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二章 友との再会


マルチス大陸の北部分に位置するべリア王国、俺の生まれ育ったキーガン領はその最南端に位置する。

キーガン領北東部に位置する俺の家から馬車を出し、ほぼ一日かけようやくここにたどり着いた。

マルチス大陸中央から南にかけてその広大な土地を支配するル―リグス帝国、帝都セイラムを中心に発展した街を成すウィンタス領の西部にその巨大な学校は(そび)え立っていた。

カロン士官学校、帝国歴九四三年に設立された帝国立の士官学校である。

ベリア王国、ビーラス帝国出身の生徒に加え、他国からの生徒も多く在籍しており、異なる文化が混同している校風が大きな特徴である。

皇宮アルム・ビグザの大きさにも劣ることのないその校舎は、数十の教室や多種の施設で組織されており、ここでの六年の学びを終えた者の多くが、騎士や国政に携わる仕事などに就く。

この学校の卒業は「英雄の証明」、などと呼ぶこともあり事実ここを卒業した農民が小貴族になったという例もある。

それまではそっぽを向いていた貴族は全員そろって顔色を変え、各々の子らに学びの場を与えようとした。

当然だ、自分より地位の低いものが自分たちの上に立とうとするなどプライドの高さで存在しているような貴族に耐えられるはずがない。

その結果、身分問わず入学希望が殺到し、帝国歴一一五六年現在、一学年につき約四百人が在籍する学校となった。

長い説明になってしまったが、要は名の通った学校だということである。


それはさておき、今の俺は目新しい物の数々に圧倒されていた。

王国とは段違いの規模を誇る街の規模、文明都市ラジックから生まれたであろう魔道具の数々が、それまで俺の中で構築されていた世界を塗り替えられていく。

知識欲が満たされる、というか溢れだしそうだ。

やはりここに来たことは英断だったと自分の決断力を誇りたい。

親父は俺の入学を異様なまでに阻止しようとしていたが、そんな目論見はこの俺の行動力を前に無意味であった。

今こうしてカロン士官学校の目の前に立ったことが、親父への勝利宣言と同義であるといえよう。


「エレナ起きろー学校だ」

「ん……?…え、私なぜここに!?」

「一日中俺の護衛をやってたんだ、休憩ぐらいさせないと流石に見てらんねぇよ。昨日のあの賊も本来なら不意打ちが決まってた時点で殺せていたんだから」

「そうですか…申し訳ございません」

「それは寝たことに対してか?それとも仕留められなかったことに対してか?」

「両方です、あなたの懐刀(ふところごたな)としての役割を果たせなかった…」

「いいか?お前は従者である前に友達であって仲間だ。お前なりに責任感はあるのは分かるけど深く考えないでくれ、な?」 

「…ですが…はい、努力します…」

「それより、三日後には同じ制服に袖を通して学校に行くんだ。もっと自然に話したいんだが…」

「そちらも努力しま……する」


こりゃまだ時間がかかりそうだ。

まずは自分たちの部屋に荷物を置くために、学生寮に向かうことにした。


校門前から歩いて三十分ほどで帝都北区の学生居住区に着いた。

学生寮は帝都内に散在しており、一から二十番寮は北、二十一から四十番寮は南、四十一から六十番寮は東、六十一から八十番寮は西の学生居住区にある。

一つの寮につき最大三十人の生徒が暮らす寮は全部で八十棟あり、俺は二番寮の十八号室に振り分けられた。

基本的に一階二階が男性部屋、三階が女性部屋となっている。

士官学校である関係上、女生徒の数は多くないのだ。


「ところでエレナは何番寮なんだ?」

「二番なのでカミュさ…カミュ……君と一緒だね…」

「ぎこちないな、やっぱしばらくは楽な感じで話してくれ」

「わ、分かりましたカミュ様」

「我が儘で申し訳ない…」


その後、数秒話のネタがなくなり沈黙が始まった。

何とかこの気まずい空気を壊そうと考えていると、会話の中で違和感があったことに気づいた。


「てかお前何で俺の寮の番号知ってたんだ?教えてなかったはずだけど」

「従者は事前に申請すれば(あるじ)と同じ寮に組み込まれるようになってるんですよ。同性なら近い部屋になるのですが、私は女ですので三階になりますね」

「あーそんなのあったな、学校からの伝書でそんなことが書いてあった。…そんなの気にしなくてもいいのにさ」

「良いわけありませんよ!同室にするよう直談判もしたのですが男女間のトラブル回避に徹底するといわれて…万が一の時に数秒の遅れがあっては何が起こるかも分からないのに!」

