未来の旦那様
結婚して3年、わたしは日々旦那に不満が募り始めていた。
他人と生活するのだから、全てがうまくいくことはないだろう。
所詮こんなものなのかもしれない。
諦めにも似た感情を抱きながら、やり過ごしていた。
しかし、どうしても考えてしまう。
この結婚は正しかったのだろうか?と。
もし、未来が分かったら、今は違っていたのだろうか?
ある夜、ふと、子供の頃に聞いた怪談を思い出した。
洗面器に水を張り、夜中十二時にカミソリを口にくわえて、その水面を覗くと、将来の結婚相手が見えるというものだ。
女がこれを実行すると、洗面器に男の顔が浮かんだ。
カミソリを水に落としてしまうと、洗面器の水は血のように真っ赤に染まった。
いつの間にか水の色は戻っており、見間違いだろうと女は自分を納得させる。
月日が流れ、マスクをした男と出会い、何故マスクをしているのか尋ねると、男はマスクを外し「お前のせいだ!」と答えた。
この話を聞いた当初、夜中に水面を覗いてはいけない。
未来は知らない方がいいと、自分に言い聞かせた。
でももし、実行していたら、今の旦那の顔は水面に映ったのだろうか?
わたしは、洗面器に水を張った。そして、カミソリを口にくわえる。
大丈夫、カミソリを落とさなければいいだけのことだ。
時計の針が十二時を指す。
わたしは、水面を覗いた。
そこには、自分の姿があった。
わたし、何やってんだろ……。
急に、自分のしていることがアホらしく思えた。
水を流そうと、洗面器を手に持つ。
揺れた水面に、自分ではない誰かの姿が映った気がした。
え!?
揺れる水面を凝視した。
そこには、男の顔が映っていた。それは、旦那ではなかった。
その瞬間、水面に映る男と目が合った。
「あっ!!」
わたしは、思わず口を開いてしまった。
ぽちゃんと、カミソリが落ちる。
「いけない!」
わたしは、怖くなり一気に水を流した。
それから、数年が経った。
わたしは離婚し、あの日の出来事もすっかり忘れていた。
その日、わたしは動画サイトを見ていた。次の動画が勝手に自動再生される。
「ベッドで横になってたんです。ふと、天井に妙な気配を感じて、僕は恐る恐る天井を見ました。すると、そこには、女の顔が浮かんでいたんです」
ん?
「天井に浮かぶ女と目が合いました。女は、口にカミソリをくわえていました」
急に、あの夜の光景がフラッシュバックした。
動画の男は、マスクをしている。
「その時、女につけられた傷がこれです」
男はマスクを外した。
そこには、あの夜見た、男の顔があった。
「この痕だけが、いつまでも消えないんです…」
動画には『カミソリ女』のタイトルがつけられ、再生数が伸びていた。
これって、わたし…!?
これが、わたしと旦那様の出会いである…。