄関口である大きな港町は夕方を迎えたというのに沢山の人で賑わっている。

「あ……あ、あれはディム大陸中部で有名なキノコ汁だな……」

「うあぅ……、伝統工芸品のチョントスっていう楽器まで売られてる……子供の頃、学校で作らされたなぁ……」

 呻き声を発しながら盗賊の感度の良い耳でしか聞き取れないような声で喋っているのは、久しぶりに故郷の懐かしい物を見て元気をほんの少しだけ取り戻したカリューだ。

「あ、あの串焼きは美味しそう!」

「え、えぅぉ……、あれは独特の味がするぞ……俺は嫌いだ……」

 勿論カリューの掠れた声に秋留が気付くはずもなく、一目散に屋台に走っていって「グルグル焼き」と書かれた串を四本購入してきた。

「はいっ! 皆の分も買ってきたよ!」

 もともとゲッソリしているカリューの顔色が変わったのかどうかは確認出来ない。

 しかし貰ったものはイヤとは言えず、カリューは黙々と食べ始めた。

 グルグル焼き。

 貝類と思われるものが串にグルグルと巻かれている。味付けは塩コショウのみのようだ。グニュッとした食感であまり味が無い。

「うーん、あんまりおいしくないかなぁ」

「うぅ……だろぉ?」

 カリューがボソボソと答える。勿論他のメンバーには聞こえていない。祭りという事で俺達の周りはガヤガヤしているしな。

「あれ? カリューじゃねぇか! カリューだよな!」

 俺達がグルグル焼きの処分に困りながら他の出店を眺めていると、向かい側から歩いてきた短髪の青年が突然話しかけてきた。

 まさかカリューの親族か! 俺は、ジェットの陰に隠れながらコソコソと歩いているカリューを振り返った。……カリューが凄い速さで路地裏に消えていったのが分かった……厳しい戦闘でもあそこまでのスピードは出てなかったと思うぞ……。

 そのカリューはと言うと、路地裏から少しだけ頭を覗かせて、俺達と短髪の青年の様子をコッソリ伺っている。

「……あれ、カリュー・タリウスだよな?」

「そうだ!」

 カリューの態度にはいい加減ムカついていたので、俺は青年の質問に即答した。臆病カリューめ、これで絶望の崖を転がり落ちてしまえば良い!

「カリュー! 俺だよ、ネバンだよ! チャリオ学校で同級生だった!」

 ネバンと名乗った少年はカリューの隠れている路地裏に歩きながら声を掛けた。

 ちっ、タリウス家の人間じゃなかったのか。

 ネバンの台詞を聞いたカリューは路地裏から周りをキョロキョロしながら出てきた。

 出てくるなりネバンの頭を殴る。鈍い音がしたぞ……。

「いってぇ~! 何しやがる!」

「俺の名前をデカい声で叫ぶんじゃねぇ!」

「お前が急に隠れるからだろっ!」

 仕返しのネバンの右ストレートがカリューの顔面を捉え……るはずはない。カリューは軽く体を反らしてネバンの攻撃を避けた。さすがに一般人の攻撃をカリューが食らうはずはないな。

 しかし。

 カリューの動作に合わせて繰り出した俺の蹴りがカリューの後頭部にクリーンヒットしている。

「! ブレイブ! いつの間に俺の後ろに回りやがった! っていうかなぜイキナリ蹴りを食らわすんだ!」

「思い当たるフシが全く無いとでも?」

「う……」

 蹴りの次にカリューの顔面に構えたネカーとネマー、そして俺の台詞にカリューは頭のタンコブを撫でながらネバンの方に振り直った。

「ひ、久しぶりだな、ネバン。……お前の結婚式で会った時以来か」

「そうだな。まぁ、俺はお前の活躍を『冒険者クラブ』でいつも見ていたけどな」

 冒険者クラブとは俺達冒険者の事を色々ネタにして月一回発行されている雑誌だ。愛読者は意外と多い。勿論、俺達レッドツイスター、巷では俺達は紅い旋風とかなんて呼ばれてもいるのだが、期待のパーティーとして何度か紹介された事がある。

「ん? って事は……お前と一緒にいる人達って……」

 ネバンが俺の方を見る。

 まぁ、バレちゃしょうがないか。

「そうだ、俺が盗賊のブレイ……」

「幻想士の秋留さまぁー!」

 ネバンは俺の後方に視線を向けるとそのまま走り始めた。そして秋留に握手を求めている。

「ぷぷー!」

 カリューがワザとらしく笑った。勿論先ほどの蹴りの仕返しのつもりだろう。

「ネバンも無礼な奴だよなー、な、ブレイブ!」

「うるせぇ! くだらないギャグ言ってんじゃねぇ!」

 俺の素早い左ストレートはネバンと同じく避けられたが、同時に投げつけていた食べかけのグルグル焼きは見事にカリューの顔面にクリーンヒットした。

「で、いつまで握手してんだよっ!」

 俺は秋留の手を掴んだまま秋留の頭のテッペンからつま先を凝視し続けているネバンの頭を殴った。

「いたっ!」

 ネバンが俺の顔を睨みつける。

「ああ、あんたは盗賊のパッシだろ、知ってるよ」

「ああん?」

 ネバンの顔面にネカーとネマーを突きつけた。パッシというのは以前一緒にパーティーを組んだ事がある下っ端の盗賊の名前だ。あんな格下の奴と間違えるとは……まぁ、なぜか間違われるのは初めてじゃないのだが。

