スタート
何とかマコトくんをスタートさせようと応援する俺。
少しづつ、物事は動き出して。
マコトくんは急にがっかりした顔になった。
『そんなの無理だよ。勉強もしてないしさ。それに今年の単位たりてないから、行っても来年留年だよ。きっと。』と、マコトくんがポツリポツリ言った。
『自信ないよ』
俺はそれを聞いて笑った。
『あのなー、学校は机で勉強するためだけの場所じゃねーんだぞ。勉強なんてしなくていいよ。
留年なんて気にするな。
勉強してないんだからしょうがねーじゃん。そんなのどうでもいいよ。
教室がイヤならそこには入るな。
学校には図書室も、体育館もあるんだよ。
美術室で絵を描いててもいいんだよ。先生が描いてていいよって言ってくれたらな!』
『そして、学校には必ずな。
よく聞けよ!
部活ってものがあるんだ。そして、必ず!絶対な!お前の学校にもバンドやってる部活があるはずだ。
それに入りに行け。
バンド始めろ。』
そう言った。
マコトくんがポカーンとした顔で『バンド?』と、繰り返した。
『あのなー、ギターだけのバンドってないじゃん。
ベースだのドラムだのボーカルだの必要だろ?
ここで弾いてるだけじゃ、無理だからさ。
お前、明日から学校行け。
お前のギターはすごくいいから。うまいからさ。
すぐにバンドメンバー見つかるよ。
そして、学校でバンドだけやって帰ってこい。
それだけでもな、学校行ってるってことになるから。
マコトくんのとーちゃんさ、きっとギターを認めて買ってくれるよ』と言った。
正直、マコトくんのとーちゃんがギターを買ってくれるのかは謎だけど。
学校に行けば認めてくれると思ったんだ。
マコトくんは急に頬に血の気がさし、大きな声で話し出した。
『バンド!やってみたかったんだ!
ベースとかドラムとさ、音を合わせてみたかった。
いつかバンドの発表できる時があるかもしれないよね!ここには、ライブハウスなんて無いから、公民館かな?そこでもいいや!
明日から学校に行ってみるよ!ギター持ってないけど、学校にあるのかなー?』と、心配そうに言った。
そしたら、ずっと聞いていた恭一おじいさんが今あるギターの3本の中の1本。
そんなに高くないと言っていたPPSを抜き取って
『コレ、持ってけ。マコトにやるよ。久しぶりに学校に行くお守りにしろ。』と言って、笑った。
マコトくんは『ありがとうございます!』と、何度も頭を下げて、嬉しそうに抱えた。
その夜、恭一おじいさんが珍しく俺をほめてくれた。
『学校を提案できたのは良かったなー!
お前、やるじゃねーか!見直したぞ!』と言って、俺の頭をぐしゃぐしゃさせた。
次の日の朝、7時にマコトくんがやってきた。
制服を着て、背中にギターのギグケースを背負って、斜めがけのカバンを持って。
俺に挨拶に来た。
『今から学校に行ってくるよ。バンドのメンバーに入れてもらえるようにさ。しっかり弾いてくる!メンバーに入れてもらえたら、すぐに学校から帰ってくるね』と、笑って言った。
俺も『ガッツリ弾いてこいよー!』と、言いながらお互いの腕と腕をクロスさせた。
マコトくんのお母さんの軽自動車で駅まで行くといい、走り去るのを見守った。
俺は心配でもあった。
バンドに無事に入れてもらえますように。
それだけを願った。
ずっとヒヤヒヤしながら待ち。
その日の夕方の6時に、マコトくんは来た。
『学校にバンドやってる部活あったんだよ!そこに行ってさ、入れて欲しいって頼んだ。
弾けるのか?って、聞かれてね。
弾いてみたら、うまいなー!お前!って、ほめてくれて。
入部も大歓迎って、言ってくれて。
バンド今度さー、新しく組むからお前ギターやれって言ってくれた!
それからね、おじさんからもらったPPSね、いいギター持ってるねって、ほめられたんだ。
ベースの人もドラムの人もいてね。
ボーカルの人は歌がうまくて驚いた。
キーボード弾いてるのは女の子でちょっと可愛かった。』と、照れながら笑って言った。
『マコトー、お前、その子に惚れたのかー?』と、恭一おじいさんが笑って言った。
『俺が惚れてるのはPPSだけだよー』と、焦ってマコトくんが答えた。
その焦りっぷりがおかしくて、俺は笑った。
マコトくんは、毎日学校に行くようになった。
ギターを背負って。
休みの日も、練習しにスタジオに行くようになり、俺との時間は短くなった。
だけど、学校帰りにいつも寄ってくれて、今日あったことを嬉しそうに話してるのを見るのは幸せだった。
勉強も少しづつするようになったみたいで。
テストが近いとギターは弾かないで、ぶつぶつ英単語を暗記してるようだった。
英語は好きだとマコトくんは楽しそうに言っていた。
英語の曲の意味がわかると楽しい!と、いい。
英語の教科書は洋楽の曲だった。
数学や物理は分からないところがあると、俺だって分からないのに俺に聞きに来た。
2人で分からねーって、言ってるのを恭一おじいさんは『俺に聞くなよ!数学とかじんましんでんだから!』と、笑いながら見ていた。
かずはおばあさんはたまに4人分の夕ご飯を作ってくれて。
皆でご飯を食べた。
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