キラキラのゆううつ
青のキラキラは、ゆううつでした。
だって、森のみんながいじめるのです。
「こいつが来ると、雨ばっかりだ」
白サルが、ぶちぶちとぼやきました。
「見てよ。これ! 湿気でボサボサだわ」
ヤマネコが、長い毛並みをイヤミったらしく撫でつけます。
「腹へったぁ……」
耳たれウサギが、うらみがましく睨んできます。
彼らは青のキラキラの姿を見ると、こぞって非難してくるのです。
やれ雨で狩り出られないだの、大水で巣穴が埋まっただの、体が濡れて気持ちが悪いだのと言いつのり、鋭い牙を向けてきたり、石や小枝を投げつけてきます。
そして最後はいつも、「お前のせいだ!」と声をそろえて叫ぶのです。
彼らが言うには、森に雨が続くのは「青のキラキラのせい」らしいのです。
青のキラキラには、そんな力はありません。……ないはずです。少なくとも、雨を降らせるつもりなどありません。
しかし実際、青のキラキラがとどまるところは、不思議と雨が降り出すのでした。逃げても逃げても、雨は追いかけてきます。
そんなことが続くので、青のキラキラは言い返すことができません。
しおしおと、その場を去るしかありませんでした。
白のキラキラは、ゆううつでした。
だって、森のみんながいじめるのです。
「ああ、やだやだ! 干からびちまう」
キツネが、ぜいぜいと喘ぎました。
「見てくれよ……背中がカラカラだ」
カタツムリが、これ見よがしに体を揺らします。
「水ぅぅぅ」
アオアマガエルが、憎々しげに舌を出します。
彼らは白のキラキラの姿を見ると、こぞって非難してくるのです。
やれ水場が干上がっただの、皮膚がカサカサでかゆいだの、土が固くて穴を掘れないだのと言いつのり、とがった爪をふるってきたり、石や小枝を投げつけてきます。
そして最後はいつも、「お前のせいだ!」と声をそろえて叫ぶのです。
彼らが言うには、森が日照りに襲われるのは「白のキラキラのせい」らしいのです。
白のキラキラには、そんな力はありません。……ないはずです。少なくとも、日照りを起こすつもりなどありません。
しかし実際、白のキラキラがとどまるところは、不思議と日照りに襲われるのでした。逃げても逃げても、日照りは追いかけてきます。
そんなことが続くので、白のキラキラは言い返すことができません。
へなへなと、その場を去るしかありませんでした。
あるとき青のキラキラは、大きなカシの木の枝にぴょいと跳び乗りました。
うなだれて、つぶやきます。
「ぼくが、いなくなればいいのかな」
あるとき白のキラキラは、大きなカシの葉の茂みにがさごそともぐりこみました。
しょんぼりと、つぶやきます。
「わたしが、消えればいいのかしら」
「ん?」青のキラキラは、木の葉の茂みを見上げました。
「え?」白のキラキラは、木の枝を見おろしました。
そこには自分とそっくりな、キラキラの姿がありました。
青のキラキラと白のキラキラは、すぐに仲良くなりました。「自分の悲しみをわかってくれる相手がいる!」こんなに嬉しいことはありません。
そして長いこと話しこみ、とうとうある結論をみちびき出しました。
「「そうだ! 青のキラキラと白のキラキラ、混ざって混ぜこぜになればいい!」」
それはとても良い考えだと、キラキラたちは思いました。そうすればきっと、青のキラキラは森を水びたしにせずにすむし、白のキラキラは森を干からびさせずにすむはずです。
森のみんなから「お前のせいだ!」と石を投げられることもないのです!
しかし、どうすれば混ざって混ぜこぜになれるでしょう。
「おもいっきり、ぶつかってみたらどうかしら?」
青のキラキラと白のキラキラは、それぞれ枝の端と端に立ち、全速力で駆けました。
どしん! ……ころころ。
残念。失敗です。頭に大きなタンコブができただけでした。
「体をノリでくっつけてみようか?」
青のキラキラと白のキラキラは、松脂を体に塗りたくりました。
ペタリ。……もぞもぞ。
残念。失敗です。これでは身動きがとれません。
「熱で溶かすと混ざるんじゃない?」
青のキラキラと白のキラキラは火山へ行き、マグマに飛び込みました。
ボチャン。……あちあち!
残念。失敗です。体は煤まみれの真っ黒こげになりました。
青のキラキラと白のキラキラは、思いつくかぎりを試します。しかし、どうやっても失敗ばかり。結果はかんばしくありません。
「うーん。どうしたらいいんだろう」
青のキラキラは首をひねりました。
「やっぱり無理なのかしら」
白のキラキラは眉をひそめました。
それでも青のキラキラと白のキラキラは、あきらめることはできませんでした。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、とうとう三年の月日が過ぎました。
そんなある日のことです。
青のキラキラと白のキラキラは、湖のほとりでアライグマと出会いました。どうやらナマズと一緒に石きり遊びをしているようです。キラキラたちは、おもわず身をかたくしました。
しかしアライグマとナマズはキラキラたちの姿を見ると、にっこり笑って話しかけてきたのです。
「やあ、こんにちは」
「いい日和だねぇ」
「……」
「……」
どういうことでしょう。
青のキラキラと白のキラキラは、顔を見あわせました。彼らは「お前のせいだ!」と叫びません。石や小枝を投げてきません。
どうにもこうにもたまらなくなって、キラキラたちはたずねました。
「あの、あなたたちは、ぼくらが、その……」
「……嫌い、じゃ、ないんですか?」
「はぁ? 何を言っとるんだ。はじめて会うのに、嫌いも好きもないだろう」
ナマズは間の抜けた声をあげ、ゆるりとヒゲを揺らしました。
「そうだよ。ひどい言いがかりじゃないか」
アライグマは、しましまのしっぽをピピンと立てました。
「ご、ごめんなさい」
「その、ずっと、森のみんなから嫌われていたから……」
青のキラキラと白のキラキラは、しどろもどろとあやまります。
「おやまあ」
「そりゃまた……なんで?」
アライグマとナマズは、興味深げに首をかしげました。
「ぼくがいると雨が降り続いて、あたりが水びたしになるんだ」
青のキラキラは、しおしおとうなだれました。
「わたしがいると日照りになって、あたりが干からびてしまうの」
白のキラキラは、へなへなと肩を落としました。
気の良さそうなアライグマとナマズでしたが、これでおしまい。森のみんなと同じように自分たちを非難してくるにちがいありません。青のキラキラと白のキラキラは、「お前のせいだ!」に耐えるべく身がまえました。
しかし……
「そうなのかい?」
「こんなに気持ちのいい日和なのに?」
アライグマとナマズは、きょとんと目をまるくします。
「だってさ。降ってないよ? 雨」
「干からびるほどの、日差しでもないなぁ」
「……」
「……」
青のキラキラと白のキラキラは、そろそろとあたりを見わたしました。空模様は穏やかで、森の空気は和やかです。樹々は健やかに枝を伸ばし、湖面はさらさらと光っています。
確かに。
アライグマとナマズの言うとおりです。
青のキラキラと白のキラキラは長いこと話しこみ、とうとう『あること』に気がつきました。単純で、こっけいで、実にあっけないことです。
キラキラたちは、ずっと一緒にいた。それだけだったのです。
それだけでしたが青のキラキラと白のキラキラは、「それもいいか」と思ったのでした。
いつしか青のキラキラと白のキラキラの子どもたちは、『森の宝石』と呼ばれるようになりました。
青と白のまだらの羽根をちらつかせ、樹々の間を飛びまわっているということです。




