拾:花婿が花嫁を案じる話
はてさてすっかり話し込んじまいましたね。外の嫁入り行列も、とっくに通り過ぎちまいました。いやもう影も形もありません。どこへ行っちまったものやらねえ。
おやどうしました。なにか気になりますか。
駄目ですよ。さきほども申しましたが、まだ花嫁の準備はできちゃ……。
ははあ。
さては怖くなりましたか。
狐に花嫁がさらわれたんじゃないかと? さきほどの行列は、自分の妻を連れ去っていったのではないかと?
いいえそれとも花嫁が狐と入れ替わってるんじゃないかと? 今から自分が契りをかわすのは、じつは恋しい人に化けた畜生なのではないかと?
いやいやそれどころか自分が今日まで愛してきたのはそもそも人間だったのかと? 出会い過ごしてきた日々も化生にたぶらかされていたのではと?
さあどうでしょうか。
扉の向こうに誰か居るのか居ないのか。居るとしてそれは花嫁なのか。花嫁だったとしても人か狐か。
さてどうでしょうか。わかりませぬね。おそろしいですね。
ああいっそ逃げてしまいましょうか。目も耳もふさいで野に駆けてしまいましょうか。
なあに怖くなどありませんよ。わたくしめがついておりますとも。
しっかり目を閉じて、握った手を離してはなりませんよ。さあほら尻尾につかまって。
ふふふ。