「…!お前まさか先週数日姿を見なかったと思ったらそんなことしてたのか!?」

「はい。学園長のもとに行きました。」


………


言葉を失った。

真面目な奴だとは思っていたが、ここまでくると狂気じみていると感じたのが素直な感想である。

尊敬に限りなく近い恐怖を感じながら、言葉を選んだ。


「お前の首が繋がっててよかったよ、本当に」


そんなこんなで話している内に二番寮を見つけた。

中に入ると、寮長と思われる女性がこちらに笑顔で話しかけてきた。


「初めまして、寮長のシャロです。入寮される方ですか?」

「はい。カミュ・キーガンとエレナです。」

「ちょっと待ってくださいね…カミュカミュカミュ…ありました!エレナ様も確認できました。こちらお部屋の鍵ですので、移動していただいて大丈夫です!」

「よろしくお願いします」


その後、俺たちは二階へと上がっていった。


俺の部屋である十八号室は二階にあるため、そこで一度別れることにした。


「荷物置いたら外で集合しよう」

「分かりました。それではまた」


…さて、と。


一階の傾向的に数字の小さい順から左にあるから、俺の部屋おそらくこの辺に…

あった。

18と書かれた扉のドアノブに手を掛けようとした瞬間、隣の部屋の扉が開いた。

見覚えのあるその男は、しばらく俺をじっと見つめた。


「……あ、もしかして王子ですか!?」

「ケニーか!」

「久しぶりっすねぇ、二年ぶりくらいじゃないですか!大きくなりましたね!」

「子ども扱いすんなよ、お前だってだいぶ背伸びたじゃないか」

「この二年親父に言われたバラン領の件とかで忙しくて…そのおかげで睡眠時間は増えましたね疲労が主な原因ですけど。『寝る子は育つ』ってアサヒの言葉があるじゃないですか」