「ブ、ブレイブさんですよね」

 俺の後ろでカリューが口パクをしているようだ。それじゃあ本当に間違われたのかワザと間違えたのか分からなくなるじゃねぇか。

「いやぁ、まさかレッドツイスターの皆さんに会えるなんて……カリューの友人で良かったです!」

 主に秋留に会えて幸せだ、とネバンの顔が言っている。

 ちなみにジェットの死臭にビビったのか、ジェットとは握手もしていない。ちょっとジェットが寂しそうだ。

「そういえば、カリューは何でビクビクしてたんだ?」

「!」

 旧友に出会った事で忘れていたのか、カリューはビックリして辺りをキョロキョロし始めた……ジェットの後ろに隠れながら。

「こいつ、家族に会わないかビクビクしてんだよ」

「! ブレイブ! 何アッサリと俺の状況をバラしてやがるんだ!」

 俺の台詞を聞いたネバンはその場で爆笑し始めた。

 パルイッソの大通りの端っこで立ち話をしていたのだが、ネバンの大爆笑で通りを歩く人々がキョロキョロと怪しそうな目で俺達を見るようになった。

「目立つ事するなっ!」

 ネバンに笑われた事で恥ずかしさで顔を真っ赤にしたカリューがネバンの口を抑えた。ネバンの顔がみるみるうちに青くなっていく。

「カリュー殿、それ以上は……ワシの仲間入りになってしまいますぞ」

 カリューは我に返ってネバンの口から手を離して開放した。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

「悪い……」

「ま、まぁ……俺もふざけすぎた、わりぃ……」

 ネバンは秋留に持ってきてもらったコーラを飲み干すと落ち着いてから話した。

「タリウス道場御一行は、現在、全国行脚中だぜ?」



「いやぁ、やっぱり故郷の料理は格別だよなぁ!」

 カリューは今までの食欲不振を振り払うかのように猛然と食べ続けている。

 あれからネバンと別れて俺達は近くのレストランに入店した。ディム大陸の郷土料理を食べさせてくれるアットホームな感じの店だ。

「うほぉおっ! ディム大陸で作られた酒も格別だなー!」

「うむ、ガツンと辛口で大変旨いですぞ!」

 カリューはジェットと久しぶりに酒を酌み交わしている。

 タリウス一家が不在と分かってからのカリューは水を得た魚のようにハシャギまくっていた。

「ブレイブ! お前もたまには強い酒でも飲め!」

「秋留! この魚は旨いんだぞ!」

 船上でコミュニケーションを全く取っていなかった分、俺と秋留にまで過剰に絡んでくる……これなら落ち込んだままのカリューの方が良かったかもしれない。……俺が今、「あ、タリウス一家だ!」と叫んだらどうなろうだろう。

 ……。

 …………。

 ………………嘘だとバレた時に俺の身に大変な事が起きそうだったので止めておく。

「こっちの酒は甘口で若い時はよく友達と飲んだなー!」

「ほぅほぅ、コレも旨いですなぁ。とてもマロヤカですぞ!」

「こっちはよぉ」

「ほぅほぅ……」

 終わりそうもない飲み会の場所を後にして、俺は秋留と共に店を出た。

 既に日付が変わりそうな時間になっているため、店内と違って外はシンと静まり返っている。早朝までオープンしている居酒屋をワザと選びやがったな、カリューの奴……。

「カリュー、元気になって良かったね」

 そうだ!

