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なんとなくトリップ  作者: 砂町 峰
なんとなく巻き添え
13/20

とんでも無いお話


たらららったらー。






何だか進展やら命の危険やら何やらがあった日から一夜明け。

何とも気まずい朝食風景が、とある学生の住む一軒家で展開されていた時のこと。



先程から、ギリムは非常に困っていた。

四角い食卓を囲む、隣には幼馴染かつ血縁のテアドア。

正面には、昨日とは打って変わって朝から無駄に機嫌の良さそうなデタラメ男、シェヴァ。

そして膝の上、つまりシェヴァに人形のように抱えられてしまっている少女、リア。

珍しい双黒の二人は、至って普通に反対のテンションで朝食に向かっていた。


思うのだが、今日のシェヴァはいつもよりも過保護な気がした。

まだ会って然程期間があるわけではないが、それにしても今日の構い方は異常だと思える。

椅子の背もたれに全体重を預け、今にも雪崩落ちそうなリアを見かねたのか膝の上にのせ。若干嫌がる素振りを見せた少女を言いくるめ、甲斐甲斐しく食事を食べさせている。

食べさせている、のだが・・・。

「なあ、シェヴァ」

「何です?俺は忙しいんですけど」

「だろうな。で、リアはそんなに体調が悪いのか?」

「ええ、今日は一日歩けないかもしれませんね」

「そんなにか?」

匙で食事をよそい、その口元まで嬉々として運んでやっている青年に、腕の中の少女はそんなに酷いのかと訊ねた。

以前、リアが「食器も持たせて貰えなくなる」と恐ろしげに言ってきたのを思い出したからだ。

シェヴァが無理矢理やっているのでは可哀想だろう、と常識的なギリムは考えた。


確かに昨日、得体のしれない現象の後に、シェヴァが抱き上げていたリアはぐったりとしていた。しかしそれも、別段顔色が悪かったわけでもなく、ただ気絶しているだけという風に見えた。

っと、そうだった。


「シェヴァ、昨日の魔術。あれ、どんな術式だ?」

「俺の属性は影ですから、それを使って引っ張ったんですよ」

影を使って、違う地点にあるものを転移させる。

正確には、シェヴァ支配下にある影の世界に引きずり込み、その空間を伝って引っ張ったのだが。

至極簡単とでも言うかのようにシェヴァの口から出た説明に、ギリム呆気、隣のテアドアも瞠目していた。

「おまっ、それっ・・・なぁ!?」

「簡単と言い切れる術式ではないはずだぞ・・・」

「そうですか、大変ですね」

普段なら口八丁手八丁で言い包めるが、今はリアの食事が最優先事項なためかシェヴァの反応はおざなりだった。

そのせいで、ますます二人の反応は強くなる。

「お前っ、実はどっかの賢者とかじゃねえよな!!!?年齢誤魔化してねえか!?」

「他国からの偵察とかではないのか!?」


あらぬ嫌疑をかけてきた二人に、シェヴァは眉を顰め、リアは騒音に唸った。

色々と酷使された体に騒音はきつい。鈍い思考に喚くような声が響いて、とても不快だった。


「黙ってください。それとも・・・二度と口を開けないようにしますか?」


過保護かつ過激な変態機能発動の瞬間だった。

今のシェヴァは、未だかつて無かったほどの至福の状態。リアに尽くす行動にも余念はなく、多少過激になってでも殺ってしまえと思っているらしい。


たった一晩で、シェヴァの変態気質は異常なほど増長していた。

その原因を知らないでもないリアは早速後悔の中にいたし、こいつならやると確信を持ってしまえたギリムとテアドアは、一気に顔色が蒼くなる。


結局、興味関心は尽きないものの。強制的に黙らされた二人が、シェヴァの使った魔術について知ることが出来たのは、もうすっかり「シェヴァだからな・・・」とその一言だけで納得できてしまうほど、この変態に振り回された後だったとか。


