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なんとなくトリップ  作者: 砂町 峰
なんとなく巻き添え
14/20

魔術講義と才能と

お久だ。


魔術を専門に扱う魔術専攻の講義において、欠かせないものが一つある。

座学?

いいや違う、例外ではあるが元々陣を持っている者もいる。そういうものはその時点で魔術使用がある程度可能だ。

では、実技。

これこそ正解。魔術の性質は極めて不安定なものであるため、反復と試行が欠かせない。これが無ければ、圧倒的な破壊の元にはた迷惑な状態で使い続けるか、それとも情けない出量のもので笑いを取るかしかない。


だが、世には天才というものがいる。


上級魔術を2,3回の試行で習得、というのもその部類に入るが・・・初っ端から無詠唱大魔術を展開というのもそれに入る。


教師の緻密な魔術を一睨み――つまり無詠唱で消滅させた化物。

ギリムは、自分の友人でもあるはずのその青年に教師の注意事項などを聞きながら声をかけた。

「なあ、シェヴァって実技要るのか?」

「さあ、俺も魔術というものをまだ良くわかっていませんから」

ちなみにこの場合、シェヴァに魔術自体が必要ないからであって。シェヴァが対外的に魔術に見えるものを使えないという意味では決してない。

「謙虚だな、おい」

「良いことだな」

「ああ殿下、いらっしゃったんですか」

「先程から、君の隣にいたのだがな・・・」

いつもの三人組の他に、今はもう一人。言わずもがな、トライド・ベネル・レトラード殿下である。

場所は屋外演習場、召喚専攻の者達とはまた別の場所を使うため、同じ時間帯でも被ることはない。

右側から、ギリム、リア、シェヴァ、トライド・ベネ――面倒なので――トライドである。

リアは、あくまでも雲上人と関わり合いになりたくないため、シェヴァを隔てていてすら嫌そうな顔をしている。


それはもう、あからさまに。


トライドが立っているせいで、リア達三人の周りは遠慮する生徒たちによって人垣が形成され、もれなくチラチラと視線も浴びている。

彼女が嫌う状況、かなり高ランクに位置する状態だ。


そしてそれは、いざ実技が始まってからも変わらなかった。


運動場の中央付近で説明は行われていたのだが、それが終わった途端周りの生徒は綺麗に散開。

見事に、リア達の周囲には実技に十分な空間が生まれたというわけだ。

「さて、始めるか」

「何であんたが一緒に居るの、どっか行け雲上人」

「貴様には言っていない!!」

「貴様・・・、ねえ?」

「貴様を学友だなどと認める気は一切ないからな、問題ない」

ふふん、と言葉遊びに勝手喜ぶ小学生にしか見えないトライド。既にキャラ崩壊の予感である。

そしてフラグ乱立の予感・・・。


「シェヴァ、眠い」

「仕方ないですねぇ」

「とか言いつつ、顔緩んでんぞお前」


そしてそんなものは丸無視で突き進むリア。実技は時間の終わりに教師を呼んで、自分の術を見せればいいらしいので、それが出来る自信さえあれば寝ていても問題ない。

今日のノルマは初級魔術を五つ。リアも造りはシェヴァと同じなため、問題ない。もちろん、陣や呪文も使えるが。必要のないものを一々使うのも面倒。

しかし、あんまり目立ちすぎるのもさらに面倒なため、彼女はそれっぽく呪文を唱えたりするつもりだ。

シェヴァがどうするかは知らない。こいつはこいつで勝手に目立っていればいい。


「シェヴァ、試行に付き合えるか・・・?」

「いいですよ、片手間でよければ」

「出来るんだよな、お前は、そうだよな」

リアを片腕に抱き上げ、うとうとしている彼女の後頭部を撫でながら。

あくまで魔術が片手間という・・・。

ギリムは頼んでは見たものの、何となく遣る瀬無い気持ちになった。この男はどこまで化物かつ変態なんだと・・・。

