天職 魔導士
初級魔法を五十発くらい撃っただろうか。とりあえず満足した俺は次の本を手に取ろうとした。
「「あ」」
同じ本を取ろうとした奴がいて、俺たちは手と手が触れ合った。待ってこんなラブコメ展開求めてないんだけど。俺は強くなりたいだけなんだけど!?
「じゃあ私のが早かったので私がこの本読みますね」
え待って、それは違くない?誰がどう見ても同時だったけど?なんなら俺の方が少し早くなかった?え、ちょ、そのまま走って行かないで。え、待ってちょ、
「ちょっと待てーい!!!」
その女が振り返る。
「何かしら?」
俺は少し間を開けて言ってやった。
「俺も読みたんだけど」
「こういうときは女性に譲るのがいい男ってやつよ」
くっ、これじゃあ俺が悪い男みたいじゃないか。
「な、ならこういうのはどうだ?これから模擬戦を行う。それに勝った方がその本を読める」
女は少し考えていいわよと言った。勝った。この女はまだただの一般人だ。だが俺は違う。初級魔法は一通り使えるようになったし、魔法の知識もある。負けるはずがないのだ。
俺たちは模擬戦用の結界へ向かった。この結界の中では人が死なない。心臓を刺されても首が飛んでも元に戻るのだ。でも痛みは普通に感じるらしい。なんでそこだけ不親切なんだろ。
リングに立った俺たちはお互いに向かい合った。
「お前武器は?」
俺が聞くと女はカッコつけて言う。
「私は自分の拳しか信じないわ!」
俺が女の手を見る。そして女の顔を見る。
女が自分の手を見る。そして俺の顔を見る。
「ごめん。お前武器は?って聞いた後に見つけちゃったんだけど……」
「……強いて言うなら、メリケンサックかしら」
強いて言わなくてもメリケンサックじゃねぇか。てか武器メリケンサックってなに?めちゃくちゃ物騒じゃない?
結論から言おう。
負けた。ボロ負けた。ファイヤーボールとか当たんないし。なんかあいつめっちゃ俊敏だったし。てか魔法撃ってるとき刀邪魔すぎるんだけど。あー、詠唱覚えよ。そして武器を媒介に魔法を使うんだアハハハハ。
「あなた……勝負を仕掛けてきた割には弱いわね」
はい、傷付いた。もう立ち直れない。
その女には俺がよほど惨めに見えたのだろうか。一冊の本を持ってきて俺に渡してきた。
「私が『武器との共鳴』を読んでいる間にこれを読んでおくといいわ」
その本には「天職について」と書かれていた。
「私が初めに読んだ本よ。結構勉強になるから悲しんでないでぜひ読んでね」
あ、「武器との共鳴」を譲ってくれるわけじゃないんですね。
その女は何処かに行こうとしたが、ふと立ち止まってこちらを振り返った。
「そうだ。名前!私は道明寺かりん。あなたは?」
「……明。東雲明」
「そう、向上心があるのはいいことよ、明。トーナメント楽しみにしてるわ」
なんか……煽られているようにしか聞こえん。
「天職について」には現存する天職とその効果が書いてあった。どうやら天職は名前だけでなく、ちゃんとした効果もあるらしい。たくさん天職があるが今回は五つだけ紹介する。
騎士 反射神経の向上、身体能力小アップ
武闘家 身体能力大アップ
勇者 反射神経の向上。身体能力中アップ、傷の自動回復
賢者 神級魔法を含めた攻撃魔法の行使、魔法発動時の消費魔力半減、多重詠唱
魔道士 神級魔法を含めない攻撃魔法の行使
んー弱い。魔道士が他の天職と比べて明らかに弱い。いや俺もなろう系には憧れてるから周りの人から馬鹿にされるくらい弱い天職とかならまだいいよ?主人公っぽいし。でもなんか、絶妙に弱い。これじゃあただ俺が不遇なだけじゃん。え、てかなに俺は努力しても神級魔法使えないし、同時に二つ以上の魔法使うこともできないってこと?困るんだけど。すっごい困る。
読んでくれてありがとう!!
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