 久しぶりに秋留と二人っきりになれたんだった。この事だけはカリューに感謝しないといけないな。

「元気になり過ぎて大分ウザイけどな」

「あはは、そうだね」

 俺と秋留は久しぶりに復活したカリューの事を話しながら店の周りをブラブラと歩いた。

 実はカリューが突然復活して「飲みに行こう!」と言うことを聞かなかったため、今日は宿も確保していない有様なのだ。だから俺と秋留はあても無くダラダラと歩いている。

 まぁ、久しぶりに歩く地面っていうのも良いもんだ。

 ちなみに歩きながら見つけた宿に入っては、一応空き部屋があるかは確認したのだが、どこも満室だった。

 新年祭の真っ只中で空室のある宿を見つけるのは困難ですよ、どの店員も口裏を合わせたかのように言っていた。

「久しぶりにちゃんとしたベッドで寝たかったなー」

 秋留が口を尖らして呟く。

 今までは船旅が続いていたから、寝るときは小さくて硬いベッドで寝ていたもんなぁ。しかも海が荒れると揺れるし。確かに広くて揺れないベッドが恋しい。

「おぉっ! この若いカップルがっ! こんな夜中に何してやがるぅっ!」

 近くを通り過ぎた酔っ払いのオッサンが俺達を冷やかす。

 むふっ。

 やっぱりそう見えてしまいますか。そうだよなぁ、俺と秋留はどこからどう見てもお似合いのカップルだもんなぁ。

「迷惑ねっ!」

「ん……あぁ、そうだな」

 酔っ払いの存在が迷惑なのか、俺とカップルだと思われる事が迷惑なのか、俺は思わず声を詰まらせてしまった。

 それから暫くは広い港町を秋留と歩きながらダメ元で宿を探したが見つからず。

 宿屋も見つからないし秋留とはそれから大した会話も出来なかったし。

 せっかく秋留との楽しい夜のデートを満喫していたのに、あの酔っ払いオヤジのせいで、全てがぶち壊されちまった。次出会ったら、眉間に風穴開けてやる。


 居酒屋に戻ってみると、カリューとジェットは店内にいた別の客とワイワイガヤガヤと盛り上がっていた。

 聞いていると地名などが混ざっているため、この地域の民謡のようなものだろう。

 ちくしょう、元はと言えばコイツが宿を取らせてくれなかったせいで。

 カリューの野郎……こいつのせいで……。

「ほらっ、ブレイブ、この際、皆で楽しく朝まで酔っ払っちゃおう!」

「おうっ!」

 秋留の笑顔は万病に効く霊薬だっ!

 モヤモヤしていた気持ちが一気に晴れ、俺はカリュー達の輪に混ざって聞いた事も無い民謡を大声で一緒に歌っていた……。



「あ~、頭痛い……」

「俺もだ……二日酔いなんて人生で初だよ……」

 俺と秋留は居酒屋の前のベンチに座って、早朝の冷えた空気に当たっていた。

 最後によく分からない民謡を歌って、秋留に「ブレイブ、音痴」と笑いながら何度も言われていた記憶は残っている。それからはもう覚えていない。気付いたらこのベンチで秋留と並んで座っていた。

「カリューとジェット、元気だったねぇ」

 秋留がボーっとしながら呟いた。

 確かに昨日のカリューとジェットは水を得た魚……いや、酒を得た肴と言った感じでもう、とどまる事を知らないアホ二人だった。あの二人に勧められるがままに酒を飲み続けたのがそもそもの失敗だ。

 それなのに……。

「ブレイブ殿、秋留殿、空き部屋のある宿屋を見つけましたぞ! 今朝ちょうどチェックアウトした方々がおりましたからなぁっ!」

 昨日あれだけ飲みまくったジェットは元気に宿を探しに行って……見事に見つけてきたという訳か。報告の仕方も親指を立てて憎らしい程に元気さをアピールしている。心なしか肌艶も良いようだ。