最強の種、龍種の殺気の篭った睨みを前にしても「片手間」宣言をしそうだ。


・・・ありえるぞ、おい。


自分で想像して、自分で落ち込んだ。本当にやりそうだ。

少し鬱々としながらも、冷静に陣を脳内に描き、呪文を唱える。

唱えるのは炎の初級魔術、二分節の呪文だった。


「【炎よ、穿て】」


ギリムが唱え、微かな燐光が彼の周囲に飛び交った途端、その正面に炎の砲丸が出現する。

この世界における魔術の属性とは、個人が得意とするものを表す。

そして、ギリムの属性は土と、火。

そう宣言した通り。渦巻き、熱を放出するそれは初級魔術ではありながらも緻密な構成により、かなりの威力を持っていた。


赤子の頭程に膨らんだそれは、その瞬間シェヴァを目がけて打ち出される。

豪速、そう言うに相応しい速さを持って対象を穿たんとするそれはしかし、当たり前のように、それが摂理でもあるかのように。

「・・・やっぱなぁ」

爆音もたてず、幻のように、掻き消えた。


ギリムは、落胆の声を出しながらも落ち込んではいない。

防壁などによって防がれるのではなく、魔術自体が掻き消される。その現象がどのようにして起こるのか、それを彼は知っているからだ。


魔術の消失、それは陣と呪文により変異した魔力が“何もない”状態へと書き換えられたことを示す。

すなわち魔術の過程へ干渉し、空間に無害なまま漂っているという想像を“上書き”もしくは術式自体を打ち消すのである。

口で言うのは簡単だが、それは想像以上の技量と、錬達がなければ成しえない偉業。

たかが初級魔術、この学院教師であればもちろん可能だ。


しかし、それをシェヴァは無詠唱でやってのける。

術の指向性を持たせるために、手を向けたりすることもなく「睨みつけただけ」でいとも容易くしてしまう。

それに忘れるなかれ、彼は教師ではない。たかが学院に在籍して一月も経たぬ、俄見習い魔術師なのだから。

目の前にあるものはギリムにとっては大き過ぎ、それを羨むことを許してはくれない。


「お前、本当に賢者とかじゃねえよな?」

「違いますよ」


隠棲してた賢者が、面白がって学院に入ってきた。と言われても信じられる。しかし、それは訊ねては否定されていることなので毎度毎度、ギリムは首を傾げるしかないのだ。


「今のは・・・」

呆然としたような声が聞こえて、ギリムはそちらを向いた。

そういえば、リアがやたらと接近を拒むお方がいらっしゃったんだったな・・・。

トライドが、シェヴァの諸行に呆気に取られたまま、交互に視線を向けてくる。


教師がシェヴァを優秀だと認め、そして彼自身の性質を気に入ったらしい殿下は未だ肝心の、シェヴァ自身の魔術をその眼で見てはいなかったらしい。

それで、言ってしまえば阿呆面――しかし美形補正がかかって呆けた表情になったわけだ。

百聞は一見にしかず、まさにその通りである。


実のところ、リアに「あれ程魔術の才に恵まれた者を知らない」と言ったのもシェヴァとの会話と、教師からの話を聞いてのこと。

随分な知ったかだが、要は話を聞いただけで判断できるほどのとんでもない事象だということだ。


それを目の前で、もののついでのように成してみせる者がいる。

咄嗟のこと――背筋に感じたのは、武者震いか。


彼自身も極めて優秀だと言われる才を、日夜研磨し、昇華させるべく励んできた。

それですら、他者の魔術へ干渉することは容易くない。

目の前にいる存在が、途方も無い高みにいるものとしてトライドの目に映った。それはギリムが感じたものに似て、しかし相反するものだった。


人智を超えたものとして捉えるか、到達すべき極みと捉えるかである。

実際問題、シェヴァという存在の説明としては前者が正しい。だが、彼が人として形をなし、生きているからには後者として捉える者も出てくるだろう。

身の程知らずにも、そう考えてしまう人の性。




