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なんとなくトリップ  作者: 砂町 峰
なんとなく飛ばされて
6/20

学院にてのあれとこれ


やっぱり日付跨いだ。


びっくりしたのは、お気に入り登録があったこと。




目の前には烏合の衆。

後ろにはこの幾日に渡りしつこくしつこく、それはもうしつこく付き纏ってきている変態が一人。

『変態は酷いでしょう、我が君?』

『口で喋るんじゃなかったの』

お前は変態だ、自覚しろ。

変態じゃないと主張したいなら、朝に人の寝顔を舐め回すように見るのを止めろ。

目覚めた途端、綺羅綺羅しい顔と対面するのを余儀なくされた市生の心臓を、労って欲しいというものだ。

そして試験場に着いて早々に視線集めまくるのも止めろ。

せめて離れて欲しい。

「そうでしたね、リア」

「腰に回すその腕が問題」

「いいじゃないですか、楽でしょう?」

まだ体力も万全じゃなんですから。


言っていることは正しいが、その方法と悪どい笑みが問題だ。

本当に、本当にこのシェヴァという奴は強かな男だった。言質をとって自由にすること然り、こちらの不満のギリギリの線を見切って対応してくること然り。

市生がなあなあで許してしまう微妙な行動ととって見せるのだから。

「リア、時間です」

リア、とシェヴァが呼ぶのは市生の姓名における名の部分。漢字では里亜と書く。

市生里亜、それが市生の氏名であり、前の世界での記号だった。


市生改めリアは、相変わらず過保護に手を差し伸べてくるシェヴァには無言で、その横を通り過ぎたのだった。



学院の入学試験は簡単かつ単純だ。


先ず、受付で配られる書類に名前と生まれを記入。あとは備考欄に自分の進路の希望と、魔術師志望であれば分かる範囲で自分の扱える属性を書き込めるだけ書き込む。

あとはそれを持って計器の前へと行き、魔力量の判定を受ける。

この時点で一定値に達していれば、入学が決まるということらしい。


因みに、リアとシェヴァは楽々受かった。

とにかく限界の限界まで力を抑えたにも関わらず、合格者平均値を大きく超える数値を出してしまったリア。

力の扱いに慣れているからか、微細に調節してリアと全く同値をはじき出したシェヴァ。

ここらへんに変態の執念を感じるが・・・。


最終的には、晴れて二人して魔術師志望枠にはいれたわけだから良しとしよう。

何故魔術師志望枠かといえば。

元よりリアと違う志望を出す気の全く無かったシェヴァが、魔術師志望を強く主張したからだ。

理由は、召喚士になると使役するものを召喚することになるかららしい。

要は、自分以外が私に仕えるのが気に入らないと。


リアから見れば、シェヴァは召喚士のほうが色々と言い訳もきくような気がしたのだが、魔術属性を適当に申告すればよいらしいので、まあそれはそれでいいのだろう。


半数以上、全体の約七割強が試験で落とされ、これからも三年間の進級ごとに基準が上がり脱落していくものがいるらしいので、残るのは本当に一握りということだ。



ほとんどが阿鼻叫喚の図に加わっている中、リアとシェヴァはひたすらのんきに過ごしていた。

試験場の中、合格者用に区切られた場所の壁脇に立っている長身の青年とそれに抱かれている少女。

描写だけでも十分に危ない。

そしてどちらも、珍しい黒髪を持っていて男の方はやたら綺羅綺羅しいと来た。

目立たない方がおかしいというのに、のんきに寝息を立てている少女。


そう、リアはまたしても寝ていた。

今回の理由は、極限まで魔力を抑えこんだことによる精神の疲弊。

つくづく柔なつくりであると思うだろうが、考えても見て欲しい。

本来ならば部屋一つ分くらいの空気を、ビー玉程度に抑えこむとしたら一体どれくらいの圧力がいるだろうか。

要はそういうことである。

莫大過ぎる魔力を抑えこむためには、体の強化などには神経を回せなかった。そのせいで余計に疲労は増して、結果眠り込む。

正に負のスパイラル。一体いつまでこれを繰り返せばいいのか。

それほど大変なことを、涼やかな表情でしてのけたシェヴァにも腹がたつが。

しかもこの男に至っては、潜在する力はリアの約五倍。

五倍でも飄々とやってしまうあたりが殴りたくなるポイントだ。


「なあなあ、お前らって兄妹?」

リアが相変わらす寝こけている中、その寝顔をネットリと愛でていたシェヴァに話しかけるという偉業を成し遂げた猛者もとい空気の読めない馬鹿がいた。