「さすがジェット……」

 俺も負けずにビシッと親指を立てる。

「ブレイブの親指には元気さが感じられないよ……」

「……」

 俺は黙って手を下ろして通りを見渡した。遠くからまたしても元気な奴が走ってくるのが見える。

「おい! 簡単に食えそうな朝飯買ってきたぞ!」

 同じく朝から元気一杯のカリューが、透明の容器に入れられたオニギリを買って来た。

「あ、オニギリだ! 亜細李亜大陸が発祥の地なんだよ、私好きなんだぁ~!」

 秋留はオニギリが大好き。

 俺は重要な情報を心に深く刻み付けた。……代わりにカリューの情報を何か忘れておこう。

 俺と秋留は疲れた胃を労わるようにゆっくりとオニギリを食べ始めた。

 隣でカリューは両手にオニギリを鷲掴みにして交互に口に運んでいる。そんな食べ方をする奴なんて、子供の頃に読んだ絵本の中の登場人物だけかと思っていた。

「これを食べ終えたら宿に向かいましょう、予約出来た宿はパルイッソの港町の端っこの方でしたからのぉ」

 ……このボロボロの体で町の端まで歩かなきゃ行けないのか。

 俺はオニギリを食べ終えると、僅かな体力を振り絞ってベンチから立ち上がった。


「あの旗のデザインはディム大陸を表しているんだぜ?」

「へぇ~」

「パルイッソは噂によると赤い屋根の家が多いらしいぜ?」

「そりゃすげぇな……」

 なぜか俺はカリューにマンツーマンで付きまとわれ、港町の案内をされている。しかも完璧な地元民ではないためどこか表現が曖昧だったりする。

 ……はぁ。

 ……ジェットが予約してくれた宿にはまだ着かない。パルイッソはそれなりに大きな港町のようだ。

 ちなみに秋留はというと、俺とカリューの少し前を馬に乗ってウトウトとしている。その馬は秋留を背中に乗せ、ジェットに手綱を引かれている。馬はどこか嬉そうだ。

「うっぷ!」

「おいおい、ブレイブ、大丈夫かよっ! しっかりしろっ!」

 カリューに思いっきり背中を叩かれた。その勢いで危うく全てを吐き出しそうになった。

 俺が急に気持ち悪くなったのは二日酔いのためだけではない。前を歩く馬から漂ってくる……ゾンビ臭のためだ。

「銀星も久しぶりに実体化出来て嬉しそうだね……」

 半分寝ぼけた感じで秋留は馬の首を撫でて言った。

 牡馬の銀星は生前のジェットの愛馬だ。

 ジェットと同様に生きていれば……何歳だろう。歳なんてどうでも良い。そう、銀星は秋留が復活させたゾンビその二だ。ディム大陸へ船で移動している間は、秋留からの魔力が与えられずに特殊な瓶の中で灰になっていたらしい。詳しい仕組みは全く分からないし、ホラーが苦手なためゾンビについて詳しく分かりたくも無い。

「ほら、ブレイブ、あれは……」

 俺はカリューが指差している方向には向かずに両手で耳を押さえて逆方向を眺めた。

 今は朝七時位だろうか。一月に入ったばかりの朝はまだまだ寒いし、寒さを避けてか人通りも少ない。

 そんな人気の無い街中を遠くから何人か走ってくるのが見えた。

 全員同じ青い道着を着て一生懸命に走っている。その一団に喝を入れるように後ろから声を掛けているカラフルな三人組が……何とも場違いな感じだ。……しかも女三人組か? この寒い中で三人ともピッチリとしたミニスカートを穿いている。

「ほらっ! そこっ! チンタラ走んなっ!」

「はいっ!」

 黄色い髪をした派手な女が少し太った道着の男に怒鳴った。静かな町に威勢の良い声が響く。それにしても口の利き方が悪いな。女性は秋留のように柔らかく喋るべきだ。

 その声を聞いてカリューが大きく飛び上がった。確かに少し驚いたが、軽く二、三メートルは飛び跳ねちゃうようなレベルでは無かったぞ。

「そんなんだから、行脚先の道場で甘く見られるんだよぉっ!」

 別の派手な女が叫ぶ。こちらも迫力はあるが可愛らしい声をしている。先ほどの女と比べると紫色の長い髪を後ろで縛っているため、少しだけ女性らしく見える。

 その、少し女性らしさを感じた声にカリューが再び「ひぃっ!」と情けない悲鳴を挙げてその場に座り込んだ。

「あ? カリュー、どうしたんだ?」

「あわわわわ……」

 カリューが辺りをキョロキョロと見渡し始めた。明らかに先ほどから響いている女の叫び声に怯えているようなのだが、その声の発生源を見つけられていないようだ。……モンスターの鳴き声とかならカリューの野生の勘で、ある程度は場所を特定するのだが……。

「ほら、後少しで朝のトレーニングも終わりよ、頑張りなさい」

 派手な三人組の最後の一人、緑色の長い髪の女性が控えめな声で男達を励ました。先ほどの二人と比べると悪魔と聖女のようだ。

「あらあら、貴方、大分辛そうね。無理しないで休んでからでも良いのよ? ……もう一生休んでて良いけれど」

 ……前言撤回。聖女のような喋り方だが言っている事は容赦のない悪魔……魔王レベルだ。

 ちなみに三人目の控えめな魔王の声も聞こえたのか、カリューは冷や汗を垂らしながらその場をグルグルと回り始めている。

「おいっ! カリューっ! いい加減落ち着けっ!」

 俺は怒鳴りながらカリューの頭を殴った。冷静さを失ったカリューに俺の攻撃をかわす余裕は無く、カリューは頭を抑えて蹲った。

「……い、いってぇーな! ブレイブ! 何しやがるっ!」

「お前が落ち着かないからだろっ! このクソカリューがっ!」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 俺の台詞に恐れをなしたカリューがビビって今までで一番大きな悲鳴をあげた。

 恐怖に支配されたカリューは俺の後方に目線を固定して……後方? 俺の台詞にビビったんじゃないのか?