ギリムはその後も、丁度五種類の魔術をシェヴァに向けて放ち、掻き消されるを繰り返した。それが終わった後、若干の脱力感を覚えながら座り込む。

「シェヴァ、そういえばな」

「何です?」

「リアは、魔術使えるのか?見たことねえけど」

シェヴァはまだ、立ったままだ。彼は胡座をかいた膝に頬杖を突いて見上げてくる同輩に、ちらりと視線をやって事も無げに答えた。

「使えますよ。普段から肉体強化を行っていますから」

「普段から?嘘だろ」

「本当ですよ」

「あー、難儀な奴だなぁ・・・」

肉体強化してそれか・・・と疲れたと言ってはふらついて、結局シェヴァに抱き上げられていることの多い少女を見る。

確かに小さいが、肉付きもある。年頃が同じ頃の子供程度の体力はありそうにみえるが、実際は壊滅的。

ギリムはどうやら、リアの年齢を捉え間違えているようだ。


学院の入学資格に規定されている年齢が十二歳。彼はリアのことをそのくらいだと思っており、十六歳だという事実は知らない。

今はいないが、テアドアも同様だろう。

彼女の場合、学院の年齢制限を念頭に入れずに十歳かそこらだと思っているかもしれないが・・・。


夢見る乙女はいつだって、常識というものを考えないのである。


閑話休題、肉体強化だけでは今回の課題の加点にはならない。

ギリムはそこを心配しているのか、それともシェヴァがこうならリアもなのか・・・などという予想もしていたりした。


「そもそも、どうしてその者は寝ている。今は実技の時間だろう」

「あー・・・」

「リアが眠りたい時に眠ることのどこが問題です?」

「問題だろう。其奴が満足に魔術が使えるとわかっているわけでもあるまいに」

「殿下、あいつらはあれでいいんです。あんまりお気になさらんほうが・・・」

眠ったままのリアを、トライドは怠けているように思ったらしい。その直前に、ギリムがリアの魔術についても疑問を発したこともまずかった。

リアの眠りを妨げる者、侮辱する意味合いの言葉を発した者にシェヴァがどんな反応をするか。自信喪失気味になった教師と己の身で重々承知しているギリムは、うかつな殿下を諌めようとしたが。


「大体にして、移動すらままならぬ貧弱さをどうして改善しようとしない?そこからしてその者の堕落した精神が垣間見えるというもの。大方他の者の世話になることを覚えて、味を占めているのではないか?」

言ってしまわれたぞ殿下殿。

ギリムは後に起こるシェヴァの怒りを恐れて蒼白になり、素早く立ち上がって殿下とは反対方向――つまりはシェヴァとリアの背後に移動した。

そしてそれを、後悔した。


確かに安全だろう。向う方向が決まっているのだから、そちらにいなければいい話。

だが、シェヴァを中心に一気に膨れ上がる殺気、それに影響された魔力。各々が混ざり合って紫電を散らし、何やら不穏に揺らめいている。


一時的な避難ではなく、この場から速やかに離脱することが賢明だった。あまりの膨大な魔力放出に、頭と五感がイかれそうだ。


決して触れてはいけないものに、この国の皇子は触れてしまった。

龍の逆鱗に触れるよりもまずい気がするのは、気のせいだろうか。

・・・生き残る、よな?

まさか一国の皇族をこんな人目の多いところで殺したりなぞはしないはずだ。


「・・・縦に二つ、横に四つに裂いてやりましょうかね」

「シェヴァっ、待て!早まるな!」

それは明らかに八つ裂きだ!

不穏な発言をする人物に思ったほど理性が残されていないことが発覚し、それに伴って放出される魔力量が増した。


本来、魔力とは外界に漂っているものと個人の肉体に内包されているものに分かれる。同じものではあるが、

個体が内包するものの方がその宿主の意志を反映しやすいという特性を持つ。

であるから、初心の魔術師の殆どが内の魔力を媒介に外界の魔力に干渉するのだ。熟練すればするほど、一回の魔術に対する自身の魔力消費は減り、逆に外界への干渉がより大きくなる。

