親友
俺が全ての天職の効果を読み終わり、本を閉じようとした時、後ろから声をかけられた。
「よぉ、明!元気か?」
「ん、あぁ龍騎か。俺は元気だよ」
この厳つい顔をして、バキバキマッチョなナイスガイは前園龍騎。一応俺の親友だ。
「お前昼食に顔出してないだろ?夕飯くらい一緒に食おうぜ!」
「え、もうそんな時間か。分かった」
どうやら俺は思っていたより長い時間読書に耽っていたようだ。俺は立ち上がり、龍騎と共に食堂へと向かった。
食堂にはたくさんの人がいた。中でも目立っていたのはリアルハーレムを築いていた集団だ。
「なぁ龍騎、うちの学校にあんなモテるやついたっけ?」
龍騎は俺の指差した方向を見て、ため息をついた。
「あれだよ、もともとそこそこ人気のあった高橋が『勇者』になったから人気爆上がり中なんだよ。トーナメントの優勝候補っていうのも大きいんだろ」
優勝者には賞金があるからなと龍騎は呟いた。
俺は学食で「魔物メシ」なるものを食べた。不思議な味がした。なんて名前の魔物を使ってるんですか?って聞いてみたら誤魔化されました。めっちゃ不安なんだけど!?
学食からの帰り道、龍騎と俺は普通にしゃべりながら帰っていた。
「そういえばトーナメント表がもう発表されたらしいぜ」
「え、もう発表されたのか」
「ほらこれ」
「何これ」
龍騎の手には携帯のようなものが握られていた。
「今日の指南受けたら『君たちは偉いな!優良生徒だ!!』って言って渡された」
えぇ、なにそれ全員に配布しないのってどうなの?ちょっとズルくない?ちょっとってよりかなりずるくない?
俺がそれの中を見てみると「今日の連絡」の項目にトーナメント表があった。
「それでほら、明の一回戦の相手……」
俺の対戦相手の欄には「高橋光輝」つまり天職『勇者』の名前があった。
「いいじゃん、燃えてきた」
俺が勇者との戦いに思いを馳せていると、龍騎が覚悟を決めたように話し出した。
「明はさ、勇者になる気ある?」
「え……うんあるよ」
これは咄嗟にでた嘘だ。俺に勇者になる気は全くない。
「俺たちが順調に勝ち上がったら、トーナメントで当たるのは五回戦だ。つまり二人で勇者になって、二人で旅をすることはできないってことだ」
「そっか。一ヶ月経ったら俺たちもお別れか……」
やめてよ。急に悲しくなるじゃんか!
「俺はその旅にお前がいなかったとしても勇者を目指すよ」
「え?」
龍騎は俺の目をまっすぐ見つめて子供のように無邪気に笑った。
「俺さ、不器用だし要領も悪かったから今まで明にはたくさんお世話になってきた。友達になろうって言ってくれたときも。親友だって言ってくれた時も。すっごく嬉しかった。でも……それじゃあダメなんだ。いつまでも明の背中を追いかけてたら、俺は成長しなくなっちまう」
笑っていたはずの龍騎はいつの間にか悲しそうな顔をしていた。
「いいきっかけだと思うんだ。この異世界転移は。だから……一ヶ月経ったらじゃなくて今すぐお別れしよう。俺たちは今、この瞬間からライバルだからな!!じゃあな!!」
そう言って走り出した龍騎の背中を俺はただただ見つめることしかできなかった。
大浴場で風呂に入り、自分の部屋のベットに寝転がった。お別れは……やっぱり悲しい。
「ねぇ、なんで男女で同じ部屋なのかしら」
声は俺の上から聞こえる。何を隠そうこれは二段ベットだ。
「知ってるか、道明寺。うちの学校は男子も女子も奇数なんだ」
「そう、つまり私たちはあまりものってことね」
「仕方ないだろ、俺たちが本を読んでいる間に部屋決めが終わってたんだから」
「変な気起こさないでよね」
「戦っても勝てないんだから起こせないだろ」
「それもそうね、それじゃあおやすみ」
上から寝息が聞こえてきた。もしかして本気で信用されてるってこと?え、ちょっと嬉しいんだけど……。って待ってもしかしてお前なんて寝てても勝てるわっていう遠回しで高度な煽り?え、どっち?ねぇどっち!?
朝起きると、道明寺はすでに起きていて本を読んでいた。タイトルには「武闘家の極意」と書かれている。道明寺は俺が起きたことに気がつくと本を渡してきた。
「はいこれ、私は読み終わったわ」
「ん、あぁ、ありがとう」
「武器との共鳴」を受け取った俺は机の上で空になっている食器を見た。二人分。……ん?二人分?
「おい道明寺、俺の朝食はどうした?部屋に運ばれてくるって聞いてたんだが」
「そうね、美味しい朝食だったわ」
「「……」」
「……俺の分は?結構楽しみにしてたんだけど」
「あら?見て分からないのかしら」
はい、殺す。
「俺としてはもっかい模擬戦やってもいいんだぜぇ!!?」
「嫌よ。だって時間の無駄じゃない。あなたじゃ練習相手にもならないわ、弱いもの」
ですよね。知ってます。調子乗りました。あー、やめて俺の前で優雅に食後の紅茶を嗜むのはやめて!
読んでくれてありがとう!!