1日目 雨の夜
慣れないバイクで、雨しかも夜になってしまい困る俺。
ネコもいるしカラスも。
どうしようかと困っていたところなんと!
山に向かってひたすら、バイクを走らせていると。
どこから山だったのか。
木が多くなったなーと、思っていたらいつのまにか山だった。
坂道が増えて。
少しづつ民家と民家の間に緑が増えて。
畑も増えて。
湖に着く頃には、民家はなく曲がりくねった道が俺の前に伸びていた。
ここで、現れた分かれ道。
どっちにいこう。
俺はちょっと心細くなっていたので(本当に俺ってやつは!情けない!)この先に集落がありそうな方の道を選んだ。
ただのカンで。
この時のカンは正しかった。
後から思っても、ついていたとしか思えない。
この時、雨が少しだけポツリポツリと降ってきていた。
スピードを出して、あるのかわからない次の集落を目指した。
すると、また、少しづつ家が現れて、集落にたどり着いた。
少しほっとして、大きな看板を見た。
日帰り温泉。
うわー。少し雨も降ってきたし。
休むか。カラスやネコも疲れてしまうだろうし。
休ませることにしよう。
俺はその日帰り温泉に立ち寄ることにした。
まさか、この後にあんな展開が待ってるとは、その時の俺は思わずにいた。
日帰り温泉には、露天風呂もついていて、のんびり手足を伸ばした。
まだ、でも、雨が強くなってきてる。
どうしよう。
宿って、ネコがいても泊まれるのかな。
無理かな。
どうせなら、この辺りで今夜は泊まりたいな。
風呂から出たらスマホで調べようか。
そんな事を考えて、空と腕時計を交互に見ていた。
どうしよう。どうしよう。
いざとなったら、家に帰ろうか。
夜中には着くだろう。
腹もすいてきた。
『おい、にいちゃん!あんたどこからきたんだ?』
頭にタオルを乗せた、おじいちゃんと同じくらいの年齢の人が、笑顔で話しかけてきた。
『俺は住所と。そして、ネコとカラスを連れてバイクで今日から旅に出た事』をその笑顔のおじいさんに話した。
おじいさんは『カラス!ネコ!へーーー!』と、驚いて、空を気にしていた。
その時には結構雨が降っていたから。
日も暮れていた。
おじいさんはちょっと考えて『おい、にいちゃん!
もうかなり日が暮れているし、なにより雨がすごい。こう言ったら悪いけど、バイクの運転が得意そうには見えないし。』と言って笑った。
『どうだ、今夜はうちに泊まるか?それなら、ネコも平気だし。納屋があるからカラスを入れとけばいい』
『家には俺くらいのばあさんがいるだけだから、気を使うな。どうする?』と、願ったりかなったりのお誘いを受けた。
俺はバイトの先輩に言うような口調で『もちろん行くっす!』と、答えた。
すぐに風呂から出ようとすると。
おじいさんは続けて『ただ、まだ風呂場から出ちゃだめだぞ。』
『ばあさんの風呂は長いんだからな。』と、笑ってそのしわくちゃな顔を湯船のお湯をくんで洗った。
休憩室で、初めておばあさんと会った。
おじいさんはぶっきらぼうに『こいつの行くところ今夜ないって言うから、うちに泊めさせるぞ』だけ言った。
おばあさんは『あら!そうなの!お客さんね!なら、お化粧してくればよかった!!』と笑ったり、『夕ご飯を気に入ってもらえるといいんだけど。』って、心配したり忙しく話し続けていた。
俺は『好き嫌いないですから!』と、おばあさんを安心させた。
本当はサバが苦手だったんだけど、黙っておいた。
おじいさんとおばあさんは、小さな赤い車に乗っていた。なんの車かはこの時はまだ、わからなかった。
俺は、雨の中の運転に必死だった。
おじいさんとお婆さんは、雨の中、2人で笑いながら楽しそうに車に乗り込んでいた。
ぶっきらぼうだったおじいさんは、どこにもなく。
優しく笑っていた。
それをぼんやり見ながら、仲がいいなー。
こんな夫婦になりたいと、彼女もいないのに思った。
7分ほど走るとおじいさん家に着いた。
ボロボロの家を想像していたのに。
いやいや、なんだか立派で今風だった。
そして、小さな納屋まで庭にあった。納屋に通されて、ここでカラスを休ませるといいと、雨風が来ない場所を使われてくれた。
餌と水をあげて。
『さあ、家に入ってー!』と、おばあさんに言われ、フカフカのタオルを貸してくれて、雨で濡れた体や、荷物を拭いた。
玄関は、なんだか俺にはわからないハーブの匂いがした。
あんまりいい匂いだから、胸を広げて深呼吸した。
それ見て、おばあさんが『これは、ラベンダーよ』と、教えてくれた。
へー!うちなんか芳香剤だから!全然違うなー!と、感心しっぱなしだった。
あなたは、お客さんだけど、家のようにくつろいで欲しいから、スリッパはいらないわね?と、裸足でぺたぺた歩く事を許されて、実際、その方が気持ちよかった。
ネコは家中の窓の確認してから、家に放された。
ネコはすぐにおじいさんの膝の中で寝てしまった。
夕ご飯には、サバは出てこなかった。
鶏とジャガイモ、玉ねぎを洋風に煮たものだった。
辛子をつけて食った。
あと、キャベツの浅漬けが漬けてあった。
あんまり、うまくて俺は悪いなと思いつつもおかわりした。
実は3杯。
みんなの分のご飯が無くなっちゃうかなと、遠慮しようとしたけど。
いいから!食べてーと、嬉しそうにおばあさんに言われて、つい食ってしまった。
その夜は、おじいさんとおばあさんに、学校をやめて旅に出ようと思った事。
行き場所は決めていない事。
そして、泊めてくださってありがとうございます。と、丁寧なつもりだけど、丁寧にお礼を言った。
夜、綺麗なシーツを敷いてくれたお客様用布団を小さめの部屋に敷いてくれて、ネコと一緒に暖かく寝た。
しばらく俺は起きていた。
ワクワクした思いつきをしてしまったから。
お礼に!お礼にさー!
何か労働を提供しよう!
明日はそれをしよう。
旅なんて焦らないし、急いで行かなくていいし。
そうだ!入り口にあった少し大きな木。
あの木の枝おろしとかどうだろう?
それとか、キッチンの換気扇の掃除とか!
どれもやったことがある。
母が絵を描いて仕事してるような時は、掃除とかは頼まれて、俺がしていた。
枝おろしもおじいちゃんとやった。
何か!何か!働こうーーー。
喜んでもらえますように。
そう思いながら、しあわせな気持ちで眠りについた。
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