3日目 夜明け
新しい朝がまたきた。
俺はある人に会いに行く。
その人の名前はマコトくん。
たぶん同い年。
なんで会いにいったかというと。
かずはおばあさんの誕生日会のよる。
俺は眠れなかった。
色々と考えてしまった。
どうなんだろ?
旅に出たい気持ちはどうなった?
恭一おじいさんとかずはおばあさんに別れを告げて、先に進めたいと思ってる?
いや。今。
そんなことちっとも思わなかった。
ここで大切なことを学びたいとすら思っているのだ。
大切なことって。勉強とかじゃなくて。
そんなもんじゃなくて。
でも大切なもんで。
それを学びたいと思った。
そして、それが、今の俺ができる学びのような気がした。
明日、恭一おじいさんとかずはおばあさんに頼んでみようかな。
ここにしばらく置いてくださいって。
嫌な顔されるかな。
お金渡したほうがいいかな。
かえって失礼かな。
でも、食費とかかかるしな。
なーんてことをグルグル悩んでいたら眠れなくなってしまった。
横で黒猫のネコがいびきをかいて寝ている。
『なー、お前もここにしばらくいたいだろ?優しいもんな。恭一おじいさんとかずはおばあさんは。』そう言いながら、ネコの頭をクリッと撫でた。
眠れないまんま、朝の4時になってしまった。
そうだ、ここの明け方を見ていない。
そう思ってそっと玄関から外に出た。
ピシッとした空気が、俺の心の中の空気まで入れ替えて解放させてくれる気がした。
かずはおばあさんが世話してるんだろう。
家の敷地の入り口に、俺には名前のわからない花がたくさん咲いていた。
分かるのもあった。
木香薔薇。これは、俺が大好きで名前を知ってる数少ない花だ。
『へー気がつかなかった。木香薔薇咲いてたのか。』ハーブも植わってるようだった。
ホウキを玄関脇に見つけて、掃くことにした。
サッサと音を立てて掃いていくと、どんどん明るくなってきた。
よし!絶対に今日頼んでみよう!
そう、決意して、綺麗になった玄関前を後にして、家の中に静かに入った。
家に入ったら、驚いたことにもう、恭一おじいさんは起きてお茶を飲みながらテレビをつけていた。
テレビはただついてるだけで、おじいさんはひっきりなしにかずはおばあさんに話しかけていて、誰も見ていなかった。
かずはおばあさんも何か楽しげに言い返しながら、朝ごはんを作っていた。
今朝は、目玉焼きとウィンナーみたいだ。
おはようございますと俺が言う前に、俺のお腹が鳴ってしまった。すごくでかい音で。
恭一おじいさんは、大笑いして。
『まあ、ここに座れ。もうすぐ朝飯できるから。それまで茶でも飲んでしのいでろ』と話しかけてきた。
俺は腹をぐーぐー言わせながら。
でも、早く伝えなくちゃと焦り。
『どうか、しばらくの間、置かせてもらえませんか?
食費ならお金払います。ちゃんと働いて色々と手伝いますので!』と、言ってお辞儀した。
恭一おじいさんはニッコリ。本当に優しくニッコリ笑い『好きなだけここにいな』と、言ってくれた。
食費は払うことにした。
かずはおばあさんは『食費なんていいから』と、言ったのだが、恭一おじいさんが『それじゃ、こいつが居づらくなるだろ?受け取ってやりな』と、言ってくれた。
俺は、嬉しくて!