「相変わらずお前はあっちの文化が好きだな。それにしても本当にガザエルは厳しいな」

「そうなんですよ、ダースロッドの跡継ぎなら強くあれとか言いやがって。おかげでプライベート皆無でしたよ」


そんな近況報告みたいなことを俺たちは愉しげに話し合った。

ケニーは、俺より二歳年上で幼いころはよく隣のダースロッド領から遊びに来てくれていた友人である。

学問武術においては俺の先輩的な存在であり、礼儀作法もケニーの立ち振る舞いを参考にしていた。

いうならば頼れる兄貴分といったところである。

一つの例外を除いては。


「ところで王子、ここ来てすぐってことは手持ちの方はまだ結構…」

「…はぁ、大体わかった用件だけ言え」

「すんませんお金貸してください!!!」


彼は金癖が異常に悪いのだ。

人前では活躍を見せるので、王国なら多少の愚行は大目に見られていたが、友人としてはそれを見過ごすわけにいかなかった。


「因みに、なんでそんなに金がない?」

「…こっちに来て出来た友達と娯楽の街(ディヴィサリア)に行ったんですよ。カジノなんて行くつもりなかったんすけど、酒入った勢いでやっちゃいましたね」

「やっちゃいましたじゃないぜまったく…」


こういうところも昔から変わらない。良くも悪くも昔のままである。

今にも泣きだしそうな顔でケニーは俺にこれでもかと縋ってきた。


「お願いします王子ィ!!本っ当に何でもしますんで!!アルファードもミーシャも薄情で全く助けようとしてくれないんすよ!!!」

「二人も来てるのか?この学校に」

「そうっすよ、あの二人も今年からこの学校に入ることになってる筈です。そんなことよりもマジで助けてくださいこんなことバレたら母上にどんな仕打ちに遭わされるか…」

「とりあえず外に出よう、連れを待たせているからな。話はそれからでもいいか?」

「ってことは前向きに検討してくれる感じっすかね?」

「さぁな。ちょっとだけ待っててくれ手荷物だけ置いてくるから」

「そんなぁ…」


崩れ落ちたケニーを無視して、俺は自分の部屋の鍵を外し、ドアノブを回した。

部屋は思ったより広かった。

ラズベリー色のカーペットに白い壁、学習机にベッドやクローゼット。

最低限の家具一式にベランダがついている一室であった。

王都にいた頃の部屋に比べたら当然小さいが、あれは広すぎて物を取るためにわざわざ移動しなければいけなかった。

必要なものは本ぐらいしかないから、この広さがちょうどいい。

クローゼットには前もって送っておいた私服が既に掛けてあることを確認して、手荷物をベッドにおいてケニーと合流した。


「そういえば王子、連れって誰のことです?」

「ん?友達だよ、従者だけど」

「え、王子そういうの持たないと思ってたんで意外っすね。いつからですか?」

「一年位前からだ。とりあえず行くぞ」


話を区切り俺たちは早歩きで階段を下り、エレナのもとに向かった。


寮を出てすぐの場所にエレナは立っていた。

すぐこちらに気づき走りだそうとしたが、ケニーを確認するとすぐに踏みとどまった。


「すまんエレナ、待たせた」

「問題ありません。そちらの方は?」

「どうも、ケニー・ダースロッドです。カミュとは子供のころからの友人で」

「そうでしたか、私はエレナと申します。」

「下の名前は…」

「両親は幼いころからいなかったので、下の名前は分からないのです。申し訳ありません」

「そうなのか、気に障ってしまったならすまない」

「いえ、お気になさらず」


若干重い空気になってしまったため、ケニーは話題を切り替えた。


「そうだ、お昼まだでしたら一緒にどうです?ここの居住区の食堂は美味いって学生の間で評判なんですよ」

「せっかくだしアルファードとミーシャも誘おう。エレナもそれでいいよな?」

「はい、喜んで」


そう言ってエレナは少し微笑んだ。

よく考えたら、俺の友人を紹介するのは今回が初めてだ。

緊張でも武者震いでもないが、なぜか体全身に力が入った。

それを悟られない様に、俺はなんとか会話を続けた。


「二人の寮番号は?」

「アルファードが十六で、ミーシャが十三っすね。行きましょう」


まずは十三番寮のミーシャを迎えに行こうと、歩き始めようとした。

が、その必要はなくなった。

なぜなら、俺たちの後ろから聞き覚えのある声がしたからだ。


「もしかして…カミュ王子ですか?」

「ミーシャ、久しぶりだな!」


そう言い交わすと、俺は彼女に近寄った。

が、何故かそれは避けられた。


「どうした?」

「あ、その…」


ケニーが少し悩みながら説明した。


「…あーそいつですね、この歳になってようやく女性としての自覚が生まれたっていうか。要するに超遅めの思春期っす」

「う、うるさいわねケニー!余計なこと言わないでちょうだい!」

「いやいや説明は必要だろ。配慮してやってくださいね?王子」


俺は笑いながら、首を縦に振った。

真っ赤に染まったミーシャの顔を見て、ケニーは手を緩めるのではなく追い打ちをかけ始めた。


「俺は嬉しいぜミーシャ。同年代の友達が大きく成長するというのは」

「ケニー?私もあんたの恥ずかしい男女関係の話があるのだけど」

