入学式の七人
「俺、実は恋人ができたんだ」
ああ、言うの絶対今じゃなかったな。
みんなの驚いた顔を見て、そう思った。
でも仕方ないだろ、急に緊張をほぐすために何か言えって言われて正しいこと言えるヤツがこの世にどれだけいるってんだよ。
「マ」
叫びそうになったディアの口をキリアが覆った。
小声でバカ、と言いながら頭を叩かれている。
「いやバカはレオンだからね。なんで今そんなこと言うの?」
俺も同じように頭を叩かれた。
フィーが叩くと次々に拳が飛んできて、最後にディアが控えめに叩いてきた。
「ごめん」
俺が謝ることじゃない気はしたけど、空気的に謝っておいた。
「でも、おかげで緊張どっかいっちゃったよ」
ロンドにそう言われてちょっと救われた感がわいた。
よかった、怒られ損にならなくて。
「でも後で詳しく聞くからね!」
そう言って俺を睨んだシオンの肩をノークが叩く。
「みんな、そろそろ出番だよ」
「在校生による学園案内をアルカディア学衛団より頂きます」
その言葉に俺たちは舞台に上がる。
新入生、暇な在校生、教員その他の視線が一気に俺たちに向き、舞台裏で俺がなくしたはずの緊張が一気に戻ってきた。
いや、大丈夫だ。深呼吸、深呼吸。
まずは俺の挨拶から。
「新入生のみなさん、国立アルカディア魔道具学園への入学おめでとうございます。
我々はこのアルカディア魔道具学園にて学園の防衛を行っているアルカディア学衛団といいます。
俺はその代表のレオンハルトです」
新入生に目を向ける。
大丈夫、みんな興味なさそうな無表情だ。
明日になれば俺の言ったことは覚えていても俺の顔は忘れていそうな感じだ。
「みなさんにはこの後、魔道具によってグループがつくられます。
そのグループは卒業をするまであなたと共に学び、生活をしていくグループです。
決してメンバーを変えることができません」
決してメンバーを変えられない。
その言葉に新入生が少しザワついた。
わかるぞ、俺も去年ビビったからな。
「みなさんが驚かれるのも無理はないと思います。
しかし、みなさんのグループメンバーを選択するのはアルカディア魔道具なのです」
アルカディア魔道具。
楽園を意味するアルカディアの名を冠するそれは、この世を楽園に近づけるとされる魔道具を指す言葉である。
そしてアルカディア魔道具学園は、アルカディア魔道具の作成を卒業課題とし、この世を楽園にすべく道具を生み出す魔道具師を育成するための学園である。
そんな学生をよりよい環境に置くために適切なグループ分けを行うの魔道具もまた、アルカディア魔道具という事だ。
うん、初めてじゃよくわからないよな。
説明を受けて理解しきれてない顔をする新入生たちを見て同情する。
俺もよくわからなかったけど、実際体験したらなんとなくわかるし、その内ちゃんと理解できるはず。
俺の説明パートはここまでなので一歩下がって、音声拡大の魔道具をフィーに渡した。
フィーは愛嬌たっぷりで可愛らしさ全開に新入生に手を振った。
「続いてわたしからそのグループに関して説明をしたいと思います!
わたしはフィスティア、新入生のみなさーん、よろしくおねがいしまーす!」
お、何人かの男子生徒があかるさまに聞く気になった。
参加自由の在校生(つまり暇人)も何人か背筋を伸ばすのが丸わかりで、逆に面白さを感じる。
「アルカディア魔道具によってグループ分けされた学園のグループはサークルと呼ばれ、先ほども説明があったようにこの学園ではサークルのメンバーと共に生活をしていくことになります……」
俺たちの中で一番他人へ説明するのが向いているのがフィーである。
もう全部フィーで良かったんじゃないかな……。
そうアレコレ思っているうちに、俺ら自警団の発表パートは終わり、舞台から下がった。
「みんな、おつか__」
れ、と口から出る前にぐらりと身体が揺れた。
キリアに持ち上げられたとわかった瞬間、俺を抱えたキリアを含め、全員が走り出した。
ちょっと待って、と叫びかけて、幕の向こう側ではまだ入学式が続いていることを思い出して口を閉ざした。
あと今口を開けようものなら舌を噛む気がする。
全員が自警団用の部屋に飛び込むと、俺は雑に床に降ろされた。
「痛ッ!」
衝撃でケツが痛む。
しかし立ち上がることは許されなかった。
みんなが俺を覗き込んで叫んだ。
「恋人ができたってどういうこと!?」
……そうだった。それだったな。
「そういうことも何も……告白して、成功した。
それだけの話だよ」
「じゃあ、グレーシュさんと……」
「恋人に、なった」
とたんに沸き起こる、歓声、揶揄い、好奇心の目。
そりゃあそうだよな。
みんな俺の恋を応援してくれていたんだから。
ここは国立アルカディア魔道具学園。
この世を楽園に近づけるための魔道具、アルカディア魔道具を作るべく学生が学ぶ学び舎。
そこで俺たち七人は自警団というサークルを組んだ。
そしてアルカディア魔道具を作る、アルカディア魔道具師になるべく日々を過ごすとともに、俺たちにはもう一つの目標があった。
全員が最愛を手に入れること。
俺が、その一人目だった。
そして俺が最愛、つまり恋人を手に入れれば他の六人の最愛の人についても明かす。
今思い返せばめちゃくちゃだが、そういう約束だったのだ。
いいさ、今は思う存分グレーシュについて惚気てやる。
だが次はお前らが色々聞かれる番だ。
他人の恋愛に強い興味があるわけじゃない。
でも、ずっと俺だけ聞かれてきたんだから、みんなのはなしも聞きたいって思ってもいいじゃないか?
俺はそう考えながら、立ち上がった。
「とりあえず、話す準備をしないか?」
だが、この後俺が聞く話は、何一つ俺の予想通りのものはなかった。