『カリューーーーーーーーーーーーーーーッ!』

『ひぃっ!』

 このディム大陸全体を震撼させる程の悪魔三人の怒号だ。ディム大陸を中心に巨大な地震と津波が発生したのではないだろうか。

 カリューだけではなく不覚にも俺まで、ついでに少し離れていたジェットまでも小さな悲鳴を挙げてしまった。

 ……秋留は寝ている。

 俺は再び三人の悪魔の方へと振り返った。

 先ほどはあれだけ離れていた三人組が今や十メートルの距離まで近づいてきている。

「ぎゃあああああああっ!」

 カリューが叫ぶ。

「ここであったが百年目ぇ!」

 黄色髪の女も剣を構えて叫ぶ。

「久しぶりねぇ~、カリュゥ~」

 可愛い声を発し、ファイティングポーズをとった紫髪の女が右ストレートをカリューに繰り出した。

「ひぇっ」

 情けない声をあげてかろうじてパンチをかわす。

 ……一般女性が放つようなパンチでは無かったぞ。

「甘いわぁ~」

 トロそうな声とは裏腹に連続で繰り出した左の強烈なキックがカリューの顔面を捉えた。

「ぎゃふっ」

 再び情けない声をあげてカリューが吹っ飛んだ。

「お帰りなさい、カリュー、もう二度とお出かけ出来ないかもしれないけど」

 優しい声の魔王がいつの間にか構えた槍の柄で吹っ飛び中のカリューを下方から上空に打ち上げた。

「ごふぁんっ」

 ……情けなさトップクラスの叫び声を発したカリューの目からは涙がほとばしったように見える。

「ぶっ飛びなぁっ!」

 まるで上空に吹っ飛んで来ると分かっていたかのように、言葉が一番汚い黄色髪の女が上空でカリューを待ち構えていた。

「ご、ごめんなさ」

「おらぁっ!」

 カリューの謝罪の言葉を打ち消すかのように叫んだ黄色髪の女性の叫びと共に、カリューが上空から一気に地面へと叩きつけられた。豪快な爆発音を発して、頑丈な港町の石畳が吹き飛ぶ。

『……』

 突然の出来事に俺もジェットも声を失っていた。俺達パーティーのリーダーであるカリューを助けようともしなかった。いや、怖くて出来なかったと正直に思う。……ちなみに秋留は目を擦りながらボーっと成り行きを見守っている。

「ふぅ」

 一番迫力のある黄色髪の悪魔が一息ついて俺達の方へと向いた。ちなみに黄色髪の悪魔は石畳に半分埋まったカリューの体の上に立っている。

「あ、えーっと……」

 俺はシドロモドロになって、思わず数歩後ずさりした。

「ど、どちらちゃ……おほん、どちら様ですかな?」

 いつも冷静なジェットまで台詞を噛む程に動揺している。

「申し遅れましたわ」

 優しい声の魔王が近づいてきた。

「私達、タリウス家の三姉妹ですわ、以後、お見知りおきを」

『えええええっ!』

 と俺とジェットは驚いたが、俺は何となくカリューに縁のある人物という事は分かっていた。

 だから、咄嗟にカリューを守る事も出来なかったに違い無い。

「はい、お姉ちゃん、どいてぇ」

 一番雰囲気的には接し易そうな悪魔が石畳に埋まったカリューの体を片手で軽々と持ち上げた。……怪力悪魔だったか。

「ちょうど、タリウス道場の朝練習が終わったタイミングでしたし。よろしければ私達の道場へ。詳しい話はそちらで」

 ……カリューの事は放っておいてすぐにでも宿屋に行って寝たかったのだが。

 なぜか悪魔三姉妹の迫力には勝てずに、俺達は道着の男達と共に、道場とやらに案内されたのだった。



「ようこそ、レッドツイスターの諸君!」

 どうやら俺達の到着を先回りした道着男の一人が伝えたらしい。道場の入り口で尖った口髭のオッサンが待ち構えていた。髪の毛も髭の色もカリューと同じ綺麗な青色をしている。

