月夜の薔薇園で口付けて~王女ルルナティアの婚約騒動 大嫌いって言ったよね?~
陛下の片手があがる。ホールに響き出す音色。ダンスタイム、円舞曲が始まった。
私はグラスを取ると、すっとカーテンの後ろにまわり込んだ。
"ふぅ…"
小さな溜め息とともに、そこに用意されていたソファへ身を沈める
"疲れた…"
今夜のパーティーは、第一王女である姉の婚約披露会だ。姉のロイズリーナは隣国の王子に嫁ぐ。2人は王子が我が国のアカデミーに留学していたときの同窓とのことで、隣国といえど、姉は全く知らない所へ行くわけでもない。長期休暇には、ここより南方に位置する隣国へ同窓たちと出掛けていったりしていたし。
羨ましい…正直、そう思う
「ルルナティアも、そろそろね」
昨夜、お父様とお母様から私のお相手探しの話が出た。父の後継は第一王子である兄のロッテルディに決まっている。兄は父の補佐を担い、王政も学んでいる。王妃も娶り仲睦まじく、春には第一子も産まれる予定だ。
そして、姉が友好国の1つである隣国サザンボルへ嫁げば、しばらく我が国は安泰であろうとの当面の見通しなのだろうか、私は割りと自由な選択を許されている。
「…実はな、北の国から、おまえを第一王子にという話はあるんだが…」
「あら、北といえば、ノースホワイトですの?」
「あぁ…だがなぁ…」
そう言って、お父様は眉間に皺をよせた。
「なにか、問題でも?」
お母様がさっと口元に扇を広げ、目を細めた。
"なにそれ?ちゃんとききたい…"
私はお父様のほうに向き直した
はぁ…小さく溜め息をついた
「あれはアカン。王は知り合いだ。そこはいいとして王子がな…」
「と言いますと?」
お母様の眉尻があがる
「ほら、なんだ、最近、市井で流行っておったろ?真実の愛だとか云々…あれにだなぁ…」
「すっかりハマってしまったと?」
「まぁ、そうだな…」
"あぁ~…アレかぁ"
私も実はこっそり芝居小屋へ観に行った。面白いからと学園で話題になって、学友の貴族令嬢たちと行ったのだが、私たちは3人揃って苦虫を噛み潰したような面持ちで芝居小屋を後にした
「…ダメよねぇ…」
帰りの馬車の中、しばらく続いた沈黙の後、ポツリと公爵令嬢のシフォンが呟いた。私たちもコクッと頷いた。私たち貴族令嬢にあんな真似はできない…
「まさかですけど、平民のお相手までいませんわよね?」
お母様が更に突っ込む
"お母様、さすがにそれはないでしょ?"
いくら流行ったとはいえ、あれは夢物語だ
「それがだな…噂によると…」
"ぇえ!?いるの??"
私は驚きが隠せなくて目をまぁるくした。
お母様はそれに気がつき、娘に要らぬことを聞かせまいとお父様の話をピシャリと遮った。
「いけません。そんなところへ、大事な娘を」
「うむ、のらりくらり話をはぐらしてはおったのだが。これより3ヶ月を目処に返事をほしいと言われておる…でないと、塩の関税をあげるときた…」
「まぁ!」
と、まぁ、そんなこんなで、3ヶ月以内に相手を決めないといけなくなってしまった。製塩業は我が国でも成り立ってはいる。しかし、消費量の3割はノースホワイト産であり良品質のものは大概がノースホワイトからの輸入品だ
"そんな、3ヶ月だょ?まず、相手も決まっていないし、普通は出逢ってから正式に婚約するまで順序もあるよね?そして、私は腐っても王女、貴族なら誰でもいいわけでもない"
もっと私情を言うならば、できれば国を出たくない。生まれ育ったこの国が好きだし、姉のように交渉術に長けているわけでもなく一人他国へ渡る勇気がない。
窓の外に見える夜空を見上げた
今宵は満月
「…嫌だなぁ…」
思わず本音が漏れた
「なにが、嫌なんだい?」
ドサッ
誰かが隣に座ってきた?
「ぇっ?」
ここはカーテン裏
会場の光は届けかない
月灯りに照らされて見えたのは若い男性の横顔
ずっと現代恋愛を描いてきました。たまに
は、こういうのもいいかなと、思い付くまま書き始めました。自分でも、これからの展開が楽しみです 笑