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惨面  作者: 死苔妖斎
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 去年の夏のことでした。

 腐れ縁の半魚人から「相談したいことがある」とメッセージが届いたので、都合をつけて近所の喫茶店で会う約束をしました。彼は大学時代の先輩で、よく一緒にバイク旅をしていた仲でした。


 相談したいこと。なんとも重苦しい響きです。一体どんな相談をされるのか、気になって夜は24℃の冷房をつけないと眠れませんでした。


 そして、半魚人と会う日が来ました。店名は伏せますが、うちの近所にある喫茶店です。私は紅茶とシロノワール、半魚人は水を注文しました。


 私は水だけ注文した半魚人に違和感を覚えました。水だけ。水だけ⋯⋯もしかしたら、お金がないのかもしれません。


 呼び出されてノコノコやって来てしまいましたが、よく考えたら卒業してから4年も会っていなかった友人が「相談したい」なんてお金関係に決まっています。現に半魚人は何も頼みませんでしたし、そうに違いありません。


 さて、困りました。私も今は火の車なのです。もう適当に理由をつけて帰ってしまいましょうか⋯⋯。


 そんなことを考えていると、半魚人が口を開きました。私の予想に反し、その内容はお金に関することではありませんでした。


「最近、おかしな夢を見るんだ」


 彼の話によると、その夢の中で彼はいつも実家の和室に立っていて、目の前の畳を髪の長い女性が舐めているのをずっと眺めているのだそうです。暗くてよく見えないらしいのですが、恐らくその女性は全裸で、背中には大きな火傷の痕があるのだといいます。


「今朝でもう12回になる。12夜連続でこの気味の悪い夢を見てるんだ。もうおかしくなっちまうよ」


 連続で同じ夢を見るということもあるにはあるのでしょうが、さすがに12日連続というのは偶然で片付ける訳にはいきません。何か原因があるはずです。


「12日前に肝試しとかしました?」


「よくぞ聞いてくれた! 行ったよ! 行った! 超行った! 山奥の廃神社!」


 なんだこいつ。原因が分かっているのに私にわざわざ相談をするなんて、新手の嫌がらせでしょうか。


「じゃあそれが原因なんじゃないですか? はい閉廷」


「ちょっと待ってくれ。原因は十中八九それなんだが、これからどうすればいいかっていう相談をだな」


「いやなんで僕なんですか。僕はただのユーチューバーですよ?」


「お前は昔から変なやつだった。変なやつは怪異に強い。ホラー回のしんちゃんのように心強いんだ」


 私、しんのすけだと思われてたんだ。


「心強いって、何かに同行させる気ですか?」


「ああ、出来ればその廃神社に一緒に行ってほしいんだ」


「いやいや、それよりお祓いしてもらいましょうよ」


「うーん、でも⋯⋯」


 なんでそんなに行きたいんだ。怖くないのか。なんなんだこいつは。なんでお前みたいなくっさい奴と山に入らにゃならんのだ。


 心の中で悪態をつきながら、なんとか半魚人を説得しました。来週1人でお祓いに行ってもらうことになりました。


「そういえば」


 相談とは別件だと前置いて、半魚人が話し始めました。


「お前ら学生時代、陰で俺のこと半魚人って呼んでたらしいな」


「いや、僕は言ってませんでしたよ。あいつらだけです。僕は先輩を尊敬してましたから」


「今は尊敬してないみたいな言い方だな」


 そりゃずっと会ってなかったから。なんなら忘れてたよ。


「今もしてますよ」


 ちょうどシロノワールを食べ終わったので、半魚人に「トイレ行ってきます」と伝えて店を出ました。相談に乗ってやったのですからお茶代くらいあいつに払わせればいいのです。


 帰り道、私は考えました。

 肝試しに行っただけで悪夢を見るようになる山奥の廃神社。悪夢の内容は暗い部屋で畳を舐め続ける髪の長い女。こんなの、撮れ高の塊ではないか。そう思ったのです。私もユーチューバーの端くれですからね。


 その日の夜、半魚人からメールが届きました。


『次会ったらギッタギタだかんな』


 ジャイアンみたいな怒り方をしています。私が代金を払わずに無断で帰ったのが気に入らなかったのでしょうか。まったく、しんちゃんになったりのび太くんになったり、私も忙しいもんです。とりあえずもう直接会うのはやめておきましょう。ギッタギタにされたくないので。

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