キャラクターメイキング
どうも、主人公です。
この度、僕の……僕だけの和室に天使が来ました。
どこかでみたことあるような……ネットサイトに「フリー天使素材」っていう感じでデザインされてそうな、テンプレート天使です。
しかし、その正体は全くテンプレではありませんでした。
少なくとも、僕は親睦を深めるための道具で「バーチャルボーイ」を持ってくる天使を聞いたことがありません。
とにかく、バーチャルボーイでは親睦を深めようもくそもないので、部屋にしまっていた初代プレステを取り出してきました。二人で遊べる、『ぷよぷよ通』を添えて……。
「なんか、古くない?」
「君……バーチャルボーイとかいうマイナーレトロクソハード持ってきておいて、よく言うね」
*****
というわけで、今、プレステのまだアナログスティックが付いていない懐かしのコントローラーの十字キーをカチャカチャ押しながら、多少真剣にぷよを積んでいる天界人二人がここにできました。
積みながら、会話をします。
「そういえば、私が来るまでに何か創っていたんですか?」
「いろいろ試したよ。一個世界創っちゃった」
「そうですか」
「一個世界を創った」と言葉にしてみれば、かなり壮大なことを彼女はそれは清々しく、スルーしてしまいました。
その瞬間、連鎖の音だけが、この空間に響きます。
“いてっ!やったなー!げげげぇ!大打撃!”
僕のスペースに大量のおじゃまぷよが落ちてきました。
おかしいな……おれ、前世ではぷよぷよ無敗だったのに。
僕は前傾姿勢になりながら、ぎらぎらと照らす、ブラウン管テレビに近づきました。
「ちょっとー目を痛めますよー」
「もう、死んでるんだ良いじゃないか……それにこの後、僕、体を替えるわけだし」
「体を替える?」
天使のぷよの落下速度が自然のスピードまで落ちました。
一体どうしたのでしょうか。
「ねぇ、貴方、自分の体を替えるってどういうことですか?」
「そのまんま。自分の体を創りなおすんだよ、あの神様、女の子の体がいいって言ったのに、デフォルトのまま放置しやがって……」
そう言いながら、僕は連鎖を完成させました。
“えい!ファイヤー!アイスストーム!ダイヤキュート!ブレインダムド!じゅげむ!ばよえ~ん!”
そして、天使のスペースに大量のおじゃまぷよが降り注ぎます。
「あ……ばたんきゅー」
僕たち、なにやってんだろ。
*****
ぷよぷよをしている場合ではありません!
「とにかく、僕は僕を創るぞ!」
というわけで、自分のキャラクターメイクです!性別は勿論女の子です!
「ところで天使、僕が創ったこの身体って生殖機能は働くのか?」
「人間を創ろうとすれば、自然に生殖機能は働くはずですよ」
「ちなみに、僕はいま自分の身体を女の子にしようとしているのだが、その際の僕の性的思考の変化は?例えば、この身体に僕が入った途端、僕の性思考が男性愛者になるとか……まず、僕はこの娘の中に入れるのか」
「さっきまでしていたように、いろいろ試せばいいじゃないですか」
「そうだな」
とりあえず、やってみるのが吉だと思うことにしました。
まずはその試す対象である身体を創ってしまわなければ、何にもなりません。色々、思考の中で粘土をこねるかのように、造形をイメージしてみます。
髪の毛、輪郭、目、足、おっぱい。
自分のなりたい女の子を脳内に思い浮かばせます。
そして……できました!
ちなみに、まだ服は着せていません。これはそういう趣味というわけではなく、製作における都合です。あとで着せます。
「なんか……VTuberみたいなものができましたね。創造神様……」
天使はちょっと引いています。
というか……。
「創造神って呼び方……」
「あ、はい、貴方のさっきまで創っていたものを拝見させていただいて、これこそ創造神と呼ぶに足るなと思い、そうよばさせていただくことにしました!」
「覗けるの⁉」
「ハイ、まず、この部屋に入れるということは管理者権限までは持っていなくとも、創造物の閲覧権くらいはあるものなんですよ」
「そうだったのか……」
あぶね……。
この後、普通に性処理用の女の子を創ろうと思っていたところでした。
「と……とりあえず、我、創造神!この女の子に乗り移るぞ!」
「ハイ!頑張ってください!」
というわけで、僕はその全裸人形の前に立ってみました。
しかし、コレ……ほんとにどないすりゃいいんじゃ……。
とりあえず、適当に念でも送ってみます。何にもなりません。
握手してみます。何にもなりません。
殴ってみます。何にもなりません。
おっぱいを揉んでみます。
帽子をかぶせてみます。
真ん前でオナニーしてみます。
精子をかけてみます。
シャーマンスープレックスしてみます。
背負い投げしてみます。
服を着せてみます。
───結果、何にもなりません。
「うわああああああああああああああああああああああああああああ」
何にもなりません!くじけそうです!
クソ!あの神が身体でさえ何とかしてくれたら!俺が望んでたのは正直異世界転生じゃねーよ!女の子になることだよ!
僕は悔しくて、泣きながら、うずくまり、畳を殴りつけました。
「なんで、私はこんな変な人を創造神なんかで呼んだんだろう……」
「数行前の自分を一話も経たないうちに後悔しないで⁉」
*****
「それにしても、どうすればいいんだろう……」
僕はそう呟きながら、動かない体の額にふと、手を当ててみました。
すると、僕の意識は一瞬だけ、プツンと切れてしまいました。
───次に目が覚めると、目の前には僕を揺さぶって、「創造神様!創造神様!」と呼びかける天使の姿がありました。
……?「僕の姿」?
僕は自分の手を見つめます。
その手は以前までの男っぽい、汚くて、イカ臭い手ではなく、白く、柔らかい手でした。
胸も見てみます。そこにはかたい大胸筋ではなく、柔らかい乳房がありました。
股間も見てみます。そこに急所はありませんでしか。
「創造神様!創造神様!」
そう呼び掛ける天使に一言、声を掛けます。
「天使……僕は、ここにいる」
僕は無事、この娘に乗り移ることができたようです。
*****
「なるほど、額に手を当てて、魔力を移動先の抜け殻に注ぐことで、その抜け殻に意識を持っていけると……そして、元居た身体が逆に抜け殻になると……これは僕だけの力かな?」
「少なくとも、私にはできないですねぇ……」
「……なるほど」
僕は今起きたことをしっかりとメモに残しました。自分の能力についてメモすることは、自分の能力を制御するうえで、最も重要です。いかんせん、僕の能力はかなり複雑ですし。
ちなみに逆の「クリエイト女ボディ→オリジナル男ボディ」のパターンも試してみました。そして、成功しました。これは可逆性も含むみたいです。
「ちなみに性思考についてはどうなっているんだろか」
そう感じた僕は早速試すことにしました。
「天使」
「どうしました?」
「ここで脱いでくれ」
「へぇ……」
天使は静かに微笑みました。
後ろを向き、取り出したのは天界製高級マスケット銃。
「もう一回死にたい?」
「やめときます」
とりあえず、今はまぁ、試さなくてもいいでしょう。
とにかく、これで僕の準備は万端となったというわけです。