一難去ってまた一乱
やはり、セオリー通りにいこうかと。
「・・・何、それ」
例のごとく、朝から昼までぶっ通しで授業を寝過ごしたリア。備え付けの食堂でではない中庭での昼食時に、男女比率三対一のなんともムサ苦しいはずの描写が、美形補正で何とかなっている状態を鬱陶しく思いつつ。
彼女の目の前に置かれ、四人で囲んでいる事になる一枚の案内用紙を忌々し気に見下ろす。
「あー・・・まあ、そういう顔すると思ったけどな」
「仕方ないだろう、実技の一環なのだから」
彼女が、思った通りの反応をしたと頷く、もう既に色々と諦め始めている二人もといギリム、トライド両名。
「ここに、丁度良く四人いますから。登録用紙埋めておきますね」
リアのために、持参した昼食を小皿によそいながら宣言する一人、シェヴァ。
「あ、頼んだシェヴァ」
「ええ、貴方のためじゃありませんが」
「おう、わかってる」
リアのためだよな。
・・・むしろリアがいなかったら何もしない奴だよお前は。
ギリムは自分で昼食をよそいながら、心得たと首を縦に振った。
それよりも、だ。
「この組分け、理不尽じゃねえか?」
「何処がです?」
「何処がって・・・なあ?」
「結果は変わらん、構わんだろう」
「確かにそうだけどなぁ・・・」
やっぱ理不尽だよなあ・・・。
ギリムは魔術専攻、実技においての上位四名がの名が集まる登録用紙の欄を見つめ、息を吐いた。
確かに、トライドの言ったとおり結果は変わらない。
シェヴァと、リア。この規格外の二人が組み割れしない限りは、結果は最早見えているも同然だった。そこに、三位と四位の実力を持つトライドとギリムが加わったとて何も足しになどなりはしないことも分かっている。
ましてや、リアとシェヴァ、ギリムとトライドが別れたとて結果は同じ。
哀しいことに、だが。
「今から諦めた顔の者も多いな、志の低いことだ」
まあ、無理もないが。
トライドの発言からも、目の前の異国の二人の規格外さがよくわかるというもの。
いくら研鑽を積もうが、戦略を張り巡らそうが。
届かぬ高みというものが、目の前にある。
「こいつらが分かれる組み分けって・・・」
「有りえません」
シェヴァはリアのコップをどこからか取り出し、茶を注ぎながらニッコリと爽やかに笑んだ。
「だよな、うん」
愚問だった。
そもそも何で訊ねたのかすら疑問だが。
食事が終わり、腹を落ち着けるべく話すのは、やはり案内用紙に書かれている。開催を四日後に控えた、『魔術・召喚専攻総合闘技大会』についてである。
因みに、新入生向けと全学年向けの二つがあり、全学年は学級でも一組しか選抜されない。選抜された組に関しては、両方に出場することも可能ではあるが・・・。
「せめて、全学年の方に登録するべきではないか?」
「ええ、そうしますよ」
この四人は、全学年にしか出るつもりはないようだ。
ついでに、選抜された通知すら受けていないのに既に出場が決まった前提で話を進めている。
自分たち以外に誰が出るんだ、と実力に裏打ちされた判断でもあるのだが。
「じゃあ、俺はやっぱり前衛か。トライドもだよな」
「そうなる・・・な、やはり。シェヴァも、リア殿から離れるつもりはないのだろう?」
互いに色々な労苦を分かち合ったせいか、自棄に親しいトライドとギリムは最早階級差関係無しの状態である。テアドアが窘めたが、トライド自身が許したためにこうなった。
試合中、リアを無防備な状態で放しておくシェヴァではないので、彼らの予想では必然的に自分達が前衛、規格外二人で後衛であるのだが。
「まあ、それは臨機応変としておきましょうか」
茶を啜るシェヴァは、そう思ってはいないようだった。
ギリムは、それに心底わからないというふうに首を傾げる。
「決まったも同然だろ?」
「貴方こそ、何を言っているんです?」
まさか、全ての生徒よりも実力が上だという自負があるんですか?
溜息を吐きながらの指摘に、ギリムはそう言えば・・・と納得した。
「貴方より強い生徒は、それなりにいるんですよ」
「あー・・・。そうだった、悪いな」
それでもシェヴァより強いわけじゃないのか・・・。
肩を落としながら、ギリムは少し自惚れていた己を恥じた。
規格外の近くに居過ぎて、自分の計器がバカになった心地だった。
いや、他を理由にしちゃいけねえか・・・。
溜息を吐いたギリムに、トライドは同情した。
本当に、この二人の側にいると心労が耐えない。
それ以上に何かを期待させられるから、離れようにも離れられないのだが。
「ギリムは度胸があるよ」
俯けていた顔を一気に上げた。
この場では一人しかいない少女の声が酷く珍しいことに、慰めの色を持っていたからだ。
「シェヴァの魔力放出で倒れないで、魔術まで組み上げたんでしょ」
だったら、死に目にあっても何とかなるんじゃない?
