五章 入学式
四章の続きです。
感想いただけると幸いです。
三日後、新入生は学校の大講堂に集められていた。
帝国暦四月、今日が入学式当日であるからだ。
毎年定員が四百人、それに対し受験希望者は大陸全体と一部他国から集まる。
俺は試験のシステムの全てを把握できてはいないが、確か推薦の枠が十個用意されており残りの三百九十個の席を掛けて試験を行うと聞いたことがある。
エレナから聞いた話によると、一次が実技試験、二次が筆記試験で行われる。
毎年三千を超える受験者を一次試験で三分の一以下に減らし、二次試験で得点の高い者から合格を貰える。
しかし、四百の定数に収まらない場合は点数の低いものを集め特別試験を行うらしい。
この特別試験ってやつを受けた人間から話を聞いたことがないので、その内容は不明瞭である。
その試験から見事合格を勝ち取った生徒達が集結している。
全ての生徒が文武を兼ね備えた優秀なものであり、実力は未だ未知数である。
「これより、第一回カロン時間学校入学式を執り行います。初めに、新入生代表より入学の誓いの言葉を。前へ」
「はい」
代表として出ていった女子生徒は淡々と式辞の言葉を並べた。
良くも悪くも実績、結果が評価の大半を占める学風のため、身分の高さで代表を決めることはなく試験での評価が選考基準であろう。
だが残念なことにほとんどの生徒が彼女の言葉を聞いていないだろう。
午前八時である現在、殆どの生徒は未だ夢の世界に片足が浸かった状態で、かろうじて立っている状態だ。
俺は眠いのもあるが、あの四百段階段を登った疲労が響いている。
体力強化は今後の課題である。
――パチパチパチパチパチパチ
気がつけば彼女の出番は終わっており、意識がしっかりしている生徒達の拍手に合わせて俺も便乗した。
式の開始時間は異常だったが、全体を通した時間は大して長くない。
あとは学園長の話を聞けばオリエンテーションで終わりである。
既に俺は寮のベッドが恋しくなっていた。
ケニー達との食事したあの日から、気が向いた時に飯を食い、本を読んだり体を動かすなどを繰り返していた。
色々制限が鬱陶しかった王国にいた頃と違い自由になった反動で起床時間がやや遅くなってしまったため、朝起きることがかなりしんどい。
「では次に、学園長グレイマン・ダ・ヴィートより新入生歓迎のお言葉をいただきます。学園長、前へ」
コッ、コッ
一歩、二歩と階段を上がっていく学園長は後ろから差し込む日差しの所為か、上品……というよりはなにかもっと違う……一言で表すとするなら神秘的であった。
「戦士の卵たちよ、おはよう。私から君たちに求めることは一つ、守れる戦士になりなさい。武勇を持って場を諌めるか、知性を持って相手を納得させる。戦い方は千差万別だが、まずは助けられるだけの力を身につけて欲しい。一人の人間が全てを救済できるとは思わない。でも、一人一人が人を救う……そんな世界が来た時本当の平和というものが訪れると僕は考えている。以上、強くなってくれ生徒諸君」
その言葉だけを残し、グレイマンは一瞬で式から姿を消した。
物理的に速い、という感想だけが俺の頭の中に残った。
「以上で入学式を終了いたします。続いて、本学における教育方針ですが……教師代表のディーク先生が未だお見えになりません…。ですので、私の方から」
「おはよーございます」
表れたのは一人の男、おそらく今話されていたディークという教師であろう。
無造作に生やした髭、伸びきった髪が彼のだらしさを象徴していた。
「あれルーナちゃん久しぶり。相変わらず変わんないね…ぶっっ!!??」
進行役の女性は男の顔を鷲掴みにした。
「早く始めろ」
「はい」
そして男は紙束を取り出し最前列の生徒に渡していった。
「えーっとですね、それを見ればうちの仕組みは完璧に分かるんで。生徒諸君頑張ってね。分からないことあったらルーナちゃんによろしく。それじゃバイバイ!」
その言葉を残し、男は全速力で会場を去った。
総合時間約三十分、入学式及びオリエンテーションは終了した。