壱:花婿が花嫁を待つ話
やあやあ、これは御立派な。馬子にも衣裳と言いますが、中身が伴わねばなかなかどうして、人間と言うものは服に着られてしまうものですからね。
うん、これは本当にたいした花婿さんだ。衣装も中身もしっかりしてないと、ここまでしゃんとしては見えぬもんですよ。
ははは、どうしました、このくらいで恥ずかしがってちゃあ、式の間に顔から火が出ちまいますよ。
おっとなるほど、そちらが気になりますか。
いえ、もうしばらくお待ちください。花嫁の準備はまだできておりません。女というものは殿方より支度に時間がかかると、相場が決まっております。
そちらへ腰かけてしばらく楽になさい。暇つぶしの話し相手くらいならば、わたしにも務まりましょうから。
しかし先ほどからどうも窓の外が騒がしい。ちょいと失礼して……。
こりゃ驚いた。
花嫁行列ですよ。今時箪笥や長持ちの嫁入り道具まで運んで、まあ仰々しいこと。
はてな、このあたりであなた様方以外に婚礼なぞあったでしょうか。花嫁はまだよく見えませんが、荷運びの顔には見覚えがあるようなないような。
こりゃ狐の嫁入りかもしれませんね。
ああ、御存知ありませんでしたか。この辺一帯は昔から狐が多いのでして。そういう話も多いのですよ。
ようござんす。ご伴侶の支度を待つ間、ちょいと語らせてもらいましょうか。