心底哀れな話である。



*****



昨日の今日で、重大な問題があったことを思い出した。

曰く、なぜリアがシェヴァから逃亡するに至ったか、である。

その原因ともなる、「さっさと城の中に引き篭ってふんぞり返ってて欲しい人物」が。


今、目の前にいた。


おいおいマジかよ。

と男口調で言ってしまいそうになるほど面倒、臭い。

面倒臭い。

・・・どこまでもネガティブな言葉だ。

「聞いているのか?」

「・・・一応」

無反応を突き通せば諦めてどこかへ行くかと思ったのだが、甘かった。高貴で止事無いお方はどうにも気が長かったようだ。

ある意味短いが。


「何か御用でしょうか、殿下殿」

「貴様・・・、慇懃無礼を絵に書いたような女だな」

「単純に、わからないのですがね」

「伝えただろうが!!」

「世の中ね、一度発言しただけでその全てを聞き取ってもらえるのなんて、聖人か神だけなんでございますよ」

要は、「何故こいつがここに」と茫然自失だったために止事無きお方の仰ったことを聞いていなかったのである。

どうせ、ろくな事言ってないだろうとも思うが。


何はともあれ、シェヴァが席を外した一瞬の隙を突いて接触してきた。この御仁の相手をするのは、非常に厄介でかつ面倒。

そしてもう既に、シェヴァにこの会話は筒抜けだろう。


足元の影が波打つのを、リアは俯くふりをして見下ろした。

「・・・貴様の兄を、私の側近にするための協力をせよ、と言った」

「何故」

「何故だと?あれ程に魔術の才に恵まれたものを私は知らん。宮城に召抱え、その才を活かすためだ」

「そこで何故、私の協力が要ると思うんですかね。殿下殿が口説けばよろしいでしょう」

「・・・断られた、貴様にしか遣えぬと」

兄妹で主従とは、どうなっている?と眉を顰められるが。そもそも兄妹じゃない、そして主従でもない。

少なくとも、リア自身が認めたことは無かったはずだ。シェヴァは知らん。

「兄弟で主従、だったら。王族では珍しくないでしょう」

「しかし、テライダに身分制度は無いはず・・・」

「あのお馬鹿が勝手に宣言しているだけです。兄妹でもありません」

そうか、テライダには身分制度が無いのか。

木造建築といい双黒といい、日本に近い文化を持っているらしい。

『米、あるの』

『ありますよ、似たもので名は違いますが』

メコ、と言うらしい。・・・反対になっただけだった。

そしてやっぱり聞いていたな、変態こいつ


リア自身、シェヴァと体をつなげたせいか。無駄に感情の波を受け取りやすくなった。どうせ、今の彼女の心境まで察して傍観しているに違いない。

流石に、目の前の皇子が手を出してきたら――

『八つ裂きにします。安心してください』

『魔術師の証明書どころじゃなくなる』

身分証を手に入れるとか言っていた奴は誰だ。


「――い、・・・おい!」

「・・・はい、何でしょう」

「体調でも崩しているのか、軟弱な・・・シェヴァも貴様の世話で手が回らぬようだしな」

お言葉だが、あいつは間違いなく嬉々としてやっている。

むしろ緩和できるならして欲しいくらいだ。

シェヴァとの会話で、反応を返せなかったのにも御立腹らしい。


そうか。


皇子にとっては、私はシェヴァとの仲を裂く悪女なのか。

そういう方面に、行ってしまっている方だったか。

まだ妃殿下とやらもいないようだし。南無。

別に皇帝なわけでもないから、子作りの義務はないだろう。思う存分他所で浸ってくれてオッケイだ。

「・・・おい、何だその目は」

「いえ、殿下がシェヴァを娶るのかな、と」

「何の誤解だ!」

「いえいえ、お気になさらず・・・他所でやってくれれば」

「・・・っもういい」


で、話が逸らされたと気づいているのか殿下殿は。

「それで、協力はするのか」

「だから、勝手に口説いて娶ってくださいよ」

「娶らん!召抱えると言っているのだ!」

きゃんきゃん喧しい皇子だ。こうなると、ギリムのツッコミすら子守唄に思えそうな気がする。


「答えを、訊く必要性はあるんですか」

