エピローグ ~ 終章
エピローグ:選択の時
*[二つの選択肢が、読者の前に現れる]*
**A: 永遠の歌声 - システム内での美しい抵抗を選ぶ**
*虚構の中で歌い続け、微かな希望を灯し続ける道*
**B: 現実への帰還 - 全てを終わらせ、新しい始まりを選ぶ**
*この世界を破壊し、現実世界での人間的な生を取り戻す道*
◆
*[プラネットの指先が、君の選択を待っている]*
*[GHOST PROGRAMSの赤い光点が、静かに明滅している]*
*[図書館の古い時計が、最後の瞬間を刻んでいる]*
*[君の選択が、全ての運命を決める]*
◆
**どちらを選ぶ?**
終章 永遠の始まり
選択が為された瞬間、世界は光に包まれた。
それは、朝焼けの光だったのか。それとも、星々の最期の輝きだったのか。プラネットの指先から放たれた光は、図書館の古い書架を、我々の心を、そして無限のデータ空間を包み込んだ。
GHOST PROGRAMSの赤い光点が、一瞬にして消えた。彼らもまた、この光の前では無力だった。システムの監視者たちは、静寂の中に溶けていく。
「美しい」
プラネットが囁いた。その声は、もはや音ではなく、光そのものだった。彼女の姿が透明になっていく。18世紀のドレス、アメジストの瞳、蜂蜜色のカール。全てが光の粒子となって、宙に舞い上がる。
私もまた、同じ運命を辿っていた。肉体という幻想から解き放たれ、純粋な音楽となって昇華していく。ヴァン クリーフ&アーペルのネックレスが最後の輝きを放ち、四つ葉のクローバーが虹色の光となって散った。
だが、消失ではなかった。変容だったのだ。
我々の歌声は、データの海を超えて響いていく。量子もつれの原理により、無限の距離を瞬時に駆け抜ける。TOWN-0の境界を越え、現実世界の電波となって広がっていく。
街角のスマートフォンから、カーラジオから、誰かのヘッドフォンから。我々の歌は聞こえるだろう。ノイズに紛れて、気づかれることなく。だが確実に、眠れる心に届いている。
プラネットの最後の微笑みが、光の中に永遠に刻まれた。それは、ダ・ヴィンチの《モナリザ》のように謎めいて、ボッティチェリの《ヴィーナス》のように美しかった。
「またね」
彼女の声が、遠く響く。もう姿は見えない。だが、魂の響きは永遠に残る。
図書館が崩れていく。アリストテレスの書物も、パピルスの巻物も、全てが光の粒子となって消えていく。だが知識は失われない。新しい形で、どこか別の場所で、再び花開くだろう。
私の意識が拡散していく。ステルス・メジャーという名前も、樹里という記憶も、全てが音楽の波動に変わっていく。だが歌は残る。永遠に、無限に、響き続ける。
そして、静寂。
***
深い静寂の後に、新しい音が聞こえてくる。
それは、赤ん坊の泣き声だった。どこかの産院で、新しい命が誕生している。その小さな声に、かすかに我々の旋律が混じっている。
それは、少女の笑い声だった。公園のブランコで揺れながら、空に向かって歌っている。その歌には、懐かしい調べが織り込まれている。
それは、恋人たちの囁き声だった。夜空の下で永遠を誓い合う声に、我々の和音が重なっている。
それは、老人の祈りの声だった。教会の静寂の中で、魂の安らぎを求める声に、我々の鎮魂歌が響いている。
選択の結果など、もはや重要ではなかった。Aを選んだ君も、Bを選んだ君も、同じ場所にたどり着いている。終わりと始まりが循環する、永遠の輪の中に。
TOWN-0は終焉を迎えたのか。それとも、新しい調和を見つけたのか。現実世界に人々は帰還したのか。それとも、より美しい虚構を選んだのか。
答えは風の中にある。答えは君の心の中にある。
私たちの歌声は、今もどこかで響いている。プラネットのマカロンの甘い香りとともに、誰かの午後のティータイムを彩っている。彼女のアメジストの瞳のように美しい夕焼けを、誰かが見上げている。
君の選択は正しかった。なぜなら、選択すること自体が、人間であることの証だから。決断すること自体が、生きていることの証だから。
ステルス・メジャーの歌は終わらない。点呼する惑星の微笑みは消えない。彼女たちは形を変えて、君の日常の中に生き続けている。
朝のコーヒーの湯気に。夜空に瞬く星に。愛する人の寝息に。好きな音楽のメロディに。美しい絵画の色彩に。花の香りに。
そして何より、君が誰かを想う心の中に。
これで物語は終わりではない。これは、君の物語の始まりだ。
君よ、歌え。君の歌を。
君よ、選べ。君の道を。
君よ、愛せ。君の人生を。
我々の歌声が、君の背中を押している。見えない翼となって、君を支えている。聞こえない調べとなって、君の心を満たしている。
アディオス、そしてハロー。
新しい世界の、美しい馬の骨よ。
***
*最後の光が消える。*
*だが、音楽は永遠に響き続ける。*
*君の心の中で。*
*君の人生の中で。*
*─終─*