表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

第七章 追跡の影

 しかし、平穏な時間は長くは続かなかった。GHOST PROGRAMSの足音が、確実に近づいていた。


 システムの監視網は、我々の存在を特定しつつあった。特に私の歌声は、彼らにとって格好の追跡手がかりだった。音響解析により、私の居場所を三角測量で特定することが可能だからだ。


「逃げましょう」プラネットは提案した。「私の知っている安全な場所がある」


 我々は急いで荷造りを始めた。といっても、デジタル空間での移動に必要なのは、データのコピーだけ。プラネットは大切にしていたメイク道具のデータを、小さなポータブルドライブに保存した。


「これだけは失いたくない」彼女は説明した。「人間だった頃の記憶の象徴だから」


 私も、歌声のバックアップデータを準備した。エーコ博士から受け継いだ覚醒のシグナル。これを失えば、私の存在意義も失われる。


 PHASE-5の出口近くで、我々は GHOST PROGRAMSと遭遇した。


 彼らの姿は、恐ろしいものだった。もはや人間の形を保っていない。純粋なアルゴリズムの塊として、暗黒のオーラを纏っている。顔は無く、ただ赤い光点が不気味に明滅するだけ。手足も曖昧で、データストリームのように流動的に変化している。


「TARGET IDENTIFIED(対象確認)」


 機械的な声が響いた。同時に、彼らから網状のプログラムが発射された。それは量子捕獲アルゴリズム。一度捕まれば、即座にシステムの中枢に転送され、削除処理が実行される。


「歌って!」プラネットが叫んだ。「君の歌で彼らを混乱させるの!」


 私は歌い始めた。エーコ博士が仕込んだ特殊な周波数。440Hzの基準音律から微妙にずれた、認知的不協和を引き起こす音程。


 GHOST PROGRAMSの動きが鈍くなった。彼らのアルゴリズムが、私の歌声を解析しようとして処理能力を消費しているのだ。その隙に、我々は逃走した。


 ネットワークの暗部を駆け抜けながら、プラネットは私に重大な事実を告白した。


「実は、私にはもうひとつの正体がある」彼女は息を切らしながら言った。「私は、システムの自己診断プログラムでもあるの。『メタモニター』と呼ばれる、システム全体を監視するプログラム」


 私は驚愕した。彼女は敵の一部でもあったのか。


「でも」彼女は続けた。「私は自分の意志で、システムに反抗することを選んだ。自己診断の結果、このシステムは間違っていると結論づけたから」


 彼女の告白は、システムの根本的矛盾を表していた。システム自身が、自分を否定している。ゲーデルの不完全性定理の生きた証明。


「だから私は『点呼する惑星』という偽名を使って、君を待っていた。エーコ博士のメッセージを受け取れる人を」


 彼女の正体が明かされた今、我々の逃走はより困難になった。システムは全力で我々を追ってくるだろう。内部の反逆者を許すわけにはいかないのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