「へ、へぇ。俺にそんなものはないけどなぁ」

「バラン遠征初日…」

「あーあー聞こえねーなぁ!!!」


ミーシャをからかうような口調で俺は話し出した。


「よく見たらちゃんと化粧もしてるしな。昔は俺たちと外でやんちゃしてたのが一人のレディになって俺は感動したよ」

「王子まで…」

「あんなやんちゃだったミーシャがこんだけお淑やかになるなんて想像できないですよね?王子」

「ケニー、バラすわよ?」

「す、すまん…」

「まーそれはいつか聞くとして、だ」

「いや王子そればっかりはご勘弁を!!」

からかったままでは申し訳ないので、素直な気持ちを彼女に伝えた。

「綺麗になったな、本当に」


急に褒められて照れたのか、彼女の顔は更に赤くなった。

目を逸らしながら、ミーシャは言葉を捻り出した。


「それは…嬉しいです…ありがとうございます」


黙ってやり取りの一部始終を見ていたエレナが、ケニーに問いかけた。


「彼らは恋仲なのでしょうか?」

「んー近からず遠からずだな」

「ちげーよ友達だ。な?」

「そ、そうですよ。それは誤解です」


エレナに訝しげに見られている気がするが、少なくとも俺は本当のことを言ったつもりだから(やま)しい気持ちは無い。

ミーシャはエレナの方に目線をやると、慌てて自己紹介をした。


「遅れてすいません!ミーシャ・グリードレッドです」

「エレナです。よろしくお願いします、ミーシャ様」


二人は軽く会釈を交し、そこにケニーが割って入った。


「聞いて驚けミーシャ、この人は王子の従者だ!」

「あ、そうなの」

「反応薄!?」

「寧ろ今までいない方が不自然だったのよ」

「そんなこと言ったら俺らだって従者つけてないだろ」

「その方が自由でいいじゃない?ただでさえ不自由な身分なのに」

「まあたしかに」


このまま雑談に花を咲かせても良かったが、昼飯に誘おうとしていたことを思い出し、ミーシャを昼食に誘った。

彼女もちょうど昼食を摂ろうとしていたところだったので、一緒に行くということで話が固まった。

次の目的であるアルファードの元へ向かおうとケニーが話を戻す。


「アルファードは十六番寮だからそこだな」


十六番寮に向かおうとした矢先、ミーシャがその足を止めた。


「アルファードはこの時間寮に居ないわよ」

「え、そうなの。どこにいるか分かるか?」

「いつも通りなら学校の訓練場ね」

「なるほどな、じゃあそっちでご飯食べます?学校周辺には美味いレストランも結構ありますし」

「賛成。エレナは?」

「私はカミュ様にお供しますので」

「そうじゃなくて、レストランに行きたいのか?お前の意志的には」

「…カミュ様が行くのであれば是非」

「いやいや…まぁいい。行こう」


彼女の善意はありがたいけど複雑だ。

暗いことを考え出しそうだったが、一度それをやめて歩き出した。


「てかケニー、お前金足りんのか?」

「もちろん!ミーシャが助けてくれるんで」

「却下」

「なぬ!?」


だらしないやつだけど、今だけはこいつの明るさに感謝しよう。


北の学生寮から歩いてしばらくして、校門が見えてきた。

北の学生寮からはそこそこの距離があるが、街中を見るだけで目新しいものしかないこの空間は愉悦という一言に尽きた。

そんな俺の昂りはすぐに引っ込んだ。

目の前に待ち構えている巨大な石造りの階段が俺を正気に戻したからだ。


「…これを登るのか」

「そうっすよ、王子。これからはほぼ毎日この階段登ってきます」

「冗談じゃない、軽く百段はあるぞ」


開いた口が塞がらなかった。


――バンッッッッッ!


足が止まっていた俺にミーシャが喝を入れた。


(つう)ッッッッ!?」

「止まっていては進めませんよ?王子」

「ハァハァ…大人しくなったかと思ったら変わってねぇじゃねぇか…」

「このメンバーなら素でいても構わないので」

「ハハッ…それは…よかった」


ジンジンする背中を片手で抑えながら、階段の一段目に足を乗せた。


ようやく四百段の階段を登りきった。

息が切れて今にも倒れそうな俺に比べて、ほかの三人はほとんど息を切らしていなかった。


「な、なんで…ウェ…お前らは…そんなに元気なんだよ…ハァ」

「言ったでしょ?この2年体動かしてばっかだったんすよ。嫌でも体力つきますって」

「カミュ様は少し運動をすべきです。部屋で本でいても戦闘能力は変わらないので」

「ハァハァァ…そ、そうだな…流石にこれに毎日やられてたらキリがない…」


何とか呼吸を整えて汗を拭う。

重い頭をあげると、広大な校舎が俺の目に広がっていた。

馬やドラゴンの厩舎、訓練場、遠くにはドラゴンに騎乗している者もいる。

きっとこれらに限らず、それ以上の数の施設がここには存在するのだろう。

階段を登った疲労を忘れ、俺の心は再び知識欲で支配された。

そんな情報の数々に圧倒されているうちにケニーたちを待たせていることに気づいたので、アルファードの所へ向かうことにした。

俺より一歳年下でどんなところにも着いて来ていたアルファード、俺に会ったらきっと喜ぶだろうな…


――キィン!!!!!