 俺達が連れてこられた道場の看板には『タリウス道場 パルイッソ部屋』と書かれている。やはり本家はカリューの出身地のカーサスとかいう町にあるのだろう。

 で、この目の前の偉そうなオッサンはやっぱり、カリューの父親という事になるんだろうな。

「我輩はカリューの父、ゼム・タリウスと申す!」

 いちいち語尾が強くなる。カリューに似て熱血タイプだという事が容易に分かる。付き合いたくないタイプだ。

 ちなみにカリューはというと、この稽古場の隅でロープでグルグル巻きにされて静かに座らされている。

 ……あれを焼けば不味いグルグル焼きの完成だな。

「レッドツイスターの噂は色々聞いてるぞ! 幻想士の秋留殿に聖騎士ジェット殿、そして盗賊」

「ブレイブです」

「パ……うむ、ブレイブ殿だな! 知っているぞ! 知っているぞ! ガッハッハ!」

 奴の口が「パッシ」と言いそうになったのに気付いた俺は言われる前に名乗ってやった。

 結局「パ」までは言いやがったが、笑って誤魔化された。……豪快誤魔化しジジイめ。

「どうですかな! うちのカリューは! 役に立っていますか!」

 ジジイがギロリとカリューの方を睨む。

 その睨みでカリューが再び悲鳴を挙げた。……うちらパーティーのリーダー、何て情けない姿に。

「いつも仲間のために体を張ってくれる、頼りになるリーダーです」

 眠気を何とか押さえ込んで秋留が口を開いた。だが眼は半開きだ。

「パワーだけではなく剣の技術も相当なものですぞ」

 道場の息子、という立場を考慮してジェットが言った。まぁ、間違いではないな。最近のカリューの成長っぷりは眼を見張るものがある。

「ほぉ……剣の技術ねぇ!」

 ギロリ、そして、ヒィッ。こいつら眼で会話しているのかとツッコミたくなる。

「まぁ、チェンバー大陸の英雄ジェット殿に褒めて貰えるなど、親としても嬉しい限りです! ガッハッハ!」

 ジジイの機嫌が良くなった。

 さすが年の功のジェットは会話が上手い。

「……」

 ジジイが俺の方を睨む。……あ、俺の番って事か。……しまった、何も考えてなかった……。

 うーん、頭に浮かぶのはカリューのムカつく行動ばかり。

 しかしここでカリューを褒めておかないと何か面倒な事になりそうな気がする。

「猪突猛進な所があるが、その力量は信頼している……リーダーのカリューがいなければ、レッドツイスターは成り立ちませんね」

『……』

 俺の台詞にその場が静まり返った。

 あれ? 何か変な事言ったか?

「何か偉そうだな、ブレイブ」

 部屋の隅っこからカリューが言った。確かに少し上から目線だった気もするが、カリューのために下手になるなんてゴメンだ。

「褒めてやったんだから、有難く思え」

 ボソリとカリューに言い返した。

「何だとっ! ブレイブ、この野郎っ!」

 と思わず動こうとして手足の自由が利かないカリューはその場にゴロリと転がった。

 ゴロゴロと体勢を立て直しつつ、俺に悪態をついているカリューの姿が滑稽で、道場の中に笑いが広がる。

「ガーハッハ! そうかそうか! あのグルグルカリューがいないとレッドツイスターは成り立たないか! そりゃ良い!」

 ジジイは相変わらず豪快に笑っている。

 ジジイの左隣に行儀良く正座している悪魔三人衆もカリューを見て楽しそうに笑っていた。

「ブレイブ殿とカリューは年も近いようだが、仲良くやっているのかね!」

『誰がこんな奴とっ!』

 ジジイの台詞に俺とカリューが顔を赤くして同時に反論した。

 再び道場の中が笑いに包まれる。

 ちくしょう、何か笑われているぞ、俺。

「いいだろうっ!」

 道場に広がる笑い声を全て収めるような大音量で、ジジイが喋る。その声に床でもがいていたカリューも小さく悲鳴をあげて静止する。

「カリューは良い仲間に出会えたようだな! 道場を突然飛び出して行ったカリューを親としても心配していたからなぁ!」

 そうか。

 カリューはどんな理由があったのか分からないが、家族の元を突然飛び出したのか……。そりゃ三姉妹もカリューを見つけるなり飛び掛りもする……いや、ちょっとやりすぎだな、あの三姉妹は。

 ジジイが膝を叩いて立ち上がると、カリューの元へと歩いていった。

 何とか体勢を立て直していたカリューは縛られた体でジリジリとジジイから遠ざかる。

 そしてカリューと同じ目線に顔を持ってくると再びジロリとカリューを睨む。

「その調子だとまだ勇者にはなれてないようだな!」

「う……」

 カリューは自称勇者だ。勿論本物の勇者にはなれていない。本物の勇者になるためには聖龍サージに認められる必要があるらしいが勇者に興味が無いため詳しい事は全然分からない。