この日の朝ごはんは俺の好物のウインナーだったしご飯をたくさん食べた。
それを見て、かずはおばあさんは『食費もらったんだからウインナーたくさん買わなくちゃね』と、笑った。
恭一おじいさんがまだ、仕事をしてるとはこの時思わなかった。
実は、恭一おじいさんは執筆してお金をもらっていた。
長い小説を書いてるようだった。
執筆活動が煮詰まってくると納屋に行って、カラスの様子を見るのが気に入ってるようだった。
たまに恭一おじいさんがカーカー言うのが母屋にまで聞こえてきて、かずはおばあさんと笑った。
おれは、いろんな手伝いをした。
豆の筋取りから、高いところの電球の交換、そして、草むしりもした。ネコはもう、ずっとここのねこだったかのように、のびのび昼寝したりしていた。
たまにカブ号に乗って、1時間半走り、ショッピングモールに1人でいった。
ケーキを3つと(1つは必ずアップルパイ)、果物を買って帰った。
恭一おじいさんは、柑橘類は苦手なようでグレープフルーツとか絶対に食べずに、バナナとかをバクバク食っていた。イチゴは砂糖と牛乳をかければ食べてた。
そんなある日、近所に俺と歳の近い子がいることを知った。
恭一おじいさんと、かずはおばあさんが話してるのを聞いた。
『マコトちゃん、心配ねー、家から出ないみたいで。学校行かないのも心配だけど。
家を出ないのはね。心配よね。』
『俺たちが心配してもしょうがねー。
うちの子じゃないんだから。』
俺はその子に会ってみたくなった。
マコトくんて、言うのか。
会いにいっても、会ってくれない気がした。
でも、その子の家を教えてもらい、カブで行くことにした。
家に着いてピンポーンと押すと、まことくんのお母さんが出てきた。
疲れた顔。
ずいぶんと笑ってないんじゃないかな。そんな、表情をしていた。
『マコトくんに会いにきました!』
俺が言うと。
『多分、あの子はあなたに会わないと思うわ。』
と、言われた。
ドアの隙間に足を突っ込み、2階に向かって叫んだ。
『まことくーーん!あそぼーー!』
すると、驚いたことに2階のドアが開いてバタンと閉まる音がした。
そして、階段を降りてきた。
玄関までやってきて。俺の目の前にマコトくんがいた。
マコトくんは。
この時のマコトくんは、お世辞にも楽しいやつとは言えないような、暗い顔つきをしていた。
まるで、世の中の不幸、全部背負ってますみたいな顔をしていた。
俺は『マコトくん?』と、マヌケな質問をした。
彼はうなずくと。
俺に言った。
『お前となんか遊ばない。もう来るな』
そう言って、また、2階の部屋に入ろうとしていた。
その時になんとなく俺はもう一言叫んだ
『カラスとバイクとネコに興味はない?かっこいいんだよ!』
そして、また階段を降りる音。
そこに、明らかにちょっとだけさっきとは違うマコトくんがいた。
俺は早口にまくし立てた。
『カラス!カラス近くで見たことある?目とかかわいいんだよ!肩にさ、止まってあそぼーって鳴くんだよ!バイクで走ってる時もさ!肩に止まっててさ!みんな見るよ!変なのーー!って、猫もいるよ!まっくろくてさ!カラスみたいなんだ。名前はネコって言うんだけどね!あ!カラスも名前はカラスっていうんだ!』
すると、ポツリとマコトくんが言った。
『カラス見てみたい』
俺は、飛び上がりそうに喜びながら
『見せてあげるし、肩に止まらせてあげるよ!恭一おじいさん家知ってる?そこに俺いるからさ!遊びにおいでよ』
そう言った。
これは、賭けだった。
また、部屋に入ってしまうかもしれない。
多分今日一回の訪問じゃマコトくんは来ないだろうし、また、部屋に入ってしまうだろう。
でも、ダメでもともと!
しばらく沈黙の後、
マコトくんは聞いてきた
『お前。学校は?』
俺は笑いながら『やめたよ。』と、答えた。
すると、マコトくんはため息をふーーっと大きく吐いて。
『俺、学校行きたくないんだ。それで、苦しくて悩んでんだけど。』
『やめたら死んじゃうような気がして、学校に行かなくちゃって思うんだ。でも、もう無理なんだ』と、言った。
俺が『やめても死なないよ。学校なんてさ。
行きたくなったらさ、また行けばいーじゃん』と、答えた。
そして、沈黙の後、突然。
また聞いてきた。
『お前、学校やめるの怖くなかったのか?挫折感でいっぱいにならなかったのか?』
俺は『挫折感なんてならないよ。そんな小さいこと、挫折なんて言わないよ。』と、答え。
『これからきっともっと大きい失敗と挫折味わうんだろうから大したことないよ。』そう真面目に言った。
すると、マコトくんがふーーっと息を吐いて上の方を見上げ。
ポツリといった。
『お前と遊びたい』
最後まで読んでいただきありがとうございます。