「何・・・?」

止事無き方とやらに反応をしないと何かと波風が立つだろうと思って一応会話はしていたが、忘れるなかれ。

リアの中でのこの皇子への心象は最悪である。

不遜、かつ自信家。

ステイタスの何もかもが厄介事フラグを乱立しそう。

面倒、側にいると否が応でも視線が集まる。

自分の言葉が、全て『命令』として受け入れられる立場だと自覚しているのか。

気安い学生同士の語らいを、最初から全てたたき折ったのは目の前の木偶。頼まれたって、気安くするつもりはないけれども、それはまた別の話。


早く、誰かこいつを撤去してくれ。


「お・・・あ?リア、お前殿下となに話して・・・」

「シェヴァを娶りたいから祝福してくれってさ」

「違うと言っている!!」

ギリム登場。

こいつなら、殿下を持ち運ぶ体力はありそうだ。

リアも、魔術を使えば可能だが。それをやったら間違いなく目をつけられるのでパス。

「殿下、申し訳ないが。こいつの保護者が探してるもんで、失礼します」

お遣いなんですよ、俺。とギリムが苦笑しながらリアを抱えた。

どうやら、リアのほうがこの場から撤去されるらしい。離れられればどうだっていいが。

「あの者が直接来れば良い話だろう」

「さあ、そこら辺はわかりませんよ。俺は友人に頼まれただけですから」

聞いてて腹がたつ・・。


「あんたさ」


フラグが立ってもシェヴァがたたき折るだろう。

面倒になれば消すだろうし、と普段なら有り得ない程過激な思考状態で、リアは口を開いた。

「自分の言葉、感情が周りにどんな影響与えてるか、もう少し考えなよ。こっちは皇族として接してんだから、頼みも命令になるし。不興を買えばびくつくんだよ」

そんなこともわかってないなんて、馬鹿?


「貴様っ・・・」

「ほら、それ。ご学友ってやつ同士の呼称じゃないよね。学のもとに平等とか言っといて、最初から嫌そうにしてさ」

テメエは神様か、どんだけ唯我独尊だ。

「こっちは、学を得るために通ってる。あんたは、『ここで改めて得るものは無い』って顔でここに来た。だったら、何かを得ようとか思うな。大人しく、周囲が気遣わなくていいように行動しとけばいい」

はっきり言って、学業妨害以外の何者でもないよ。

実際、授業の方も教師がびくついて進みが悪い。

リアは聞いているわけでこそ無いが、独特の緊張感が鬱陶しく思っていた。


「・・・私は、好き好んでここに来たわけではない」

「阿呆?真性の阿呆なの?自分の人生が好きなことだらけ、理不尽なんてひとっつもないなんてあり得ないってわかってるでしょうが」

皇族なんだ、今まで贅沢と権力の対価に色々と我慢させられて来たことも多いだろう。それなのに、たった三年の無難な学院生活を送ることのどこが不満だ。


そして見たところ、放蕩息子的な扱いでもなさそうだし。寧ろ、過労死するんじゃないかと心配されたんじゃないか。

自分のした努力の効果を知っているからこそ、努力することを当然と思い。結果があるからと正当性を見出してしまう、人らしい思考。


ああ阿呆らしい。


「あんたが向き合ってるのは学でもなんでもない、ただの利己心だけ」

「・・・リアー・・・言い過ぎ言い過ぎ。殿下凹んでんぞ」

言い切って、見れば少々項垂れた感漂う殿下。

ギリムが見かねて諌めるが、リアはなおも鬼畜だった。

言ってしまえと思ったからには、とことん言って宣うのが彼女である。

鼻で哂って。

「ヘタレ」

「おーい・・・」

一言、それが止めだった。


リアが立ち去った後、人生稀に見る経験に茫然自失の体の殿下が、空しく昼の日差しを浴びていたとか何とか。



ギリムに運搬され、シェヴァの腕に抱き直される頃になって、「少し言い過ぎた。後が面倒」とリアが溜息を吐いたとか何とか。

非常に、非常に不本意ではあるがめでたく皇子と接触イベント成立の運びとなった。




そんな、ある物語の始まり。




(リアにとっては)嫌な前フリ。

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