「そんな中途半端な奴に、レッドツイスターを引っ張っていく力なんてあるのか!」

 ……誰もカリューが引っ張っていっていると言った覚えが無いが、話が混乱しそうなのでツッコまずに話を聞く事にした。

「う、うるせぇ……」

「あん? 聞こえねぇなっ!」

 カリューの口答えは俺の耳でもギリギリ聞き取れる位に弱弱しかった。……情けないカリューだ。

「そんな中途半端な力で、仲間を守ってやる事なんて出来るのか!」

「う、うぅ……るせぇ……」

 またしてもカリューの小さい口答えが聞こえてきた。

「何かあった時、お前は!」

「うるせえって言ってんだよっ!」

 カリューの叫び声と共にカリューを縛っていた縄が簡単に弾けとんだ。とうとう熱血漢のカリューが目を覚ましたようだ。

『!』

 傍で様子を伺っていた悪魔三姉妹が暴れそうになるカリューに飛び掛った。

「姉ちゃん達もいい加減にしてくれっ!」

 黄色女の竹刀を寸前で交わし、紫色女の拳をかいくぐり

 、緑色女の薙刀を叩き折ったカリューは道場の壁を蹴って、道場の中央に降り立つ。

「甘いっ!」

 真剣を構えたジジイが一瞬でカリューとの間合いを詰める。まるでカリューがそこに着地するのが分かっていたかのように。

「クソジジイッ! そりゃ真剣じゃねぇかっ!」

「礼節をわきまえないクソガキは切り落としてくれるわっ!」

 この道場に礼節なんて言葉があったのか。

 そんな事を考えているうちにジジイの攻撃が竹刀を粉砕し、カリューはあっという間に道場の壁まで追い詰められた。

 ……あのジジイはまだまだ現役か。

「生意気な口を!」

 真剣をカリューの鼻先に突き立てる。

「ふ、ふぇっ」

 あ、また弱気なカリューに戻りかけている。しかしまだ顔には覇気が残っているため、まだ何かしてくれそうだ。

「ねむ……」

 隣に座っている秋留がボソリと言った。こんな時、得意な話術で秋留が場を収拾してくれても良さそうなのだが、眠気には勝てないに違いない……。というか家族間の争いにパーティーを巻き込むな、カリュー。

「少しは腕を上げたようだが……」

 後ろで控えている三姉妹の方を見てからカリューを再び睨む。

「そんな中途半端な志でこの先、本当に生きていけると思っているのか! 冒険者はそんなに甘くはないぞっ!」

 今までで一番力のあるジジイの叫び声。

 ……家を飛び出して冒険者になったカリューを心配しているようにも見えるが……俺には真意は分からない。

「甘いなんて、思ってないさっ!」

「じゃあ勇者の一つや二つ、なってみせろっ!」

「ああっ! なってやるさっ! このクソジジイがっ!」

 カリューの台詞にジジイがニヤリとした。

「ほぅ……じゃあなってもらおうじゃないかっ! 立派な勇者にっ!」

「なっ?」

 お、こりゃ新展開だな。

 カリューが自称勇者から本物の勇者になる時が来た……いや、あの怯えっぷりじゃあ勇者にはなれそうにはないな。

「勇者になれなかったら……分かっているだろうなっ!」

「な、なんだよ、脅したってダメだぞ……」

 ダメだぞ、と言っているが効果は抜群に見える。カリューの顔からは生気が抜け、今にも泣き出しそうだ。

「レッドツイスターからは抜け、お前には我が道場を継いで貰う」

『えええええっ!』

 レッドツイスターのメンバー全員が驚いて声を上げた。

 まさかリーダーのカリューが脱退?

 そ、そんな……。

 ……。

 んー、ま、新しいリーダー探せば良いか。

 いや、待てよ。

 このまま行けば秋留と二人っきりになれる事が増えるのではないだろうか。

 新メンバーなんて不要だな。

 さらばだ、カリュー。今までありがとう。

「こ、こらっ! ブレイブッ! お前なんでちょっとニヤニヤしてるんだっ!」

 グルグルカリューが怒鳴って、再びゴロリと床に転がった。

 カリューの立場も、今や、あの手足を縛られて不安定になったのと同じ状態でグラついている。



 ジェットが予約した宿『メゾン』は、パルイッソの外れにある、良く言えば昔ながらの趣のある宿、ざっくり言うとボロイ宿ではある。『入居者募集中』と貼紙もあるため、宿と住居を兼ねているようだ。まぁ、この祭りの最中に予約出来ただけでも奇跡に近いので我慢するしかないだろう。

「いらっしゃいませ」

 小さなカウンターで俺達を迎えてくれたのは、線の細い一人の男だ。耳が尖っているためエルフ族に違いない。……エルフ族は内向的な種族であるため、接客業とかはしないイメージがあったが……。

