序章 蛍火
はじめまして、ハマです。
初投稿ですので、お手柔らかにお願いします。
投稿頻度はまだわかりませんが、早く投稿するよう努力します。
まだ日が完全に昇っていない頃、馬車が揺れた振動で目を覚ました。
馬車の外周りを覗き、おおよその位置を把握しようとする。
帝都セイラムに向かい続け明日には到着するだろうと言われていたが、辺りはまだ暗闇に包まれていていた。
慣れない馬車移動を丸1日強いられているため、睡眠をとっても休まった感覚が殆どなく、体は思考するより休息を望んでいた。
数秒夜空を眺めた後、俺の背は再び吸い込まれるように箱の床へと落ちてゆく…
その時だった。
馬車が止まり御者の一人が叫んだ。
「賊だ!!!全員構えろ!!!」
夜の野原を馬車の集団が渡っていたところを、賊が奇襲した。
「貴族を探し出せ!生け捕りだ!」
「身代金が目当てか?」
そうやって俺は賊の一人に話しかけた。
「カミュ様!?いけません下がってください!!!」
「…カミュ……って王国の…ハハッ、なるほどなぁ。お前ら、こいつは全力で捕らえろ。捕まえれたら阿保みたいに金が手に入るぜ」
その一言に仲間の賊たちの目つきが変わった。
ならこの大男が…
「お前がこいつらのリーダーか」
「そう見えるんならそうだろうよ」
「作戦自体は悪くない。暗闇を利用し待ち伏せる。単純だけど、集団でこれを成立させるには集中力、忍耐力は不可欠だ。一つ失敗があるなら、俺たちを襲ったことだ」
「別に怖かねぇよ、俺もそれなりに腕っぷしには自信があるんでね」
「そうか…けどこれは集団戦だ。俺一人に気を取られ過ぎたお前の負けだ」
ガッッ
その男の体を背後から貫いた刃物が、骨と重なり合った鈍い音を出した。
その姿を見た残りの賊が全員逃げる姿勢をとった。
しかし…
「グッッ!?ゥ…ガァァァァァァ!!!」
男は深く刺さった小刀を無理やり抜き取り、刃を突き立てた俺の仲間に反撃の一撃を与えようと巨大な刀を振り下ろした。
それを躱し、彼女は俺を守る体制に入り、相手も自分たちのリーダーを守る体制に入った。
「大丈夫か、エレナ」
「あの程度の攻撃、問題ありません。しかし、あの男賊にしては戦えます。確実に仕留めたと思いましたが、内臓を避けられました」
やはりそうか、戦場に慣れ過ぎている。
ということは兵士崩れの男あたりか。
「いい動きをするな、うちの騎士として雇いたいくらいだよ」
「つい最近まで…ハァ…王国で騎士見習いしてたんだぜ?…まあイーナ家の落ちこぼれだけどよぉ」
「てことは王国貴族か。逃がすわけにはいかないな、立場的にも」
「確かにこれからってとこだが…ゼェ…この傷で戦うほど馬鹿じゃねぇんだ俺も…ガハッ…ハァ野郎ども!!!撤退だぁ!!!」
すぐに賊たちはいくつかの小隊に分かれ撤退し、賊のリーダーであろう男もこれに紛れ撤退した。
追跡を行おうと考えたが、辺りが暗く土地勘のない場所での戦闘はこちらが不利であり、危険であるため帝国の騎士団に討伐を要請するという方針で話が固まった。
「カミュ様、お怪我はありませんか」
「問題ない、おしゃべりしてただけだしな」
「そうですか」
「それより、あいつイーナ家の人間だって言ってたよな?」
「はい、グリードレッド領の小貴族ですね」
「詳しく話を聞く必要があるな。思ったより早く帰省する羽目になるかも」
「何処であろうと、私はお供いたしますのでご安心を」
「ありがとう。めちゃくちゃ頼もしいよ」
「…お体も冷えるでしょうし、馬車にお戻りください。あと数時間で到着しますので」
「お前はどうすんだ?」
「私はあなたをお守りしなければいけないのでしばらくは外に…」
そう言いかけたところで、彼女はあくびを抑え込んだ。
バレていないかこちらを覗き込んだが、当然バレている。
「…お前も休めよ疲れてんだから」
「いえ、まだ大丈夫ですので…」
「疲労を蓄積してたら十分に働けなくなるぞぉ?」
「し、しかし」
「ならしばらく話し相手になってくれ。馬車の中他に人がいなくて暇なんだよ。本も全部読んじまったし。」
「そういうことならまぁ。でも三十分だけですよ?」
「十分さ、早く来いよ」
彼女は俺の馬車に乗り込んだ。
その時点で俺の勝ちだ。
この寒さを通さない空間を、疲労困憊の体でやり過ごそうとしても無駄である。
…十分ほどして彼女の意識は落ちた。
明日から同じ学校の生徒として、新たな門出を迎えるのだ。
彼女にだって休息は必要である。
眠ったのを確認して安心した俺は、そのあとすぐ再び眠りに入った。
同時刻、奇襲に失敗した賊たちは自分たちの根城に戻ろうとしていた。
「ハァハァクソッ!右胸が痛むぜクソがッッ!!」
「ヴィレス様、もう少しですので到着次第すぐ手当を…」
「その必要はない」
見知らぬ者が突然そう囁いた。
咄嗟にヴィレスたちは一歩下がり武器を構えた。
「誰だてめぇ?仮面を外して素顔を見せろ」
「そういうわけにいかない」
「八ッ、そうかよ。なら力づくだ」
ヴィレスが合図を出すのと同時に数人が火を灯した。
その炎に残りの小隊全てが集結し、仮面の者を取り囲った。
「見たところお前の周りに仲間はいなさそうだ、なら物量差で潰す」
「賊に留めておくにしては惜しいな、仲間にしておくか」
「殺れ!!!」
一斉に賊たちが攻撃を始めた。
「この人数で攻撃を被せないのは見事だ、お前たちは利用してやる」
仮面の者の周りに炎が渦巻き始めた。
賊たちが灯したものとは比べ物にならないほどの業火。
彼らは察した、死ぬのは自分たちだと。
「あまり騒ぎを大きくしたくないからな、最小限に抑えなければ」
逃げるという選択肢を与えられる間もなく、仮面の者が放出した炎は、一瞬にして辺りを焼け野原にした。
この範囲内で生き残ることは、並の人間では不可能であった。
「…死んだふりはよせ、それぐらい気づいているぞ」
その言葉に、ヴィレスは反応してしまった。
「ゲホッ、はぁはぁ…目的はなんだ」
「お前たちを一人残らず殺すことだ。これはその一環に過ぎない」
「そう…か…」
………
そう言い残し、ヴィレスは絶命した。
「死んだか、手間が省けてよかった。癪な手段だが少しでも多く兵力が欲しい」
数秒前、炎で一帯を焼いたように今度は辺りを黒い炎が覆った。
禍々しい炎は賊たちの死体を蝕んでいき、すぐに灰となっていった。
「世界のために殺し尽くせ」
灰よ、我が僕と成れ