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レモンの砂糖づけ  作者: 麦子
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6.かいしんのいちげき

駅でぼんやりと雨上がりの夜空を見上げて、電車が来るまでの時間をつぶす。空を見ただけで簡単に俺の頭を占領するのは、あの子だけ。本当に、重症かもしれない。



「なーにだらしない顔してるんだよー」



突然、カシャリと軽快な音がななめ下から聞こえたと思ったら。ぷぷっ、と笑いをこらえてケータイをこちらに向けている野上がいる。なに撮ってんだよと睨み付けると、野上は、いつもの“王子様スマイル”を見せて親指を突き立てた。



「ドジっ子ちゃん、飲み会に誘っといたから」

「…は?」

「ばっちり、オッケーもらってきたよー」

「ま、まじで?」

「マジっすー」

「のっ野上様あああ!」



嬉しさのあまり、野上に抱きついた。周りの視線が痛いが、そんなこと気にならないくらい俺の恋愛運は右肩上がりである。グッジョブ、野上!もつべきものはやっぱ友達だ!

スッ、と野上が手のひらを広げて俺の前に突き出した。迷わず握手してみたら、ものすごい力で腕を捻られた。その細い腕のどこにそんな力があんだよ!?



「一万円」

「はあ!?」

「報酬額、一万円」

「……」



金で愛を買うつもりはないが、今回は仕方ない。毎度ありーと無表情で小首を傾げるドSの企み通りになっているのが、腹立つ。次、覚えとけよ。



「ヘタレがどんだけ攻めていくのか、楽しみにしてるんで。まっ、精々頑張れば?」

「うっせえ!言われんでも、頑張るわ!」

「えっ…押し倒すの?うっわー…」

「やらねーよ!!つーかできるわけねーだろ!」

「いや、坂田なら酔った勢いでやりかねないと思って」

「どんだけ信用ないんだよ俺!…酒の力になんか頼ってたまるか」

「どうだか〜」

「お前こそ飲み会のノリで春野さんに変なことすんなよ!」

「ん?変なこととは?具体的に言ってよ」



しつこくからかってくる野上の頭をパァン!と思い切り叩いて黙らせておく。ついでにもう余計なことを言わないように、さっき買っておいたカレーパンを野上の口の中に詰め込んでおいた。



「ふぉはたー。ふぇーるきへる」

「は?なんだよ」

「ふぇーるほ、ひふへ〜はひふへほ〜」

「……お前、わざとやってんだろ」

「んぐ。だーからー、メール。メール来てるって」

「あ?」



カレーパンの食べかすをつけたままの野上が指差すのは俺の震えているポケット。汚れた口を俺の上着で拭おうとしている野上を阻止しつつ、ケータイを開く。確認画面を見た瞬間、思考が停止した。やばい、今俺絶対気持ちワリィ顔してる。春野さんからのはじめてのメール。どうしたって、顔がふにゃふにゃになる。



「坂田、電車来たぞー?」

「お、おう…」

「ん?なんかお前顔赤くね?」

「あっああっ赤くねーちょ!」

「“ちょ”って?何々?そんな焦って噛んじゃうくらい恥ずかしいメールが…」

「ちっちげーよ!ばっ、おまっ、見るな!」



野上から奪い取ったケータイに、思わず頬擦りかチューをしてしまいそうな気持ちを押さえ切れず、その場でくるりと一回転。まさかの会心の一撃を食らった俺は、ニヤニヤした口元を隠さずに電車に乗り込んだ。



「坂田顔きもーい」

「うっせー…」



今なら大声で、恋の歌でもなんでも歌えそうな気がした。

まさに“恋しちゃったんだ”状態なんですけど!

恋しちゃったんだ〜るるる〜。っていうフレーズをよく口ずさんでしまいます。

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