魔力の燃費がよくなるのだ。


シェヴァが今放出している魔力は彼にしてみれば小指の爪の先程度のものだが、ギリムから見れば広範囲戦略的魔術に楽々足りてしまいそうな程の量である。

「お前っ、皇都潰すつもりかよ!!?」

「ああ、それはないです」

それじゃあ一体どんな凶悪な魔術使うつもりだ・・・。

誰かこいつを何とかしてくれ、とギリムは心の底から思った。そろそろ周囲の生徒があまりの膨大な魔力に怯え始め、昏倒するものまで出始めている。


怒り狂ったシェヴァを止める。それを出来る可能性のある唯一の人物は、未だスヤスヤと夢の中。殺気に怯えて泡を吹く者がいるなかで、何と呑気なことだろうか。

さしもの自信喪失気味教師も、慌ててこちらへと駆けてきている。

それでも、一定距離を保って近づけない。


「リアっ!!シェヴァをなんとかしろ!」


殺気と膨大な魔力を集中的に叩きつけられ硬直したトライドに舌打ちし、魔力の圧にじりじりと後退りながら声を張り上げる。

彼女しか、この暴走した男を止められるものはいない。

「呑気に寝てる間に皇都が滅んじまう!」

起きろって!と願いながらも、やむを得んと自分が使える最大の魔術を練り上げる。


「【岩よ、炎よ、彼の者を穿つ灼熱の槌よ】!!」

小型の隕石にも似た、炎をまとった岩の塊。人一人分もあるそれが、ギリムの頭上で轟々と音を立てた。

二分節に、さらに句を足した上級魔術。錬度のあるそれですら、無効化されてしまえば意味が無い。いつもより厳重に陣を組み上げ、放出される魔力を押し返すように炎を燃え立たせた。

「【風よ、土よ、万物を燃え散らす紫電の斧よ】!」

同じ上級魔術が展開されたのを感じてそちらを見ると、教師がギリムと同じように雷を纏う鋭利な斧を出現させていた。

真っ直ぐに、その切っ先をシェヴァへと向けている。構成もギリムとは比べものにならないほどに緻密かつ堅固だった。


「シェヴァ、落ち着け・・・でないと実力行使になる」

「シェヴァ君、魔力放出を止めろ!」

シェヴァは振り向かない。背後からかけられる声にも、上級魔術の圧を感じてもなお振り向かなかった。

振り向かない、まま。

「――実力行使・・・?」

ふふ、と無駄に無邪気な声が響く。


「やれるものなら――」

やってみなさい、と挑発するような声が聞こえて。

ギリムと教師がいざ、魔術を留まらせていた枷を外そうとした――


その、瞬間。



「ちょっと、馬鹿。何してんの一体」

ぺち、と気抜けのする描写が似合いそうな一撃。

シェヴァの額を叩いた小さな白い掌、それを見たギリムが一瞬で肩の力を抜いた。魔術は一応展開したまま、目覚めた途端に厄介事の真っ只中にある少女の行動を見守る。


「無駄に魔力出さないで、五月蝿くて起きた。何か熱いし」

「はい、申し訳ありません」

「何怒ってるの」

「貴女を貶めようとした不届き者がいたもので」

リアの目覚めた理由は、一部を共有しているらしい馬鹿の馬鹿な魔力放出と、その感情の揺れを感じ取ったからである。これは面倒だろうと、夢世界からあえなく帰還とあいなったわけだ。


「ふうん・・・で?」


ギリムが起こした炎、教師がまとめ上げた紫電からの放熱。シェヴァの魔力であらかた押し出されているとはいえ、その熱波は二人のところまで押し寄せて来ていた。

気怠げにその熱をやり過ごしながら、リアは胡乱気に自分を抱き上げている腕の二の腕あたりをぺしぺしと叩いた。

降ろせ、ということである。


「少し、脅かしていました」

「何であんたがそれをするの」

「リアが、眠っていらっしゃいましたから」

「もう起きた」

「そうですね」

シェヴァはその命に従いながら。リアは周囲を見回し、どう見ても「少し脅かした」程度の話ではないだろうと、昏倒した生徒や遠巻きの怯えた視線を感じた。


「で、殿下殿」

「・・・何だ」

「何か、貶める事を言ったんで?」

こいつは私が寝ている間に、どんな余計な口を聞いてくれたというのだろう。さして興味もなく、言われても痛くも痒くもないが、否定して覆して叩きのめさないことには、背後に立って一応は魔力を抑えた男が納得しないだろう。