視線は向けられてはいない。
茶を飲みながら、ただ言っただけというふうに発された言葉だった。
リアが、他人を励ますようなことを言うとは思わなかった。
豆鉄砲をくらった鳩のように放心したギリム。
「死に目ってお前・・・物騒だなぁおい」
「本当のこと」
事実を述べただけ。リアがしたのはそれだけなのだが、ギリムは何となく救われた。
確かに、この気狂いかつ規格外の青年の過剰な魔力放出に立って居られたのはあの場で三人だけだった。
リアは、露程も感じていなかったようだが、立っていなかったので例外だ。
「おや、俺のことをそんなふうに思ってたんですか?」
「五月蝿い、指先一つで天災起すくせに」
「何もしなくても出来ますよ?」
「そういう問題じゃないけどな・・・?」
「シェヴァが皇国にいるうちは、明日をも知れぬというわけか・・・」
トライドが呟いた言葉が真に迫っていて、思わず吹き出した。
一国の窮状を笑うのも不謹慎だが、ここまで来ると可笑しくなってくるのだから仕方がない。
気狂いで、規格外。
無気力で、規格外。
それでもどこか魅力的。
異国の二人に掻き回されながらも、ギリムは日々の平和を感じずにはいられなかった。
―――*
登録用紙を提出するべく四人で教師の研究室を訪れた途端に、闘技大会全学年の部への出場を通知された。
どうやら既に決まっていたらしい。
こちらとしてもそのつもりだと、二つ返事で頷いたのが四日前。
現在はと言えば―――
学年別の控え室の一角。
ポッカリと空いた空間は、自棄に他との距離のひらきを強調していた。
昼を過ぎていないため、リアは熟睡中。
「シェヴァ、武器はいいのか?」
「いざとなったら創ります」
「・・・創造魔術かよ」
個々の能力が高く、この面子でギルドの討伐依頼などを受けることもままあるため。連携に関しては今更だろうと、簡単に互いの装備を確認するだけの申し訳程度の作戦会議。
約一名は聞いてすらいないが。
個々の装備は、ギリムは幅広の片刃で少し反りのある大剣と、胸当てなど最小限の簡易鎧。トライドが基本的な形状の長剣に、こちらも同じく簡易鎧。シェヴァが手ぶらかつ、リアを片腕に抱き上げている状態。
「・・・お前、絶対相手を刺激するよな」
ギリムとトライドは機能的な軽装備だが、シェヴァを見た敵は無駄に敵対心を刺激されそうだ。
「一応、それなりには用意したのですが・・・」
ギリムの指摘にシェヴァは軽く、空いている方の腕を振った。
出てきたのは、矢尻を大きくしたような形状の投剣。スローイングナイフと、リアの世界では言われていたが。
「神経毒を塗ってあります」
それに魔術精製した、術式解除無しでは解毒不可能なものを塗ってあるらしい。
この青年、魔術が規格外の化物のくせに思いっきり不意を狙う気満々である。
しかし、それに眉を顰める二人ではなかった。
不意を突こうが何だろうが勝ちは勝ち。実戦を知るからこその納得、むしろ感心だった。
「流石、容赦無えな」
「序盤、魔術は使いませんし」
「そうか」
ん・・・?
「・・・って待て待て待て、シェヴァ・・・お前戦闘・・・」
シェヴァが魔術規格外なのは知っていても、ギリムとトライドは彼が実際に武芸を駆使している場面に立ち会ったことが無い。
普段何かと力尽くな発言が目立つが、実際に魔術以外彼らの前で行使したことは無いのだ。
だが、そもそもそういう問題ではなく。
「もちろん、こちらまでは通りませんよね?」
訳:お前たちで死んでも止めろ。
序盤、戦闘をギリム達任せにすると堂々と宣言するシェヴァに、二人は肩を落とした。
無理、ではないだろうが・・・。
「まあ、魔術で一瞬ってのも味気ないか・・・」
「そうだな」
しかし実際問題、シェヴァが動けば試合など一瞬で終わってしまうことも事実。
それなりに、闘技大会というものを楽しみたい二人は無理矢理納得した。
因みに、この会話。
試合開始時間まで、二十分を切った時点の話である。
次は、なんちゃって戦闘
かも