「おや、そちらのお客様は随分体調が悪そうに見えますが……精のつく簡単な料理でもお出ししましょうか?」

『放っておいて下さい』

 俺と秋留、ジェットは声を揃えて答えた。勿論体調が悪そうに見えるのは不幸のどん底に突き落とされた感じのカリューを指している。

「予約していたジェットでございます」

「はいはい、今朝方お見えになった方ですね、覚えていますよ」

 エルフ族なのに見事な接客だ。

 エルフ族にも色々いるんだな。まぁ、人間にも色々いるからな、当たり前か。


 俺達は疲れきった体を休めるため、食事もとらずにそのまま各自、深い眠りへと落ちて……いくはずだったのだが、カリューが唸っていてあまり寝れない。

 いつも通り秋留は別部屋、男三人は同じ部屋なのだが、同室のカリューが「あ~、あ~」といつまでも唸っている。

 ……秋留の部屋に行って添い寝させてもらうか、と本気で考えたのだが、本気で怒られそうなので止めておく。

 俺は部屋に備え付けのティッシュを丸めて耳に詰めると、ようやく眠りに落ちて行ったのだった……。



「うーん、よく寝たなぁ!」

「そうですな、長い船旅で疲れていた事もあるでしょうな」

 俺は髪の寝癖を簡単に整えて、ジェットは立派な口ひげを小さなハサミで切りそろえている。

 ……ゾンビなのに髭が伸びるのかとかそういう疑問は考えないでおく。

「カリュー殿は……まるでゾンビのようですな」

「あ、あはは……」

 何てツッコんだら良いか分からないが、とりあえずカリューは確かに俺が思い描く一般的なゾンビのようにフラフラとして顔に生気も無い。「あ~あ~」言っているしな。

「秋留含めて、どうするか話し合う必要あるな。昨日は疲れて寝ちまったし」

「そうですな」

 俺とジェットは心配そうな眼でカリューを見つめた。


「久しぶりによく寝れたわ~」

 秋留が伸びをしながら、宿の待合室にやってきた。

 宿は一日しか予約出来なかったため、今夜はまた別の宿を探す必要がある。

「カリューは……相変わらずだね」

 ゾンビカリューの出発準備は俺とジェットが力を合わせて何とか終わらせた。……全く、こいつに元気が戻ったのは一瞬だったな!

「じゃあ、朝食が取れて個室が取れる場所、頑張って探そう。そこでまずはカリューを復活させるよ!」

 昨日とは打って変わって、秋留が元気にガッツポーズをとる。

 そのガッツポーズ、可愛すぎるぜ、ちくしょー!


 秋留がテキパキと情報収集をして、個室のある立派な料亭を確保した。値段は高そうだが……カリューに払わせよう。

「さて」

 カリューもある程度食欲はあるらしく、モソモソと朝食を食べ終えた所で秋留がギロリとカリューを睨んだ。

「な、何だよ、秋留までそんな眼で……」

 秋留に睨まれたら、俺は両眼がハートになってしまう自信があるのだが、カリューは相変わらずオドオドとしている。

「レッドツイスターを抜けたいの? 家を継ぎたいの?」

 秋留がカリューの方に顔を近づけて凄んだ。

 ……俺の方にも顔を近づけてくれ。

「そ、そんなの決まってるじゃないか……」

「じゃあ何でもう全てに負けた顔してんのよっ!」

 秋留がドンッとテーブルを叩いた。食後の御茶が危うく倒れそうになる。

「ひっ……」

 怯えすぎのカリューが小さく悲鳴をあげた。こいつがここまで骨抜きにされるなんて……タリウス一家にカリューは一体、過去に何をされてきたのだろうか。……まぁ、想像はつくな。きっと悪魔三姉妹の練習相手とか、早朝のオヤジからの鬼のような稽古とか。

「道場を継ぐんじゃ、カリューの大好きな正義を振りかざす事ももう終わりね」

「う、うぅ……」

 カリューがうつむく。

「カリューがいないせいで、この世の悪が一体、何人野放しにされることか……」

「う、むぅ……」

 熱血漢のカリューには痛い台詞に違いない。

 実は以前にもカリューが落ち込んだ時期があったのだが、同じように正義に目覚めて復活した事がある。しかし今回は更に状況は悪い。

 秋留は見事、カリューを復活させる事が出来るのだろうか。

「でもよぉ……オヤジと姉ちゃん達には敵わな」

「自分に勝つのよっ! カリューッ!」

 カリューの顔の目の前に秋留の顔がある。羨ましい。俺も自信喪失してみるかな。……ん、何か秋留に見放されそうな気がする。

「じ、自分に勝つ?」

「勇者になれば良いじゃないっ!」

『なっ?』

 俺とジェット、ついでにカリューまでもが驚いた。

 こんな情けないカリューが勇者に? そりゃ無理だろう……。

「何があって自称勇者なんて名乗っているのか知らないけど、カリューはもう昔のカリューじゃないのよ!」

「……」

 秋留の台詞にカリューが再び黙り込む。しかし今までとは違い、カリューの顔には力強さが戻って来ている。

「カリューなら勇者になれるっ!」

 秋留が力強く言い切った。その眼が俺達の方をチラリと見る。……続けって事ね。

「お前の力、信じているぜ!」

 隣に座っていた俺はカリューの背中をポンと叩く。

「ブレイブ……」

 カリューが照れ笑いで俺の方を見る。……照れるな、気持ち悪い。

「カリュー殿、ワシは過去に何人か勇者を見てきましたが……カリュー殿には十分な素質があると思いますぞ」

 英雄ジェットのお墨付きはさすがに効果は大きい。沈んでいたカリューの顔に一気に力がみなぎって来たのが分かった。

「ジェット……」

「皆、カリューを信じているわ」

 秋留が一気に優しい声でカリューに語りかける。この言葉の強弱、まるで飴と鞭だな。

「秋留……」

 カリューが俺達の顔を見渡した。その眼からは力強い炎が見える気がする。

 ガバっと立ち上がったカリューは個室から見える空に向かい、雄たけびを上げた。

「うおおおおっ! 俺は勇者になって、この世の悪を全て成敗してみせるっ!」

『パチパチパチパチ』

 秋留が拍手を始めたのを見て、俺とジェットも慌てて拍手をし始めた。

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