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レモンの砂糖づけ  作者: 麦子
12/18

12.おとこのこだもん

あいすべきばかたち、パートツー。

誰か嘘だと言ってくれ。




「嘘じゃないよー」

「お前な、いくらなんでも攻めすぎだろ」

「しかも酔った勢いで襲うなんてサイテーよ!女の敵だわ!」

「うっ嘘だアアア!!…って、佐々木うっぜえんだけど!なんでおねえ口調!?なんで裏声!?」



悪夢のような飲み会から一夜明けた。朝が来ても来なくても、状況はまったく変わらなかった。ただのオオカミ野郎の俺がひとり自宅に潜り込んで現実逃避しているにも関わらず、図々しく上がり込んできた野上たちの容赦ない攻撃のおかげで傷口はさらに悪化。もう手の施しようがない。

さようなら俺のピュアハート、さようなら俺の恋。恋の神様は、きっともう俺に微笑んでくれない。むしろ嘲笑っている気がする。



「ああーー!もうだめだー…嫌われた…」

「自業自得ですね」

「坂田は酒飲むと色んな意味でオープンになっちゃうからねー」

「俺は絶対ヤッちまうと思ってたけどな」

「ヤッてねー!キスしただけだ!」

「“だけ”?」

「いや…すいません…そういうことじゃねえよな…うん…」



三人から冷たい視線を浴びせられる。凍り付けにされたガラスのハートに、ガンガンと釘が打たれてヒビが入っていく。応急措置も、やる気がおきない。



「どうしよう俺!!マジ調子に乗りすぎた!いくらなんでもやりすぎた!」

「そういえば、春ちゃんいつにも増してぼんやりしてたなー…よっぽど衝撃がでかかったんだろうなー…あーあーかわいそうにー」

「………死にてえ」



そりゃ確かに?お酒の力は少しばかり借りましたよ?普段なら絶対軽々しくできないお触りとかもやっちゃいましたよ?そこは認めます。でも、それ以上のことなんて望んでいなかった…いや、あわよくば望んでいたのかもしれない。俺だって健全な男の子ですし?下心はいつでも控えていますから。いつでもどこでも準備万端ですから。



『じゃあ、食べる?』



あんなこと、好きな女の子に笑いかけながら言われてみろ。喜んで!ってなっちまうだろ。明らかにあんぱん食べる?の意味だったけど、俺にとっちゃ、わたしを食べて!ぐらいの破壊力があった。

つまりは、



「欲情した…」

「うっわ、この人開き直っちゃったよ…」

「すんなよ、せめて室内で欲情しろ」

「きゃー!不潔よ不潔!女の敵だわー!」

「人目もはばからず、ぶちゅぶちゅしてる坂田見て俺は心底軽蔑したけどね」

「あ゛ーー!うっさいうっさい!」



再び布団に潜り込んだみのむし状態の俺の上にどっしりと肘を乗せた早乙女が、珍しく真面目な声を出した。この声で、一体何人の女を誑かしてきたんだか。



「…で、どうすんだよ」

「……なにが?」

「春野のこと」

「…わっかんね」

「キスをした事実はどうするんですか?謝るんですか?」

「…謝らねえ」

「はあ?」

「謝まっちまったら、なんかこう、酒の勢いでつい盛っちゃいました〜みたいな感じになるだろうが」

「そのまんまじゃん」

「ちっげーよ!そうじゃなくて、俺は春ちゃんだから欲情したんだよ!他の女だったらあんなことしねえ!」

「言い切れるんですか」

「いや…た…多分」

「そこは肯定しろよ」

「絶対だ!絶対!俺は今後春ちゃんにしか欲情しないことを誓います!」

「なにそのいやらしい誓い」



小汚いベッドの上に仁王立ちして、恋の神様に誓いを立ててみたりする。いやらしくてもいやらしくなくても、俺は本気だ!そんな気合いに満ち溢れた俺を見上げて、早乙女が意味ありげににやりと笑った。呑気にポッキーを食べていた野上も楽しげに口元を歪ませる。…え?なにこの空気。



「つーことは、だ」

「告白するってこと?」

「…………えっ」

「なんだその驚いた顔、今の流れだとそういうことだろ?」

「坂田、頑張ってくださいね。フラれても自暴自棄になっちゃだめですよ?」

「そんときゃ、俺があのちんちくりんよりもいい女紹介してやるよ」

「じゃあ俺は、慰めの代わりに俺の笑顔をプレゼントしてあげるな?」



俺の両手をわざとらしく握ってきた佐々木を筆頭に、次々とマイナスな方向に話を進めていく早乙女と野上にひくりと口元が動いた。正常に戻りつつあった傷だらけのハートに、また絆創膏を貼る事を覚悟して思い切って聞いてみる。



「ちょ、ちょっと待て。なんでお前ら俺がフラれること前提で話進めてんの?」

「フラれるだろ?」

「フラれるでしょ」

「フラれますね」

「こんな時だけ、きれいにハモッてんじゃねーよ!まだわかんねーだろうが!希望くらい持たせろ!」



他人事だと思って好き勝手に騒ぐ外野に舌打ちをし、気付かれないように思い出すのは、あのときの彼女の柔らかい唇の触感とぬくもり。また食べてしまいたくなる衝動を下心だだ漏れの口元で隠す。

しょうがないだろ?だって俺は男の子ですから。




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