図らずもギリムが思ったとおり、リアは問題の解決に動き出した。



それにしても、と思う。

「貴様が、実技の最中に眠りこける怠惰な性を見せるからだろうが!」

「何で怠惰。この時間は終わりに課題さえこなせればいいんでしょ」

「貧弱な体力を、改善しようという考えを持たないのか貴様は!」

「ああ、何。そういうこと」

殿下の思ったとおりのシェヴァ曰くの「侮辱ネタ」に耳を傾けながら思う。


この自分が何かを、誰かをここまで嫌えるというのも面白い。


好きなものも嫌いな物も必要なものも必要ないものも、何もつくろうとはしなかった自己を。

どもまでも排他的で利己精神に富んでいた自身を、彼女こそがよく知るというのに。

これはどうしたことだろう。


自然と、口元が笑んでしまう。


「――何がだ」

自嘲的に、快楽的に、退廃的に笑むリアをトライドは心底嫌悪感を顕にしているような表情で睨みつける。

「あんた、あたしが気に入らないんでしょ。やること成すこと」

「そうだ、怠惰を具現した貴様がな」

「だったら、どっか行け」

「な・・・っ」

「嫌いな奴に一々近づいて、何か言い返されるのが楽しいの?」

皇族ってものは、構って欲しがりの痛い子になる定めらしい。

止めの一撃に沈没したトライドに満足し、リアは納得した。



「で、課題だっけ」

「初級魔術を五種だぞー」

誰に言うともなしに問いかけると、少し遠くから声が響いた。最近になって、聞きなれたと思える声だ。

声のする、ギリムの方を見ると何と、未だ轟々と燃え盛る土の塊が浮かんでいた。

余談だが、これだけの時間上級魔術を維持できるギリムも、年齢からしたらかなり優秀である。

「ギリム、何それ。熱い」

まだしまってなかったの、と顔を顰める。

「悪いな、色々あったんだ」

「教師も何か出してるし」

「いやっ、これは・・・」

何やら苦笑から哀愁が漂い始めている同輩と、シェヴァに睨まれたわけでもないのに若干慌てている教師の術を一瞥する。

教師がいる、目の前に巨大な魔術(ちょうどいい的)がある。


リアは、自分の知識の中からするりと斜め読みした魔術教本の内容を引っ張り出す。

大概のことは思い出してくれる脳のお陰で、彼女は未だ、講義中寝こけているにもかかわらず、締めのテストのようなもので、一度足りとも「落第点」を頂いたことはない。

「五種ね」

『基礎魔術機構―初級魔術・一陣呪語二文節構成』の記述を頭の中に思い浮かべながら、呪文を紡ぐ。


「【万象よ、廻れ】」


黒髪の、小柄な少女の唇から紡がれた呪文に、周囲の魔力が従う。同時に顕れたのは、五つの魔術砲丸。

初級魔術ながら、その構成に引っ張られた魔力は膨大。

美しく円環を描き、浮かぶ光球たちはリアを取り巻く衛星のようにその周囲を回り、直後。


環からはじき出されるように飛来する魔術の砲丸が、ギリムと教師の魔術に拮抗し、挙げ句の果てには霞のように掻き消した。

「「な・・・っ!!?」」

初級魔術に上級魔術を打ち消され、絶句する二名。

先の二つはそれぞれ、炎ということで水剋火、雷には金剋木ということで土の属性を強めて送ってみたが意外と上手くいった。


残る三つ。氷、風、雷のうち前の二つを使って周囲の空気を冷却、雷で周囲の無駄に圧迫感を与える魔力を喰らい尽くし、空へと放って昇華させる。


一連の魔術行使を終えて、少し使うだけで調子づいて溢れ出しそうな内包魔力を抑えつけた。

さて、と。

「これでいいんでしょ、五種」

「流石ですね、リア」

そして、貴女らしいです。

一つに纏めようとするところが。


シェヴァの賞賛を聞くリアの顔は、渋面。

何故なら――



「お前も賢者とかじゃねえよなっ!?」

「上級魔術を・・・初級が・・・・・・ああ、俺はもう駄目だ」

おまえもかっ!とでも言うようにこちらに遠慮無く突っ込んでくる同輩と、何だか魔術教師としての自身やら何やらを根絶されて首をくくりそうな男。

呆気に取られて、言葉もなくこちらを凝視する雲上人。


もういっそ、化物を見るといったほうが正しいような。

他の生徒達の視線を一斉に浴びせられたからだった。


・・・・・・。


間違いなく、目立っていた。

あんなにも彼女自身が、毎度毎度口癖のように目立ちたくないと言っていたというのに、だ。

「リアは迂闊ですねぇ」

「わかってたんなら止めろ馬鹿」


苦し紛れに、飄々と決定打を口に出した傍らの変態を力の限り蹴飛ばしたとして、誰が咎められようか。

間違いなく、この馬鹿シェヴァは悦ぶというのに。





字数調節って何。

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