それは金属同士が衝突しあった音、訓練場で誰かが模擬試合をしているのだろうか。

だがその音は異質であった。


キンキキキンキィン!!!!!


短い間で三発目、四発目の衝突音が聞こえる。

常人離れした速さで剣を振っているか、複数人で打ち合いをしているのか。

答えは前者だ。

振り向いた時には、既に相手を打ち負かしているアルファード・バランの姿がそこにあった。


訓練場に入り、俺たちはアルファードに話しかけようとした。

が、先ほど対戦していた相手と何か言い争っていたようだ。


「お、お前何をした!?神素(ギフト)の使用は禁止していたはずだ!!」

「だから使っていないと言っているだろう。自分の実力不足を俺のせいにするな」

「あんな速さで剣が振れるわけないだろ!」

「そんなに言うならもう一回勝負してやろうか。神素(ギフト)の使用不可、木剣から真剣に変更、次は何をしたい?そこにいる俺が既に倒した奴らと組んで三人がかりでもいい。まあ雑魚が集まったところで話にならんが」


その言葉に反応した一人が怒りで震え始めた。


「調子に乗んなよクソガキがァァァ!!」

「そこまで!!!!!」


いち早く割って入ったのはケニーだった。


「それ以上の戦闘継続は学校側に報告させてもらう、全員剣を置け」

「ケニー手出しをするな、俺はまだ満足していない」

「アルファード落ち着け、相手を挑発するような発言をするな」

「チッ」


アルファードの対戦相手たちも不満気な表情をしているが、学校からの処罰を避けるためかおとなしくしていた。

こいつらを解散させて終わりだと思っていたその時だった。

眼鏡を掛けた小柄な男子生徒が、その場に参戦した。


「いいじゃないですか、続けさせれば」

「レギノ様!」

「…どなたか存じ上げませんがここはお引き取りください。こちらも穏便に済ましたいので」

「レギノ・ダ・グレナ、ル―リグス帝国ピスケス領出身の貴族です。分かれば邪魔しないでください」

「ベリア王国ダースロッド領のケニー・ダースロッドです。お引き取りを」

「…王国六大貴族様でしたか、申し訳ありません。ですが彼らはまだ満足していないようですよ?」

「悪ノリはやめてくださいグレーナ殿。あなたも報告することになってしまいます」

「…皆さん、今日のところは終わりです。戻りましょう」


そう言った彼についていくように、アルファードの対戦相手だった生徒たちは戻っていった。

いざこざも解決したところで俺はアルファードに話しかけた。


「アルファード、久しぶり」

「…カミュか」

「ちょっとアルファード!!王子を呼び捨てなんて…」

「いいよミーシャ、むしろそのほうが嬉しいよ俺は。お前たちも呼び捨てにしてほしいくらいだ」


苦笑いしながらケニーが答えた。


「王子にも立場ってものがあるんすから流石に呼び捨てにするわけにいかないんですよ。いくら六大貴族の家の出身とはいえ」

「子供のころはみんな呼び捨てだったじゃないか」

「本当に小さいころの話じゃないですか…多分十歳の時には王子と呼んでいましたよ」


そう、俺が八歳かその辺の頃にミーシャとケニーの話し方が堅苦しくなった。

今は慣れてしまったが、当時は本当に落ち込んでいたのを今でも覚えている。

その中でも、アルファードは変わらない話し方で俺に話しかけてくれた。

あの時の俺にとっては、そんな些細なことが心の支えになった。

久しぶりに会って変わってしまっているのではないかと心配したが、その必要はなかった。

少し乱暴になったが、崩した話し方で話してくれる友人は貴重だ。

俺の隣にいたエレナに気づいたアルファードは、ぶっきらぼうに口を開いた。


「ところで、そいつは…」

「エレナです。はじめましてアルファード様」

「……なるほどな」


昼ごはんに誘おうと口を開こうとするより先に、アルファードが口を開いた。


「俺と戦え、エレナ」

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