14.ちちんぷいぷい
恋の神様が俺に天罰を下したらしい。この年で恋の悩みすぎで知恵熱出しちゃうとか、勘弁してくださいカミサマ。しっかりしろよ俺。
看病しにきたのか悪化させにきたのか分からない野上たちのせいで、なかなか寝付けない。…確実に後者だろうけどな。
「坂田、ハイッアーン」
「熱ッ!!おまっ、火傷させる気か野上!」
「俺に触れたら火傷するぜーヘイヘーイ」
「ヘイヘーイじゃね…あっつい!マジで熱い!しかもなんか甘い!?」
「わりぃ。塩と砂糖間違えたみたいだ」
「おいっ!誰だよ料理オンチの早乙女にお粥作らせたの!くそ甘いんだけど!」
「それなら、醤油とマーマレードジャムを混ぜてみたらどうでしょう?コクが出るんじゃないですか?」
「やめろばか!味覚オンチは引っ込んでろ!」
無理矢理熱々のお粥を食わせようとする野上、作る姿だけは一丁前の料理オンチ早乙女、砂糖粥に醤油とマーマレードジャムをぶっかけている味覚バカ佐々木。オレハイイトモダチヲモテテシアワセダナァ。気持ちのこもった棒読みでお送りしております。乾いた笑いをする病人の俺の顎をがっと掴むのは、真剣にスプーンを持つ佐々木である。いい加減にしろ、俺は男にアーンなんてしてほしくねえんだよ!
「坂田、早くその純粋な乙女の唇を貪りつくした汚らしい口を開けなさい」
「おいやめろその言い方」
「あながち間違ってはないけどな」
……言い返せないのが悔しいですカミサマ。
流し込まれたお粥は甘いんだか辛いんだかしょっぱいんだかよく分からない不思議な味がした。つまり不味かった。
「坂田、おかわりもあるぞ」
「謹んでお断わりさせていただきます」
「てめえ、俺が作ったメシをまさか残すとか言わねえよなぁ?」
「断る」
「佐々木、鍋ごと持ってこい」
「お安い御用です」
ある意味毒りんごスープよりも強烈なものを鍋ごと飲ませられるとは思わなかった。ゲホゴホと咳き込む俺を尻目に、呑気にケータイで話しこむ野上の背中に佐々木が持ってきたりんごを腹いせに投げつける。ぱし、といとも簡単にかっこよくキャッチした野上はにたりと意地の悪い笑みを俺に一瞬向けてから、がぶりとりんごに噛り付いた。こいつ、弱点なしか!?
「お見舞いには行けないけど、代わりにイイモノあげる」
やけにやさしい声色でケータイ越しに囁いたあと、野上は俺にケータイをビシッと向けて腹黒い爽やかな笑顔を見せた。反射的に後ずさる俺。
「ハイ、送信〜」
「は?」
「イイモノ」
「はああ?」
ピロリンと俺のケータイのメール着信音が鳴った。しかも画像付きである。なにこれ超怖いんですけど!野上を見てもにっこりと微笑んでいるだけ。覚悟を決めて、メールを開いてみる。数秒間ケータイの画面と見つめあった後、グングンと上がっていくのは俺の体温。シャリシャリとりんごを噛る野上の能天気面をグワッと見上げるとニヤンと笑われた。この確信犯め。
「……野上」
「な?イイモノだろー?」
「おっお前ェェ!いつ春ちゃんの寝顔撮りやがった!ふざけん…な……」
ベッドから立ち上がって野上の胸ぐらを掴んで叫んだあと、ふらりと後ろに倒れていく俺の身体。やっぱりこいつら、俺の熱悪化させにきただけじゃねえか。野上が口パクで「お大事に〜」と言ったのを見たのを最後に、俺は意識を手放した。
「あ、坂田が倒れた。…この写メ、そんなに刺激が強かったの?ププッ、ゴメンネー」
「こいつ、熱上がってねーか?」
「本当ですね。野上、坂田に何を見せたんです?」
「んー?ちょっと魔法をね?かけてあげただけだよ」
不意打ちの、春ちゃんの無防備な寝顔ショットにノックアウトされた俺の間抜け面を野上がちゃっかりとケータイで撮って、あの子に送信したのを知るのはもう少し先の話。
オレハイイトモダチヲモテテシアワセダナァ。