伍:人が狐をだました話
これもまたいつ頃でしたでしょうか。とても見目好い若者がおりまして。今でいうところの美青年、ハンサム、まあそういう者ですね。性根は……言わぬが花かと。貧乏な村のちょいと恵まれた若者なんてそういうもの、とはひがみでございましょうかね。
さてある日の事、この青年のところに遣いがやってまいりました。
何処の誰からの遣いか、でございますか?
それがね、高貴な身なりはしているのですが、どちらのどういう御方の遣いなのかわかりませんので。ええ、なにやら難しいことは言いますし、変わった仕草はいたしますしで、「これは只人ならぬ」と思わせるだけは思わせるのですが。
さてこの遣いが青年に語るには、遣いの主人の娘御が青年を見染めたというのですね。嫁ぎたいと。嫁入りしたいと。そう申すのです。
どうにも胡散臭いぞ、と青年が考えたのも当然でありましょう。前にも申しましたが、この辺りには昔から人を騙す狐がおりましたので。ところが遣いの者がこう言います。
「確かに胡乱にも思われましょう。されど御嬢様の貴殿を想う御心は確かなれば、その証としてこちらの品をあらためていただきたく存じます」
ぞろりと引き出されましたるは金銀財宝、絹に錦にと目を見張るほどの一財産。青年もついに心動かされまして、この怪しげな婚礼を受け入れたのです。
この嫁入りは大層派手なもので。青年がかき集めた犬や鉄砲がうなりを上げ、阿鼻叫喚の様だったとか。嫁の一族は尻尾を出して逃げ出し、引き出物の数々が散らばっていたと。
青年はこの財を拾い集め、この辺一帯を統べるようになったと言いますが。誰ぞを騙して手に入れた富などろくな結果には、いえこれは貧乏人のひがみでしょうかね。