「おー、い?」

「何です」

「や、だから。お前らって兄妹?」

「違います」

「んじゃ、従兄妹か」

「そんなところですね」

他者から見て兄妹は駄目で従兄妹は良い理由。


答え:結婚できるから。


シェヴァの脳内は至って単純な造りになっていた。

馬鹿だとか低能だとかいう意味ではなく、リアに対してのことだけが単純明快。

一にリア、二にリア、三四がリアで、五がリアの環境に関しての事柄。

要はリアで十割がた占められているということだ。

わかり易いことこの上ない。

不穏な気配を感じて、リアも目を覚ました。

何だか邪な視線と思惑を感じたためだ。

「お、起きた起きた」

「リア、よく眠れましたか?」

「あんたのせいで起きた」

どうせ、過ごしていくらもない世界で自分に対して邪なものを抱くのなんてこいつくらいだろうとシェヴァを睨みつける。


「うわ、目まで黒か。珍しいな」

「・・・そう思うのは勝手だけどね。口に出すのはどうなの」

無神経かつ空気を読まない発言が耳に入ってそちらを見る。

赤銅のような赤髪、茶色の瞳がこちらを気まずそうな色を出してみていた。

「何、あんた」

「おま、口悪・・・」

「ああそう、それで」

「俺は、ギリム。ギリム・テリュシェヌ」

「なんの用?」

「いや、珍しい色だなと思って話しかけたんだけどな。気分を悪くさせたなら悪かった」

異郷の話を聞きたかったんだが。

とそう言って首の裏をかく青年は、随分と男臭い。というよりむさい。

筋肉達磨、というほどではないが筋肉質な見た目に肌は褐色。異世界トリップならではのキャラクター容姿だ。

「これはシェヴァ、変態。あたしはリア、姓はないよ」

「変態・・・なのか?」

「女抱えて悦んでるやつは皆変態だよ」

「それ偏見だろ」

発音通りだと、「喜んでる」に聞こえるだろうが実際は「悦んでる」だ。状態からして変態だろう、文句なしの。

「そういうギリムは、テリュシェヌ家の人間ですか?」

「あ?・・・ああ、知ってんのか」

「リグラの名門ですから、しっかり覚えてますよ」

「俺は三男坊だけどな、まあ家のことは言わんでくれ」


リグラ?


また新しい単語が出てきた。

『リグラ帝国、武に秀でた大国ですよ』

『ふうん・・・』

リアが首をかしげていると、すかさずシェヴァから説明が入った。彼と違い、リアは影から情報を得ることが出来ない。経由して与えられる分、知らないことも多かった。

「黒髪てったらテライダだろ?どんなとこなんだ?」

「気候と植生は違いますが、概ね変わりませんよ。特筆するとすれば、木造建築が多いですね」

「おおっ、テライダの木造建築か!あれだろ、全部解体出来るんだって聞いたぞ」

「そうですね」

宮造り?のようなものに住んでいるのが、テライダという地域の特徴らしい。話の流れからするに黒髪はテライダ出身が多いということだろう。

それにしても、実際には訪れたこともない場所をこうも当然のように説明してのけるとは嘘を吐くのが上手いものだ。

見た目通りだが。


それよりも、だ。


抱き上げられたままだったので、シェヴァの肩を軽く叩いて注意を引く。

「リア、どうしました?」

「シェヴァ、人目が嫌」

先程から、ギリムの声の通りが良いせいか一気に集まる視線の数が増加してきている。リア以外は気にかけてもいないようだが、気になるものは気になる。

元の場所では、至って凡庸を愛していた精神が今の状況を拒絶する。

「わかりました。どちらを消しますか?」

「大事は避けて」

どちら、とは原因を消すかこちらが消えるか、だ。並べるまでもない選択肢を並べてみせるのがシェヴァクオリティー・・・本当に手段を選ばない奴だ。

「では、少し移動しましょう」

「どっか行くのか?」

「ええ、少し外に出てきます。時間までには戻りますよ」

「おー・・・って、なるほどな。俺もついてっていいか?」

やっと視線に気づいたか。数分前から串刺し状態だった身の苦労はいま気づいた奴にはわかるまい。

ギリムの問。シェヴァには、どうしますか?と視線で尋ねられた。

「どうでもいいけど、早く」

「ギリム、ついて来ていいそうです」

「おう」

行きましょうか、と区切ったシェヴァと抱えられた状態のリアは迅速に、しかし至って普通に振る舞いながら試験場を出た。





感想のほうも、気長にお待ちしてます。

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